いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、3月13日〜19日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「欧米の美術館が少しずつ再開へ」「香港最大の美術館M+が完成」「NFTの熱狂の余波」「できごと」「アートマーケット」「おすすめの展覧会、アーカイブ」の6項目で紹介する。
◎ロサンゼルスで順次開館へ
1年以上美術館が閉館されていたロサンゼルスで、やっと3月15日から25%のキャパシティで美術館が開館できるようになった。陽性者数が落ちてきたことで、ロサンゼルス地区のティア(=感染者数および検査陽性率にしたがって定められる階層。紫→赤→橙→黄の順番)が、一番制限が厳しい紫ティアだったのが赤に変わったため。ただ、美術館は開館準備もあり、今後順次開館していくとのこと。
https://www.artforum.com/news/los-angeles-museums-to-reopen-at-25-percent-capacity-85263
◎ヨーロッパのおすすめ展覧会
ヨーロッパでは少しずつ美術館が再開しはじめているおり、今実際に美術館に行って見ることのできる展覧会の中から8つのオススメ。ドイツ、スイス、ノルウェー、ベルギーから。個人的にも知らない作家がほとんどだが、どれも見たくなるものばかり。
https://news.artnet.com/exhibitions/shows-to-see-europe-march-2021-1950242
◎6月のロンドンではイベント盛りだくさん
6月4日(金)から6日(日)の週末に、初のロンドンギャラリーウィークエンドとしてロンドンの3つのエリアを金、土、日それぞれにフィーチャーして多くのイベントを開催予定。イギリスではワクチン摂取がすすんでコロナがおさまりつつあるようだが、これがシーンの再開を象徴できるか。
https://news.artnet.com/market/deubt-london-gallery-weekend-1952681
◎文化支援の国別ランキング
コロナ禍での文化支援が国別にどれだけあったかというのをまとめて、グラフにした記事。総額ではアメリカが一番多かったようだが、人口一人当たり額ではフランスが一番多かった(約1万3000円)。
https://news.artnet.com/art-world/pandemic-culture-bailouts-1950985
◎M+がついに完成
香港のM+美術館の建物が、計画開始から10年以上を経てついに完成。ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計。2017年に完成予定だったが、建設が大幅に遅れた。国際的な渡航制限の状況いかんに関わらず今年後半に開館予定。この10年の間に、香港の政治状況が大きく変わり、美術館のあり方にも影響が出るのではとの懸念も。
https://www.theartnewspaper.com/news/m-to-open-2021
◎表現の自由 vs 政治家
今年後半に開館予定の香港のM+の館長が、反体制的なアイ・ウェイウェイの作品などを含むコレクションの展示について、アートの表現の自由は守られるという表明をしたことに、中国本土よりの政治家から批判が向けられている。その状況を受けてM+を含む西九龍文化地区のCEOが立法会で答弁に立った。開館前からすでに攻防ははじまっている模様。
https://www.scmp.com/news/hong-kong/politics/article/3125854/hong-kong-leader-vows-protect-freedom-expression-pro
◎Beeple作品に痛烈批判
約75億円で落札されたBeepleのNFT作品だが、その5000枚のイメージを一つひとつ見ていったアート批評家からの痛烈な批判記事が出た。2007年から13年に渡って1日1枚制作されたイメージ。それを制作年代で4つのカテゴリーに分けられるが、「None is likely to age well」(どれもいい歳のとり方をしない、つまり後年評価が高まることはない)と断言。特に初期のイメージには女性軽視、人種差別的なものが入っており、今後大きな反発が予想される。確かに自分も見ていたのは5000枚をコラージュした結果の1枚の画像だけで、それぞれがどういうイメージなのかは見てなかったし、見ようとも思わなかった。逆にあの5000日を圧縮した1枚こそが表象だと思い込んでいたが、この記事で1枚ずつ見ると印象が大きく変わるのに刮目させられた。
https://news.artnet.com/opinion/beeple-everydays-review-1951656
◎ハーストも早速NFT界に進出
早速ダミアン・ハーストがNFTの大波に乗っかるそう。「The Currency」とよぶ一連のNFT作品群を近いうちにリリースするとのことで、5年前に制作した1万枚の作品がベースに。さらに先日暗号通貨での支払いが可能としたプリント作品は7000枚以上が売れてなんと約25億円の売上。
https://news.artnet.com/art-world/damien-hirst-22-million-nft-cryptocurrency-1951847
◎メトロポリタン・オペラで給与をめぐる紛糾
NYのメトロポリタン・オペラで経営陣とミュージシャンなど従業員の間で給与カットなどをめぐり紛糾している模様。去年4月から無給のあるチェロ奏者は住宅ローンの支払いのために19世紀ロシアの弓を売却した。1割は早期リタイア、4割はNYから引っ越さざるを得なかった。記事内に出てくる、2013年のデータとして、メトロポリタン・オペラのミュージシャンの平均給与が$202,000と2000万円を超えているのは、米国最高峰の劇場とはいえ、ポジティブな驚き。
https://www.nytimes.com/2021/03/15/arts/music/metropolitan-opera-pandemic.html
