ビョーク、スクエアプッシャー、Perfume、ELEVENPLAY、狂言師・野村萬斎や研究者などとコラボレーションを行い、国内外でその名を知られるRhizomatiks(ライゾマティクス)。今年設立15周年を迎えるライゾマの、美術館における初の大規模個展「ライゾマティクス_マルティプレックス」が東京都現代美術館で3月20日に開幕した。展覧会の企画は長谷川祐子。
2006年、哲学者ジル・ドゥルーズの「リゾーム」の概念を名の由来し、真鍋大度と石橋素を中心に設立されたrhizomatiks(ライゾマティクス、以下ライゾマ)は、つねに人とテクノロジーの関係を探求し、多様な視覚化や問題提起型のプロジェクトを通して、技術と表現の新しい可能性を示してきた。ライゾマが展開してきた領域横断的なクリエイションを展望するべく、本展は開かれている。
15年の活動を総括するものではあるものではあるが、本展には2021年制作の新作が多く並ぶ。石橋いわく、それには次のような理由があるという。「展示作品を話し合うなかで、最初に私たちが提案したのは過去作をもう一度展示するというプラン。でも、過去の作品をもう一度メンテナンスするのと、新作を制作するのとでは労力は変わらない。であれば、せっかくの機会なので新作を展示しようということになったんです」。各作品で何かしらの「最新形」を見られるライゾマらしい展覧会だと言えるだろう。
ライゾマといえばリオ五輪閉会式でも注目を集めた、演出振付家のMIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」とのコラボレーションでも名高いが、本展ではこのタッグで《Rhizomatiks×ELEVENPLAY “multiplex”》(2021)が披露される。「ELEVENPLAY」のダンサーの動きをモーションデータ化し、映像プロジェクションや動くロボティクスとともに構成したインスタレーションは、さながら人間不在のダンス公演のよう。人間不在の「動き」が大きな魅力となるのは、国内外で多数受賞した《particles》(2021)でも同様だ。巨大なレールの上を多数のボールが転がる本作は2011年に初発表され、今回は技術面で緻密なアップデートがなされている。
高額取引をされていることで最近アート界を賑わせている「NFT(代替不可能な暗号通貨)」をテーマにした作品も、本展では早速登場。Crypto artと呼ばれるNFTによって永続性、相互運用性、唯一性を保証し価値を担保されたデジタルアート作品が、「OpenSea」というプラットフォームで多数取引されている。それらがどのように流通しているかを公式APIを用いて可視化し、課題や今後のビジョンを見せる作品がライゾマの《NFTs and CryptoArt-Experiment》(2021)だ。その向かいでは、ライゾマの15年の歩みをたどる《Rhizomatiks Chronicle》(2021)が。どちらもデータを可視化した作品になっている。
ライゾマが、その活動において作品制作と同等に重きを置くのがR&D(リサーチ&ディベロップメント、研究開発)。新たな表現の獲得、新技術やプラットフォームの諸問題を考察するために、ライゾマは企業のみならず脳科学者、天文学者を含む科学者や研究者らとともに絶えず新たな技術を探求している。本展の醍醐味は、そんな可能性に満ちた最新の研究を見られることだろう。例えば真鍋が「ミュージックビデオの技術として使えるのではないかと思った」と話すのが、MRIの中に入り音楽を聴き、そこでの脳活動をビジュアル化するという技術。真鍋が20時間もMRIに入って研究したというこの成果は会場で見ることができるが、今後どのようなアウトプットとなり私たちの目の前に現れるのか期待が高まる。
その他にも、本展では様々なトライアル&エラーがオープンにされている。一般的な展覧会では、現存の作家が完成作品とともに舞台裏を見せることはさほど多くない。ライゾマがこうしてトライアル&エラーを包み隠さず見せるのは、テクノロジーを用いた作品には膨大な試行錯誤が存在しているという事実、つねにアップデートを続ける自分たちの表現・技術への自信、シーン全体を盛り上げていくための呼び水などの様々な意味があるように見えた。