公開日:2022年7月30日

建築に注目したい全国のミュージアム15選。日本を代表する建築家たちの傑作を巡る旅へ

青木淳、妹島和世といった建築家が美術館の館長に就任し、建築の展覧会が美術館で開催されることも多くなった。こうして建築と美術館の蜜月が続くなか、そもそもの接点である美術館建築は日本のなかでどのような歴史を歩み、どのように評価されてきたのだろうか?

海のギャラリー 内観

その数5738軒とも言われる日本全国のミュージアムでいま、リニューアルオープンが相次いでいる(*1)。この記事では、日本のミュージアム建築の潮流をざっくりとらえるため、全国のミュージアムから建築をじっくり鑑賞したい基本の館を15軒選んだ。様々な理由でここでは取り上げ切れなかったミュージアムも数多くあるが、展覧会や作品のためミュージアムを訪れた方々が、コレクションの一部、あるいは常設展示のように建築を楽しむきっかけになれたら嬉しい。

1. 釧路市立博物館(北海道)

思わずドローンで撮りたくなるような奇抜な外観を持つ釧路市立博物館は地元出身の建築家、毛綱毅曠(もづな・きこう、1941~2001)の設計だ。太平洋を臨む丘の上という敷地を得意の風水で読み解き、「金の鳥が羽を広げ卵を抱く姿」として博物館を見立てた。外観ありきな提案に対して博物館としての機能や合理性は保たれるのかと疑問に思うが、左翼に収蔵庫、右翼に展示室、中央に動線が整理され、エントランスの吹き抜けには巨大なマンモスの標本が置かれる。博物館近くには同じく毛綱の「釧路市立幣舞中学校」や代表作の「反住器」「釧路フィッシャーマンズワーフMOO」、さらに本物のタンチョウを見に湿原まで足をのばせば「釧路市湿原展望台」があり、観光しながら建築巡りができる(*2)。

Exterior of Kushiro City Museum Photo: Courtesy of Kushiro City Museum
Interior of Kushiro City Museum Photo: Courtesy of Kushiro City Museum

釧路市立博物館
設計:毛綱毅曠建築事務所
開館:1983年
階数:地上4階、地下1階/敷地面積:4450㎡/延床面積:4302㎡(うち展示室面積:1261㎡)
住所:北海道釧路市春湖台1-7
開館時間: 9:30~17:00
休館日:月曜日(祝日の場合、4月~11月3日は翌平日休、それ以外は月曜休)、11月4日~3月の祝日、年末年始(12月29日~1月3日)、館内整理日(2022年は12月15日)

2. 弘前れんが倉庫美術館(青森県)

昨年オープンした八戸市美術館を含め、青森県立美術館、十和田市現代美術館など、現代アートを展示するスペースを5館も持つ青森県。そのなかで、弘前れんが倉庫美術館は唯一のコンバージョン(既存の建物をリノベーションし、さらに用途を変更したもの)。日本で初めてシードル(リンゴ酒)の量産に成功した煉瓦倉庫(1923)が再利用され、それを象徴するかのようにゴールド色(シードル色)に屋根が輝く。内壁の漆喰も引き剥がして古い煉瓦を露出させ、できる限り構造として残しつつ、損傷のある部分には古い煉瓦を再現した煉瓦をあてがった。タールが塗られた黒い壁や天井裏の貯水タンクも残すなど、建物が「覚えていた」時間を丁寧に浮かび上がらせる。「場所の記憶」という設計者・田根剛の関心が美術館によく表れている。

Exterior of Hirosaki Museum of Contemporary Art ©︎ Naoya Hatakeyama
Interior of Hirosaki Museum of Contemporary Art Photo: Kuniya Oyamada

弘前れんが倉庫美術館
設計:Atelier Tsuyoshi Tane Architects
開館:2020年
階数:地上2階/敷地面積:3606.75㎡/延床面積:3089.59㎡(うち展示室面積:1224㎡)
住所:青森県弘前市吉野町2-1 
開館時間:9:00〜17:00
休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始

3. 金沢21世紀美術館(石川県)