◎リストラに抗議
シカゴ現代美術館で1月に41人の従業員がリストラされたことに抗議して、去年11月から開催中のグループ展に参加していた6人と一つのアートグループが参加を取りやめた。
https://www.artforum.com/news/artists-pull-out-of-chicago-mca-exhibition-in-protest-of-worker-layoffs-85259
◎MoMAのジレンマ
ジェフリー・エプスタインとの深いつながりが明るみに出て、辞任への圧力が高まっていたMoMAの理事長のレオン・ブラック。今年7月での任期終了に伴い理事長を辞任してはと他の理事数名が働きかけはじめた。MoMAとしては、彼の巨額の寄付と大コレクションを失うジレンマ。
https://nypost.com/2021/03/14/moma-trustees-want-leon-black-to-step-down-amid-epstein-ties/
◎パワハラでギャラリーを去る
昨年にパワハラなどで大きな批判を浴びていたペースギャラリーのトップディレクター2人がギャラリーを離れることになった。Susan Dunneは辞任だが、Douglas Baxterは外部のアドバイザーに留まる。同時に新しい経営陣が発表されたが、本当に変わることができるかは未知数。
https://news.artnet.com/market/pace-gallery-executives-accused-of-abuse-depart-company-amid-broader-restructuring-1952731
◎Performaは屋外で開催へ
NYのパフォーマンスアートのビエンナーレであるPerformaは、今年はすべて屋外で行われるとの発表。時期もこれまでの11月から1ヶ月早めて、温かい10月に。移動を最小限にするためにも参加作家はみなNYの作家にして、テーマもコロナでNYに起こった変化になるとのこと。
https://news.artnet.com/art-world/performa-biennial-will-return-fall-will-take-place-entirely-outside-1952481
◎アブラモヴィッチとwetransferのコラボ
マリーナ・アブラモヴィッチが電子ファイル転送サービスのwetransferと組んで、電子ファイルをアップロードしたりダウンロードしたりする間の画面で、彼女のマインドフルネスの手法を伝えたり、他の作家の紹介をしたりするそう。久しぶりにあのサービス使ってみるか。
https://news.artnet.com/art-world/marina-abramovic-partnered-wetransfer-1952758
◎ミレニアル世代のコレクターの購入額は最多へ
アート・バーゼルが出した去年のマーケット分析をかいつまんだ記事。2019年比で世界のアートマーケットは22%減り、2009年以来の大幅な下落だという。ただフェアのキャンセルなどで経費も減って、3割のギャラリーは収益増、2割弱が同等。オンラインの売上が全体の1/4にまで成長したとのこと。またオンラインが増えたことに伴ってミレニアル世代のコレクターの購入額が最多になったなど興味深いトピックが並ぶ。
https://news.artnet.com/market/art-basel-art-market-report-2020-1952001
◎草間彌生のお礼作品がオークションへ
50年代後半に渡米間もなかった草間彌生が無料で診察してもらっていたお礼に日本人医師・廣瀬輝夫に渡した3枚のペインティングと8枚のドローイングが5月にオークションに出る。総額15億円に届く可能性も。2019年に亡くなった同氏は草間と同時期に渡米した、当時NYで数少ない日本語が通じる医者だったという。
https://news.artnet.com/market/kusama-doctor-art-auction-1952358
◎北斎の史上最高値
葛飾北斎の有名な「神奈川沖浪裏」がクリスティーズで推定価格下限の10倍以上の1.7億円強で落札されてアーティストレコード。伊藤若冲の掛け軸も同じく1.7億円強で落札。
https://www.artnews.com/art-news/market/hokusai-auction-record-christies-asia-week-1234587021/
◎4000円が約7800万円へ
コネチカット州のヤードセールで4000円程度で買われた中国の茶碗が、明朝時代の永楽帝のためにつくられたものだということがわかり、サザビーズでのオークションの結果、約7800万円で落札された。これに似たものは世界で7つあり、他の6つはすべて美術館所蔵とのこと。
https://nypost.com/2021/03/17/rare-bowl-bought-at-yard-sale-sells-for-721k-at-auction/
◎私の好きなカルダー作品
MoMAではじまったアレクサンダー・カルダーの回顧展に先駆けて、カルダー財団は大規模な写真のアーカイブをサイトで公開。作品写真だけでなく、カルダーに関連する歴史的な写真数1000枚が年代やジャンルで整理されたサイト。そのデザイナーがお気に入りの写真選んで解説するインタビュー記事。
https://news.artnet.com/art-world/see-iside-alexander-calder-archive-1951465
◎カルダー作品が勢ぞろい
カルダー財団のアーカイブはこちら。数千枚がしっかりと整理され、関連する展覧会などがタグ付けされ、ブラウズするだけでも飽きない。これまで財団の所蔵庫で限られた人にしか閲覧できなかったものが、より便利に誰にでも公開されるいいネットの使い方。今後も写真が追加されていくという。
https://calder.org/archive/all/works/
*来週の「週刊・世界のニュース」は休載します。次回は4月6日(火)更新予定です。