下北沢に今年も「月」と「ウサギ」が出現! 「ムーンアートナイト下北沢2024」レポート

中秋の名月の下、街歩きを通じてアートを楽しむ。ルーク・ジェラム、アマンダ・パーラー、Atelier Sisu、三家俊彦、Wade and Letaの作品や、NFTを使った「お月見スタンプラリー」も。会期は9月13日~29日。

ルーク・ジェラム《Museum of the Moon》展示風景

下北沢の街を舞台にした、「月」がテーマのアートフェスティバル「ムーンアートナイト下北沢2024」が、9月13日~29日まで開催されている。

昨年は約40万人が来場した「ムーンアートナイト下北沢」。3回目となる今回は、5組のアーティストによる作品展示のほか、各店舗での特別イベント、限定メニューの提供、NFTスタンプラリーなど多様なコンテンツが企画されている。普段は入れない場所や空き地、駐車場などが展示会場となり、街をアートが彩る。主催は小田急電鉄株式会社、下北沢商店連合会、スタートバーン株式会社。

ここでは、開幕に先駆けて行われた内覧会の様子をレポート(一部展示会場は会期中に撮影)。アート作品を中心に、見どころをお届けする。

空き地に浮かぶ月や、商店街に座る巨大ウサギ

まずは、「ムーンアートナイト下北沢」のシンボルにもなっている「月」の作品。「下北線路街 空き地」に3年連続出現している、イギリスのアーティスト、ルーク・ジェラムによる《Museum of the Moon》だ。

ルーク・ジェラム《Museum of the Moon》展示風景

下北沢駅の東口改札を出ると、少し離れた位置ながら上空に浮かぶ大きな「月」がすぐに目に入る。NASAの月面写真をもとに、クレーターの細部まで表現された直径7mの作品が、今年も下北沢の街を幻想的に照らしている。フォトスポットとしても人気の本作だが、今回は初の試みとして、「月」の下を10分間貸し切って写真を撮影できる有料チケットが販売されている。

ルーク・ジェラム《Museum of the Moon》展示風景 © Startbahn, Inc. Masataka Tanaka
下北沢駅東口側から見た《Museum of the Moon》

「月」とともに「ムーンアートナイト下北沢」のシンボルになっている巨大な「ウサギ」の作品は、アマンダ・パーラーの《Intrude》。こちらも3年連続の登場となるが、昨年、一昨年とは展示場所を替え、今年は「しもきた商店街内 道路予定地」が展示会場となる。

《Intrude》はサイズやポーズの異なる10種類のタイプが存在しており、毎年異なる作品を出展。今回は、足を広げて地べたに鎮座する大きなウサギを中央に、3羽のウサギが商店街内に出現している。パーラーはオーストラリア・タスマニアを拠点とするアーティスト。ウサギは白人がオーストラリアに入植した1788年に同時に流入し、以降、大陸の生態系に破壊や不均衡をもたらしている。作品の可愛らしい姿には、「Intrude=侵入」というタイトルの通り、人が自然界におよぼす影響や、矛盾に満ちた動物としてのウサギのイメージも重ねられている。

アマンダ・パーラー《Intrude》展示風景

内覧会に登壇したスタートバーン株式会社代表の施井泰平は、3年連続で同じ作家の同じ作品が展示されることは、アートフェスティバルとしては異例と言う。

当初から「月」をテーマに掲げたことについては、様々な人が同じひとつものを見上げる、という点に加えて、「そこから何を感じるかは多様なもの受け入れられるということがポイントだった」と説明。また何億年も前から存在する月は、誰もが知っているもので、あらゆる創作テーマの素材になりうるとし、「すべての作家さんが、人々の月に対する思いを拡張したり、体験を増長させるようなきっかけになるような作品を作っている。それも楽しんでいただければと思います」と話した。

月虹のアーチや、輝く庭、地下空間の展示

下北沢駅と世田谷代田駅の中間にあるBONUS TRACK横の駐車場には、月虹を連想させる大きなアーチ状の作品が登場。ペルー出身の立体造形作家でデザイナーのレンゾB.ラリヴィエールと、空間建築家でアーティストのザラ・パズフィールドによる、シドニーを拠点とするアーティストユニット、Atelier Sisu(アトリエ・シス)の《Elysian Arcs》だ。作家にとって、今回が日本初展示となる。

Atelier Sisu《Elysian Arcs》展示風景

来場者は、虹色に表情を変え続けるアーチの下をくぐり、夢幻的な体験に誘われる。光を反射し、見る角度によって異なる色に屈折させるダイクロイックフィルムが素材として用いられているため、観客が作品のなかを移動することで、立っている場所や視点によって様々な色の感覚を与える。またアメリカの音楽家ジョセフ・バージェスが本作のために作ったサウンドスケープが、作品への没入感をさらに演出している。

下北沢南西口側から見た《Elysian Arcs》

「本作《Elysian Arcs》は、ギリシャ神話に登場するエリュシオン(Elysian Fields)にインスピレーションを受けています。ギリシャ神話において、エリュシオンは神々の天国です。私たちは作品によって、それを表現しようとしていたのです。そして、観客がここ下北沢で思いがけず出会う、神秘的で異世界的なものを《Elysian Arcs》を通して作り出したいと考えていました」(ザラ・パズフィールド/Atelier Sisu)

