「日本のロウブロウアート」はこれだ! 宇宙を漂う異空間。mograg galleryが提示するアートの楽しみ方とは?

渋谷・DIESEL ART GALLERYで9月7日まで開催中の「“CANTINA” mograg VERSE」。「日本のロウブロウ・アート」を提唱するギャラリー、mograg galleryが9組のアーティストをキュレーションし、ユーモラスな世界観を繰り広げている。新御徒町でmograg galleryを運営する、オーナー・太田素子とディレクターでアーティスト・沖冲.(おきちゅう)の2人にインタビューした。

(左から)アーティスト・沖冲.(おきちゅう)とmograg gallery オーナー・太田素子 撮影:編集部

「どこかの銀河の片隅にある酒場」

車のバンパー、工事現場で使用されるコーンバー、ふとん用洗濯バサミ、おもちゃの剣、謎の鳥、謎の部品、謎の工作物……。色とりどりの様々な物体が天井から吊り下げられ、あるいは他のパーツとのバランスによって空中にとどまっている。会場の中心に鎮座するのは、思わず感嘆の声を上げてしまうほどの存在感で圧倒する、奇天烈な「バーカウンター」だ。カウンター内ではバーテンダーらしき2体の異星人が、テキパキと(?)客の注文をさばいている。その周りを参加アーティストよる作品が囲み、レトロな玩具や日用品をコラージュした得体の知れないオブジェが、ショーケース内に所狭しと並べられている。

津田伸矢によるバーカウンター 撮影:編集部

そして不思議なことに、この異世界のバーカウンターは見事に会場に溶け込んでいた。そこを起点として放射状に展示されている作品群が、負けじと強烈な個性を放っているからだろうか。会場に入るやいなや、観客を見下ろしながら出迎えてくれる巨大な着ぐるみ「ビバゴン」に、初っ端から圧倒されたせいもあるかもしれない。

コンセプトは、「どこかの銀河の片隅にあるカンティーナ(酒場)」。9組のアーティストが今回のために生み出した新作の数々を、「窓から見える惑星の世界」に見立てた。各展示を区切るように設置されたアクリル板に描かれた「異星人」たちは、カンティーナに集う客だ。

アートとカジュアルに付き合う「日本のロウブロウアート」

「うわあ、すごい!ってガツンとくるのが一番いい」(太田)。今回の展示を企画したmograg galleryの太田素子と沖冲.のキュレーションは、アート活動に付随しがちなハードルをぐっと下げる独自の価値観をベースにしている。

「アートの楽しみ方って、もっとカジュアルで気軽でいいと思うんです。やべえ、かっけえ、かわいい、それでいいんじゃない?って。作る側も、自分の作品をおもろいと思えばそれでいい。文脈なんて、よりおもしろがるためのおかずみたいなもんです。いっぽうで、作家が作品に込めている思いや世界観、方向性、技術や苦労は、僕や太田自身が作家だということもあって、本当にリスペクトしています」(沖冲.)。

会場風景より Photo: Miki Matsushima

そのアート観を体現したのが、mograg galleryが提唱するコンセプト「日本のロウブロウアート」だ。ロウブロウアートとは、アメリカの西海岸を発祥とし、ストリートカルチャーやコミック、パンクロックなどを取り入れた大衆アートのムーヴメントのこと。そこに日本特有の漫画やアニメといったオタクカルチャー、イラストレーションなどを取り込みつつ、純粋に「おもしろい」と思った日本のアーティストや作品を、ジャンルレスに紹介している。

「いわゆるハイアートと呼ばれるものに感じる、なにか“こうあるべき、こうあらねば”というイメージを払拭して、もうちょっとアートの裾野を広げたいんです。気軽にふらっと遊びに来られるギャラリーの雰囲気作りとか、ちょっといいなと思ったら買える価格設定とか、そういったところを意識して15年やってきました。うちで初めてアートを買ったという人も結構多いです」(沖冲.)。

だからといって、「ハイアートはお断り」とはしない。おもしろければ、ハイアートだろうがなんだろうが取り込むのがmograg流だ。

「僕らは、はじめましての作家とは、必ず一緒に食事をして、そこで本人としっかりコミュニケーションをとるんです。コンセプチュアルな作家でも、そこでその作家が持っている核みたいなものをキャッチしておもしろいと思ったら、個展についても一緒に模索していきたい。僕たちが紹介する作家たちのほとんどは、自分のことを"ロウブロウ・アーティスト"とは名乗っていないんですが、そうやって関係性を構築しながら、mogragのコンセプトも理解してもらっています」(沖冲.)。