特権階級のお宝を陳列する神殿や宮殿、抽象的な芸術を均質に扱うホワイトキューブ……と、時代や展示物に合わせて変遷してきた美術館建築。そのなかで、同時代の作品を親しみやすくする現代美術館として新たなステージを開拓したとされるのが金沢21世紀美術館だ。全面ガラス張りの円形平屋は三方が道路に面し、4つの出入口は正面や裏側といった区別がない。中央に有料の展覧会ゾーン、外周部に無料の交流ゾーンを配置し、面積も天井高も異なる展示室は分散され、2層のガラスからなる天井と外壁、中庭によって館内全体が薄暗く保たれている。開館前の1999年から同館の設計プロセスに携わっていた長谷川祐子が2021年、館長として戻ってきた。

Exterior of 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Photo: Jun Nakamichi / Nacasa & Partners Courtesy of 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa
Interior of 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa Photo: Osamu Watanabe Courtesy of 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa

金沢21世紀美術館
設計:妹島和世+西沢立衛/SANAA
開館:2004年
階数:地上2階、地下2階/敷地面積:2万6964.5㎡/延床面積:2万7920㎡(うち展示室面積:2056㎡)
住所:石川県金沢市広坂1-2-1
開館時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで。交流ゾーンは9:00~22:00)
休館日:月曜日(休日の場合は直後の平日)、年末年始(交流ゾーンは年末年始のみ)

4. 群馬県立近代美術館(群馬県)

日本で最初に現れたホワイトキューブと言えば、群馬県立近代美術館。一辺12mの立方体の集積をコンセプトとし、立方体フレーム内のどこにでも作品が置け、建物の状況によっては部屋(立方体)自体も増やせるように意図された(*3)。外壁のアルミやガラス、内壁や床面など構成要素も12mを基準とした正方形からなり、幾何学という規範をベースにしながらも建築の竣工を完成ととらえず、OSが順次アップデートされるように、建築の竣工をひとつのバージョン、「切断面」ととらえた磯崎新(*4)。現代の情報社会に通じるような先駆的な考えが具体化された建築作品だ。

Exterior of the Museum of Modern Art, Gunma Photo: Courtesy of the Museum of Modern Art, Gunma
Interior of the Museum of Modern Art, Gunma Photo: Courtesy of the Museum of Modern Art, Gunma

群馬県立近代美術館
設計:磯崎新アトリエ
開館:1974年
階数:地上2階/延床面積:9347㎡(うち展示室面積:3318.86㎡)
住所:群馬県高崎市綿貫町992-1
開館時間:9:30〜17:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始

5. 東京国立博物館(東京都)

1872年に開催された博覧会を始まりとした東京国立博物館(東博)は、日本でもっとも歴史の長い博物館。戊辰戦争で焼けた上野・寛永寺の跡地に誕生し、現在は重要文化財の建物を含む6つの展示館、茶室、池から構成される。周囲の上野動物園や国立科学博物館、国立西洋美術館を含めた上野公園に位置し、国内最大級の文化エリアの一端を担う。
現存する展示館でもっとも古いのは表慶館(1909)だ。東博初代本館を設計したジョサイア・コンドルの弟子で赤坂の迎賓館などで知られる宮廷建築家・片山東熊(かたやま・とうくま、1854~1917)が担当し、当時の皇太子殿下(後の大正天皇)御成婚記念として計画された。また、東博には、世界最古の木造建築物である法隆寺の貴重な宝物を保存・展示する法隆寺宝物館がある。法隆寺が廃仏毀釈により作品が散らばるのを防ぐため、皇室へ宝物を献納したためだ。当初は作品の保存上、週1回の公開制限をしていたが、公開日の増加を求める声が高まり、保存機能を高めながらも作品を広く一般に公開することを目的として、1999年に谷口吉生設計による新宝物館を開館。国政や戦争、皇室とのつながりなど、日本という国の文化政策の流れを構内の建築群からも学ぶことができる、日本を代表する博物館だ。

Exterior of Tokyo National Museum Japanese Gallery (Honkan) Photo: Courtesy of Tokyo National Museum
Exterior of Tokyo National Museum Hyokeikan Photo: Courtesy of Tokyo National Museum

東京国立博物館
設計:渡辺仁(本館)、谷口吉郎(東洋館)、片山東熊(表慶館)、谷口吉生(法隆寺宝物館)、岡田信一郎(黒田記念館)
開館:1872年
階数:地上2階、地下1階(本館)/敷地合計面積:12万270㎡(柳瀬荘を含む)
住所:東京都台東区上野公園13-9
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始、その他、臨時休館・臨時開館あり

