「吉田克朗展―ものに、風景に、世界に触れる」が、神奈川県立近代美術館 葉山で6月30日まで開催されている。また巡回先として、埼玉県立近代美術館で7月13日〜9月23日に開催される。
1969年から物体を組み合わせ、その特性が自然に表出される作品を制作し始めた吉田克朗(1943~1999)。このような作風を示す動向は後に「もの派」と称され、国際的に注目を浴びることになるが、吉田はその先鞭をつけた作家のひとりでもあった。
本展は、吉田克朗の全貌に迫る初めての回顧展。作品・資料約170点、全5章の構成で吉田克朗の制作の軌跡を辿る。
これまで紹介される機会が少なかった作品や、作品プランやコンセプトを綴った制作ノートなどの資料を調査をもとに展示。転換期を迎えていた同時代の美術動向に向き合いながら、自ら選択すべき道について真摯に問い続けた作家のキャリア全体を総覧することができる貴重な機会となっている。
見どころは、「もの派」時代の代表的な立体作品《Cut-off (Paper Weight)》(1969)、《Cut-off (Hang)》(1969)の再制作だ。葉山館の広い空間に、大きな作品がよく映える。作品プランやコンセプトを綴った制作ノートなどの資料とともに紹介し、吉田の「もの派」時代を再検証する。
また1970年代初頭のシルクスクリーン作品や、その後の油彩、ドローイング作品なども紹介。
たとえば《Work4-45》(1979)のように、身近な棒状の道具を使って壁にスタンプを押すように線を表出させた作品群や、風景や人間の一部を抽出した「かげろう」シリーズを経て、1980年代後半からは「触」とタイトルに冠されたシリーズを手がけるようになる。
「触」は、色を塗った下地の上に黒鉛を手によって直接擦り付けるようにして描かれた作品。指による細やかな斑点や動きの感覚が、非常に肉体的で独特のマチエールを生んでいる。
下地の色が暗色から明るい色へと変化し浮遊感が生まれるなど、様々な展開が模索されたが、1999年、吉田は食道がんを患い55年の生涯を閉じた。本展ではこの晩年の作までを紹介し、その芸術的なビジョンや旺盛や創作活動の有り様を伝えている。
また、吉田が大きな影響を受けた美術家の斎藤義重(1904~2001)を特集したコレクション展「斎藤義重という起点―世界と交差する美術家たち」も同時開催。1964年吉田は多摩美術大学絵画科に入学して斎藤に学び、その師弟関係は生涯にわたるものとなった。学生運動の混乱のなかで美術を志す若者たちを支え、「もの派」をはじめとする多くの作家を育てた斎藤。その幅広い活動について斎藤義重アーカイブの資料から紹介し、若手作家が世界へと飛躍していった背景を辿る。こちらも合わせてみてほしい。