会場風景より Photo: Miki Matsushima

アーティストはみな「家族」

作家との濃密な関係性の構築は、mograg開始当初から最も大切にしていることだ。始まりは自宅ガレージを開放して、制作活動をする友人知人のささやかな展覧会を開くことだった。

「私がガレージでインスタレーションの制作をしていると、通りすがりのおじちゃんおばちゃんがのぞいてきて、『何作ってるの?』って話しかけてくる。それで、ここで展示ができたらいいかもって思って。軽自動車1台停められるかどうかくらいの狭いスペースだったんですけどね」(太田)。

会場風景より Photo: Miki Matsushima

2008年に「mograg garage」として開始したそのスペースは、展覧会を開催するたびに話題となり、訪れる人が着々と増えていく。

「当時はかなりカオスで、来てくれた人がガレージで収まりきらなくて、家の中にまで上げてたんですよ。そこで知らない人も混ざって20人くらいで飲んで、夜中の2時頃にようやく『で、きみ誰なん?』ってことが日常茶飯事だった(笑)」(沖冲.)。

そうしたコミュニケーションを重ねていくうちにアーティストがアーティストを呼び、自然とネットワークが構築されていく。じきにその輪が、作品を展示するだけではなく、販売という形で作家に還元できる“ギャラリー”に姿を変えることとなる。2015年、新御徒町駅にほど近い場所に、「mograg gallery」がオープンした。

「アーティストとはマネジメント契約を結んでいるわけではないですが、人間対人間の関係。もはや家族です」(太田)。

「宇宙人」9組による饗宴

今回DIESEL ART GALLERYでの展示に「招集」したのも、mogragが家族同然に付き合ってきたアーティストたちだ。彼/彼女たちとの関係性、普段のコミュニケーションのあり方を含めたmograg galleryをひとつの空間で表現すべく、「飲み屋」を大枠のコンセプトに据えた。また、全員が「頭の中にその人だけの独自のワールドを持っていて、はたから見るとまるで宇宙人」(沖冲.)のようであることから、舞台は「どこかの銀河」とした。

9組の作家それぞれについて語る2人の言葉を聞いていると、まるで自分自身もよく知る人物であるかのように錯覚する。

Johnny Akihito Noda Photo: Miki Matsushima

沖冲.いわく「ロウブロウアートど真ん中」の作風で、海外で高く評価されているJohnny Akihito Nodaは、ロウブロウアートの源流であるカスタムカーカルチャー界隈にも根強い人気がある。「日本でJohnnyくんの個展をやるときって、見た目のいかつい人が結構来るんですよ。Johnnyくん自身もアメリカン・タトゥーが大好きだし。でも彼は酔っ払うとギャルみたいになります」(沖冲.)。

セキンタニ・ラ・ノリヒロ Photo: Miki Matsushima

世界有数の「パッと見で誰が作ったのかが分かる」特徴的なコラージュを制作するセキンタニ・ラ・ノリヒロは、20年以上制作スタイルを変えていない。デジタルでコラージュをし、プリントアウトしたものを今度はハサミで切り抜き、再度手作業でコラージュするという複雑な工程を何度も繰り返してできた作品は、そのグロテスクな表現ゆえか、「Googleで彼の名前を検索すると、第2検索ワードで“検索してはいけない”って出てくる」(沖冲.)という。

塙将良 撮影:編集部

塙将良(はなわまさよし)は、非常に緻密な紋様をまとった半立体作品を手がける。平日はフライパン工場で勤務しながら、帰宅途中に電気店の駐車場に車を停め、毎日2時間制作をする。そうしたルーティンの中で生み出された作品はいい意味で「めっちゃ変」(太田)。作品にサザエの蓋や鹿のツノを多用するため、「最近は展覧会ごとに、観にくる人がサザエの蓋と鹿のツノを袋に入れて持ってきてくれるらしい」(沖冲.)。

HAMADARAKA Photo: Miki Matsushima

太田と沖冲.に「もう最高としか言えない」といわしめた双子アーティストのHAMADARAKAは、息の合ったコンビネーションでひとつの作品を仕上げていく。やや盛り上がった独創的なアウトライン処理や、「どうやっているのかまったく分からないテクスチャー」は、特殊メイク専門学校での経験が活きているのではないかと沖冲.は推測する。「2人が金色を使っているのを見て、ええなあと思って、僕も自分の作品に取り入れてみました」と沖冲.が言うように、mogragでは作家同士が互いの技術からヒントを得ることも多いという。