6. 埼玉県立近代美術館(埼玉県)

黒川紀章(くろかわ・きしょう、1934~2007)設計の銀座・中銀カプセルタワーの取り壊しが話題になって久しい。約25年に1度ユニットごと新しく交換されるはずだったカプセルは、都心に勤務する会社員のセカンドホームとして計画されたが、このタワーに付随するカプセルと同じものがじつは北浦和公園内に常設展示されている。その同敷地内は、黒川がカプセルタワーから10年後、黒川が初めて設計した美術館建築となった埼玉県立近代美術館がある。
建物は並木道の景観に配慮し高さを15mまで抑え、中央に地上3階から地下1階までをつなぐ万華鏡のようなアトリウムが設けられた。サンクンガーデン同様に正面の剥き出しの格子状の構造体に囲われた屋外中間領域は、建物と公園の結びつきを強調させる。その奥に潜む波打つガラスファサードは、展示室に自然光を積極的に取り込み、晩年の国立新美術館を想起させる。

Exterior of the Museum of Modern Art, Saitama Photo: Kazuyuki Matsumoto
Interior of the Museum of Modern Art, Saitama Photo: Courtesy of the Museum of Modern Art, Saitama

埼玉県立近代美術館
設計:黒川紀章建築都市設計事務所
開館:1982年
階数:地上3階、地下1階/敷地面積:3万5177㎡/延床面積:8577㎡(うち展示室面積:2710.82㎡)
住所:埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
開館時間:10:00〜17:30
休館日:月曜日(祝日・県民の日の場合は開館)

7. 神長官守矢史料館(長野県)

建築史家・藤森照信が45歳のとき建築家として初めて設計した神長官守矢史料館は、藤森の実家のすぐそばに建てられた洞穴的展示室だ。クライアントは幼少期から藤森をよく知り、「照信」という名も命名した守矢家当主。古くから諏訪大社の筆頭神官、神長官を務め、守矢家が鎌倉時代より代々受け継いできた文書を同館で保管・公開する。
建築にあたっては地元産の素材を積極的に使用するだけでなく、建築史家の本分も発揮して、壁圧や木の割り方など細部の取り扱いにも地域固有の慣習に準拠。正面入口の庇を貫く4本柱は崖から引きずりおろした神木を社殿の四方に建てる御柱祭に由来する。この資料館のすぐそばに建つ、同じく藤森の3つの茶室、高過庵(2004)、空飛ぶ泥船(2010)、低過庵(2017)、それから茅野市高部公民館(2021)もあわせて見学したい。

Exterior of Jinchokan Moriya Historical Museum Photo: Courtesy of Jinchokan Moriya Historical Museum
Interior of Jinchokan Moriya Historical Museum Recreation of the "Ontosai Festival" Photo: Courtesy of Jinchokan Moriya Historical Museum

神長官守矢史料館
設計:藤森照信+内田祥士
開館:1991年
敷地面積:937.54㎡
住所:長野県茅野市宮川389-1
開館時間:9:00〜16:30
休館日:月曜日、年末年始(12月29日~1月3日)、国民の祝日の翌日(ただしこの日が月曜日にあたる場合はその翌日も休館)

8. 鳥羽市立 海の博物館(三重県)

潮風が吹き荒び、奥には古墳を擁する伊勢湾海岸沿いの敷地に、海に関する膨大な資料が収蔵・展示される海の博物館。国立競技場デザインコンペの審査委員としても知られる内藤廣の設計だ。高低差のある敷地に7棟が分散配置される。そのうち2棟の展示室は木造で、タールで塗装されたスギ板張りはいかにも漁村集落の赴き。船底のようなアーチ型天井から自然光が溢れる。いっぽう、白い3棟の収蔵庫はプレキャストコンクリート造で、木造和船や漁撈道具など6万点を格納する。異なる構造による大空間はともに自然換気で、ローコストでサスティナブル。同館をきっかけに、さらに空気環境における考えを内藤が発展させた牧野富太郎記念館(1999、高知県)もぜひ訪れてみてほしい。

Exterior of Toba Sea-Folk Museum Photo: Courtesy of Toba Sea-Folk Museum
Interior of Toba Sea-Folk Museum Photo: Courtesy of Toba Sea-Folk Museum