「私たちはすべての作品で、普遍性のアイデアを取れ入れたいと考えています。話す言語や文化的背景に関わらず、誰もが共感でき、普遍的で包括的なものを作りたいのです。また、この作品には昼と夜で異なる個性を持ちます。日中は太陽光が素材に反射し、地面に異なる影ができるのがわかるでしょう」(レンゾB.ラリヴィエール/Atelier Sisu)

左から、Atelier SisuのレンゾB.ラリヴィエール、ザラ・パズフィールド © Startbahn, Inc. Masataka Tanaka

普段は入ることのできない場所が、展示会場として開放されているのも、「ムーンアートナイト下北沢」の特徴のひとつ。

下北沢駅の隣駅である東北沢駅屋上には、光り輝く「庭」が出現。ベルリン在住のアーティスト、三家俊彦による《The Aluminum Garden -Structural Studies of Plants-》と題された作品で、アルミホイルで精巧に作られた植物群が月明かりに照らされている。

三家俊彦《The Aluminum Garden -Structural Studies of Plants-》展示風景

使われているのは工業用のアルミホイルのみで、それを手作業で折ったり曲げたりすることで、植物の構造を作り上げている。他の素材を用いず、一株ずつ一枚のアルミシートから作り上げ、植物が本来持っているしなやかさや脆弱性を残したまま表現することを目指しているという。

植物の作品の野外展示を始めたのは、パンデミック以降だという三家。本作はその繊細な構造のため、時間の経過とともに雨風や様々な環境要因で形状が変化してしまうことも考えられるが、「それも共存のひとつのかたちだと思っている」と話す。変化し続ける作品を自身が「庭師」となってメンテナンスすることで、自然と作品がどのように共存しうるかということを探求しているという。

三家俊彦

植物の彫刻は鏡面の土台としているため、夜は暗い夜空、昼は青空が写り込む。植物の「葉」が風に揺れて擦れ合う音が、都市の音とも混じり合い、人口と自然の不思議な融合を体験することができる。

「今回は都市のなかでの展示ですが、このイベントにこの作品が存在することや、風や雨、お客さんとの関係などのなかで、この場所でどうやって共存していくかを見せられたらと思っています」(三家俊彦)

三家俊彦《The Aluminum Garden -Structural Studies of Plants-》展示風景

さらに今回から新たに会場として加わったのが、世田谷代田駅地下。アメリカのWade and Letaが、この地下会場のために制作した《Shapes in the Night》が展示されている。

階段を降りてたどり着く無機質なコンクリート空間には、カラフルなネオンの作品と、太陽系のビッグバンから着想を得たという躍動的な巨大オブジェが待ち構えている。暗い空間のなかで明滅するネオンのLEDは、都市のナイトライフに敬意を表しているという。もともと地下鉄の開発中に作られたデッドスペースだったという空間に、光と闇の相互作用によって命を吹き込んだ。

なお、東北沢駅屋上と世田谷代田駅地下は有料会場となるため、事前のチケット購入が必要となる。

Wade and Leta《Shapes in the Night》展示風景

このほか下北沢を拠点とする様々なギャラリーでもアートを楽しむことができる。初年度から参加しているSRR Project Space下北沢アーツに加え、今回は新たにギャラリーHANA 下北沢Such As, GalleryDDD ARTが参加。パブリックアートだけでなく、ギャラリーの展示も巡りながら、下北沢散策を楽しんでほしい。

NFTを用いた「お月見スタンプラリー」

リアルとNFTを掛け合わせたイベントであることも、「ムーンアートナイト下北沢」の特徴。今年もNFTを使ったスタンプラリーを実施する。

「お月見スタンプラリー」はこちらのポスターが目印

「お月見スタンプラリー」は、ウサギをモチーフにした小田急電鉄の子育て応援マスコットキャラクター「もころん」と、下北沢で予約制書店を運営する夢眠ねむのキャラクター「たぬきゅん&フレンズ」の「ラビやん」を用いた限定NFTを集めるイベント。ザ・スズナリやミカン下北、BONUS TRACKなど、街中の様々な場所に置かれたQRコードを宝探しのように見つけ、ウェブアプリ「FUN FAN NFT」で読み取ることで、NFTを獲得することができる。期間中にすべてのNFTを集めると、ボーナスNFTもゲットできる。

参加には有料チケットが必要となるため、詳細はチケットページを確認してほしい。

会期中は街中に作品の案内看板が掲示

コラボフードや限定企画も多数

また会期中に、下北沢エリアの様々な飲食店で展開される限定メニューも本イベントの楽しみだ。「月」や「ウサギ」などをテーマにしたドリンクやフードが各所で提供されている。

空き地カフェ&バーのうさぎカフェオレとピンクムーンソーダ
YOYO お月見コーヒーゼリー
スパイスラーメン点と線. TKM(月見・キーマ・まぜそば)

さらに映画館のシモキタ - エキマエ - シネマ「K2」をはじめとする様々な施設でも「ムーンアートナイト下北沢」にあわせたイベントやワークショップを企画している。

中秋の名月の時期、アートが街を彩る17日間。秋の夜長を感じながら、いつもと少し違う下北沢の街中散策を楽しんでみるのはいかがだろうか。

左から、橋本崇(小田急電鉄 まちづくり事業本部 エリア事業創造部 課長)、大木弘人(下北沢商店連合会 会長)、施井泰平(スタートバーン)、三家俊彦、ザラ・パズフィールド(Atelier Sisu)、レンゾB.ラリヴィエール(Atelier Sisu)

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。