怪獣芸術家ピコピコ 撮影:編集部

会場で一際目立っている2体の着ぐるみを制作した怪獣芸術家ピコピコは、特撮第一世代だ。「1日1怪獣」を掲げ、手塗りのソフビや肖像画のような平面作品で、次々と怪獣を生み出す。「それが普通の怪獣画じゃない。ピコさんが描くのって、“怪獣の着ぐるみ”なんですよ。だから今回の作品も、よく見ると関節部分にしわがよっていたりする」(沖冲.)。

HIZGI Photo: Miki Matsushima

当展最年少のHIZGI(ヒツギ)は、「世界一かわいい女の子」を主題に、「フェティッシュカワイイ」を表現する。沖冲.が「外に向けて見せていく、その見せ方が今っぽい」と言うように、SNSでの発信をアクティブに行い、国内外に熱狂的なファンを多く持つ。「“HIZGIタトゥー”っていって、彼女の作品を模したタトゥーを入れる人が結構いるんですよ。インスタでも見るし、個展に来て見せてくれる人もいました」(太田)。

野々上聡人 撮影:編集部

2019年に「第23回岡本太郎現代芸術賞」で太郎賞を受賞した野々上聡人(ののうえあきひと)は、彫刻・油絵・アニメーションを制作の3本柱とする。木彫りや油絵でコマ撮りのアニメーションを手がける実直さは「時間の感覚がバグっているし、思考のスケール感が、一枚の平面では収まりきらないくらいデカい。何を作っても、必ず野々上ワールドになるんですよ」(沖冲.)。

薬指ささく Photo: Miki Matsushima

小さな生き物を慈愛に満ちた視線で描く薬指ささくは、太田がSNSでその作品を見て一目惚れし、声をかけたアーティストだ。和歌山に構えるアトリエには、裏山からサワガニや虫がやってくるといい、「アトリエの内と外、自然と人工、デジタルとアナログの境界が曖昧」(沖冲.)で、それがささく特有の想像力となる。「数年前、ゴキブリの死骸の絵を描いていたんですけど、あんなにかわいくてきれいなゴキブリは初めて見た。作家本人が愛でる対象として受け入れていることが伝わってくるからでしょうね」(太田)。

沖冲. 撮影:編集部

沖冲.自身も、参加作家として名を連ねる。オートマティスムをベースとした手法でカラフルな想像世界を描く作風と符号してかせずか、太田いわく、その作家活動は「超気楽でマイペース」だという。「僕、150歳まで生きようと思ってて。今44歳なんで、人生まだ1/3も来てない。だから今、伸びしろすごいですよ。一作描くごとに新たな発見がある。」(沖冲.)。

冒頭のバーカウンターも、2人の友人が経営し、京都に実在する居酒屋「村屋」からインスパイアされたものだ。それぞれのパーツは、デコレーション担当の津田伸矢を筆頭とするバーカウンターチームで組み上げた。「DIESEL側は、事前に空間の雰囲気を把握しておきたいとのことで、どんなカウンターになるのかを知りたがっていたんですけど、津田くんがかたくなに『現場でやってみないと分からへん』って(笑)。ここに来て初めて、彼の感性で組み立てていきました」(沖冲.)。

会場風景より Photo: Miki Matsushima

インタビューの終盤、参加作家のひとりであるJohnnyさんが顔を出してくれた。mogragという看板の下、全く異なるベクトルを持った作家たちが一堂に会し、全力で制作に取り組む。その熱量に奮い立ったという。

「今回は本当にmogragあっての展示。ほんとに愛ですよ。それが伝わってきて、僕、感極まって制作中に2回泣きましたからね(笑)」。

銀河を漂う一軒のカンティーナ。

あなたもどこかの惑星の住民として、そのアットホームな異空間に迷い込んでみては?

mograg gallery「”CANTINA” mograg VERSE」

会期:2023年6月10日〜9月7日
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
開館時間:11:30〜20:00(変更になる場合があります)
DIESEL ART GALLERY ウェブサイト

菊地七海

菊地七海

きくち・ななみ 編集/ライター。1986年生まれ、国際基督教大学卒業。『美術手帖』や書籍、ウェブサイトなどで編集・執筆を行う。アート、スポーツ、ライフスタイルなど、多ジャンルに適応しながら活動中。