鳥羽市立 海の博物館
設計:内藤廣建築設計事務所
開館:1971年(1992年に移転し、内藤廣建築設計事務所が設計を手がける)
階数:地上2階/敷地面積:1万8058㎡/延床面積:3924㎡
住所:三重県鳥羽市浦村町大吉1731-68
開館時間:9:00〜17:00(3月1日~11月30日)、9:00~16:30(12月1日~2月末日)
休館日: 6月26日〜30日、12月26日〜30日

9. 京都市京セラ美術館(京都府)

1933年、日本で2番目の公立美術館として開館し、現存する公立美術館建築としては日本最古であった京都市美術館。これを青木淳・西澤徹夫設計共同体がリノベーションし、京都市京セラ美術館として2020年にリニューアルオープンした。建築家たちは既存の建物の特性を見出し、当時の技術だからこそ可能であったステンドグラスや装飾など、贅沢な設えを保存した。また、帝冠様式らしいシンボリックなファサードを残すため、正面入口手前の西側広場を地下まで掘り込み、ガラス・リボンをファサードとして挿入。ショップやカフェなど今日的な機能を追加した。天井高16mの大陳列室は展示室を結ぶ中央ホールとして活用しながら、同時に西側の正面エントランスと東側の日本庭園を接続し、アクセスビリティを高めた。
館長で基本設計者のひとりである青木淳は、磯崎新アトリエ在籍時に水戸芸術館の設計に関わっており、独立して青森県立美術館を手がけた。また、同館を青木とともに担当した西澤はその後、八戸市美術館を設計(浅子佳英、森純平と協働)。日本の美術館建築史の流れを掴むのにピッタリな作品だろう。

Exterior of Kyoto City Kyocera Museum of Art Photo: Takeru Koroda
Interior of Kyoto City Kyocera Museum of Art Photo: Takeru Koroda

京都市京セラ美術館
設計:青木淳・西澤徹夫設計共同体
開館:1933年(2020年のリニューアル設計を青木淳・西澤徹夫設計共同体が手がける)
階数:地上2階、地下1階/敷地面積:2万5383.71㎡/延床面積:1万9495.17㎡(うち展示室面積:5240.49㎡)
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始(12月28日〜1月2日)

10. アサヒビール大山崎山荘美術館(京都府)

天王山のハイキングコースの中腹、約5500坪の庭園の中にアサヒビール大山崎山荘美術館は佇む。1932年頃完成した加賀正太郎設計の建築(92年より美術館本館として使用)に加え、92年に増設した「地中の宝石箱」(地中館)、2012年に新設した「夢の箱」(山手館)を安藤忠雄が設計した。
「地中館」は円形で半地下構造、本館と階段通路で接続する。コンクリート打放しの高い壁に囲まれた階段が、モネの《睡蓮》が展示される静寂な地下展示室へと誘い、展示室から階段を上ると、四方上部のガラスから取り込まれた緑や光が地上へと迎え入れる。安藤の手がける美術館のなかでも比較的初期の作品で小規模ではあるものの、打放しコンクリートから差し込む光や風を巧みに操作する安藤らしいシークエンスが味わえ、その後の代表的美術館の原型とも言える建築を体験できる。国宝待庵や聴竹居もあわせて訪れられたらベスト!

Passage of Asahi Beer Oyamazaki Villa Museum of Art Chichu-kan Photo: Courtesy of Asahi Beer Oyamazaki Villa Museum of Art
Upper part of the exhibition room of the Asahi Beer Oyamazaki Villa Museum of Art, Chichu-kan Photo: Courtesy of Asahi Beer Oyamazaki Villa Museum of Art
Exhibition room of Asahi Beer Oyamazaki Villa Museum of Art, Yamatekan Photo: Courtesy of Asahi Beer Oyamazaki Villa Museum of Art

アサヒビール大山崎山荘美術館
住所:京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
設計:加賀正太郎(本館)、安藤忠雄建築研究所(地中の宝石箱[地中館]、夢の箱[山手館])
階数:地上3階、地下1階/敷地面積:約5500坪
開館:1996年(夢の箱[山手館]は2012年)
開館時間:10:00〜17:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜)、臨時休館、年末年始

11. 植田正治写真美術館(鳥取県)

「砂丘モード」シリーズなど自然を舞台に被写体を入念に配置した写真で知られる、植田正治。植田の作品を所蔵展示する植田正治写真美術館は植田の故郷、鳥取県にあり、名峰・大山を見るためだけにあるような場所に建っている。大山の間には何もなく、美術館正面に大山を見る。櫛を寝かせたようなコンクリートの群形をカーブした壁が囲い、外壁スリットから覗く大山はスリット下部の水盤に「逆さ大山」の像となって映し出される。
展示室でも直径600mmのレンズを通し、直径7mの逆さの大山を壁面に投影し、展示室自体をカメラオブスキュラとする仕掛け。過剰な装飾性を持たずに、ただ風景を収めるためのレンズになる建築。メタファーとしての建築ともとらえられるだろう。同じく個人の写真専門美術館でありながら建物の在り方が異なる、谷口吉生設計の土門拳記念館とも比較してみてほしい。

Exterior of Shoji Ueda Museum of Photography Photo: Courtesy of Shoji Ueda Museum of Photography
View from the Shoji Ueda Museum of Photography Photo: Courtesy of Shoji Ueda Museum of Photography

植田正治写真美術館
設計:高松伸
開館:1995年
階数:地上3階/敷地面積:1万6175㎡
住所:鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3
開館時間:10:00〜17:00
休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)、冬期(12月下旬〜2月末日)、展示替え期間中

12. 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県)

瀬戸大橋開通後、JR丸亀駅前再開発事業の一環として計画された丸亀市猪熊弦一郎現代美術館は、丸亀で少年時代を過ごした画家・猪熊弦一郎の作品とコレクションを展示する駅前美術館だ。谷口吉生設計の同館は、館の正面を駅前広場の一角として使用し、エントランス脇の大階段を登ると、美術図書室やカフェなど一般に開かれた機能が配置され、展示室とも自由に行き来できる。1階エントランスを抜ければ2層吹き抜けの白い空間が来場者を招き入れ、2階と3階、性質の異なる3つの展示室へ続く。1階から3階までの3層は内部の窓によって部分的に切り出され、ほかの場所での動き、気配を仄めかす手法は谷口らしい。
市民活動に特化した場所はなくとも(*5)、建築がまちと美術館を緩やかにつなぎ、つねに外気や外光を感じられる開放的空間が、猪熊自身のユーモアある作風をより一層引き出す。建築に強い関心を抱いていた画家と美術館に造詣の深い建築家との見事なコラボレーションだ。

Exterior of Marugame Genichiro Inokuma Museum of Contemporary Art Photo: Yoshiro Masuda
Interior of Marugame Genichiro Inokuma Museum of Contemporary Art Photo: Yoshiro Masuda

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
設計:谷口吉生建築設計研究所
開館:1991年
階数:地上3階、地下1階/敷地面積:5974.53㎡/延床面積:1万1948.14㎡
住所:香川県丸亀市浜町80-1
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月曜日(祝日の場合は直後の平日)、年末年始(12月25日〜31日)、臨時休館日

13. 豊島美術館(香川県)

緑豊かな丘にポツンと落とされた大きな水滴、あるいは身を潜めるようにして生息する白い貝のような建物。豊島美術館ではホワイトキューブのように展示物と箱が相対するのではなく、アートと建築、人工物と自然環境がひとつの光景を作り出している。建物はほとんど屋根と地面のようで柱はなく、コンクリート造の低く広い薄い屋根の下には、流れるようになだらかな床。内藤礼の「母型」、たった一作品だけが公開されている。自然との融合をここまでまとめ上げた施工技術の高さに舌を巻くだろう。

Teshima Art Museum Photo: Noboru Morikawa
Teshima Art Museum Photo: Ken'ichi Suzuki

豊島美術館
設計:西沢立衛建築設計事務所
開館:2010年
階数:地上1階/敷地面積:9959㎡/延床面積:2334㎡
住所:香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃607
開館時間:10:00〜17:00(3月1日〜10月31日)、10:00〜16:00(11月1日〜2月末日)
休館日:火曜日(3月1日〜11月30日)、火曜日、水曜日、木曜日(12月1日〜2月末日)*祝日の場合は開館、翌日休館 *ただし月曜日が祝日の場合は、火曜日開館、翌水曜日休館

14. 海のギャラリー(高知県)

海のギャラリーは、土佐清水市在住の洋画家・黒原和男による貝のコレクションを展示する2階建ての小さなギャラリー。設計者の林雅子(1928~2001)は日本における女性建築家の草分けとも言われるが、その作品は個人宅が多い。そのため、海のギャラリーは林の建築を実際に見学できる数少ない場所という観点からも、高知県の南端に出向いてまで訪れることをオススメしたい。
二枚貝に着想を得た同館は、コンクリートの平板を左右対称に折り曲げ屋根を自立させることで、視覚的に邪魔な部材を排除し透き通った空間が形成されている。階段も一段一段中心の梁から持ち出されなんとも軽やかで、2階中央の展示ケースは上下両面ガラス張り。屋根の中央スリットからゆらゆらと1階まで自然光を届け、1階から2階を見上げると、普通の展示では隠れてしまう反対側も見ることができる。「貝殻を一番上手く見せるにはどうしたら良いかと考え、海の中で見えるようにした」(*6)と設計者が述べるように、群青色の内壁の中で白い光が落ちてきて、(私は海に潜ったことがないが、それでも)海底から太陽を見上げるとこんな感じなのかな、と思わせる静謐な空間だ。

Exterior of Seashell Gallery Photo: Courtesy of Seashell Gallery
Interior of Seashell Gallery Photo: Courtesy of Seashell Gallery
Interior of Seashell Gallery Photo: Courtesy of Seashell Gallery

海のギャラリー
設計:林・山田・中原設計同人
開館:1966年
階数:地上2階/延床面積:475.2㎡
住所:高知県土佐清水市竜串23-8
開館時間:9:00~17:00(7月、8月)、9:00~16:00(9月~6月)
休館日:木曜日(8月13日~15日、1月1日〜3日の木曜日は開館)

15. 九州国立博物館(福岡県)

黒川紀章らとともにメタボリズム運動を唱え、内藤廣や伊東豊雄ら多くの後世を輩出し大きな影響を与えた菊竹清訓(きくたけ・きよのり 1928〜2011)。菊竹が最後に手がけたミュージアムの建築が、自身の地元・福岡に設計した九州国立博物館だ。
昭和の近未来的な表現が漂うなかに自然に向き合う人工技術が際立ち、菊竹らしい面白さがある同館。東西に緩やかな曲線を描いたチタン葺きの大屋根と、南北の空や木々が映り込むガラス張りの外壁で周囲の山並みに溶け込ませようとする外観だが、かまぼこ型の大画面をもつとエントランスの青い柱は自然に融合した建築というより自然と拮抗、あるいは共存する人工物の在り様を強く感じさせる。木材が多用された和風の内部はドームの中に4層の建築物が挿入される明瞭な構成で、当時の技術においては環境性能も最大限に配慮された。宍道湖湖畔の優雅な島根県立美術館と共に再訪し、いま一度自然と人工について思いを巡らせながらこれからの建築について考えてみたい。

Exterior of Kyushu National Museum Photo: Courtesy of Kyushu National Museum
Exterior of Kyushu National Museum Photo: Courtesy of Kyushu National Museum

九州国立博物館
設計:菊竹清訓建築設計事務所
開館:2005年
階数:地上5階、地下2階/敷地面積:15万9844㎡/延床面積:3万675㎡(3階特別展示室は1500㎡、4階文化交流展示室は3900㎡)
住所:福岡県太宰府市石坂4-7-2
開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末
 
*1 ──「平成30年10月時点。文化庁調べ。https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/suii/
*2 ──「釧路・阿寒湖観光公式サイト」、歩いて回る毛綱コース http://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/5333/
*3 ──「ArchDaily」、プレゼンテーションドローイング https://www.archdaily.com/153449/ad-classics-museum-of-modern-art-gunma-arata-isozaki
*4──「artscape」、プロセス・プランニング論(足立優太)https://artscape.jp/artword/index.php/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%BB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E8%AB%96
*5──基本設計の段階では市民ギャラリーが計画されていたが、猪熊と谷口の対話により変更された。『MIMOCA開館30周年 どこにもない美術館をめざして』 https://www.mimoca.org/data/news/upload/cd8230c24b34d3c6131c7171ccb5db5ed33f63cf.pdf
*6──『新建築』1967年4月号

服部真吏

はっとり・まり

服部真吏

はっとり・まり

慶應義塾大学文学研究科美学美術史学修士課程修了。同大学院博士課程単位取得退学。新建築社にて、月刊誌『a+u』や『新建築』の編集を担当。現在、フリーのエディター、ライター。