イスラエル博物館のコレクションが来日する展覧会「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ─ モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」が、三菱一号館美術館で10月15日から2022年1月16日まで開催される。
イスラエル最大の文化施設であり、世界有数の芸術・考古学博物館として年間およそ92万人が来場するイスラエル博物館。2000年前の世界最古の聖書「死海文書」を所蔵する「死海写本館」や、イサム・ノグチによって設計された第二神殿時代のエルサレムを再現した「ビリー・ローズ・アート・ガーデン」などを擁し、所蔵品は50万点にのぼる同館は、じつは印象派とポスト印象派の珠玉のコレクションを誇る。しかし近現代美術部門の所蔵品の総体が他館に巡回する機会はほとんどなく、今回は数々の名作が日本で初めて展示される貴重な機会となる。
本展は「光の系譜」をテーマに、「1:水の風景と反映」「2:自然と人のいる風景」「3:都市の情景」「4:人物と静物」という4つの章立てに沿って、バルビゾン派から印象派の誕生と発展、ポスト印象派に至るまでの芸術運動の流れを追う。ここではなかでも注目の作品を紹介したい。
印象派と聞いて、まず最初にクロード・モネによる一連の「睡蓮」を思い浮かべる人は多いだろう。モネには「睡蓮」を描いた連作として、第一の「連作」(1899〜90)と第二の「連作」(1903〜08)と呼ばれるものがあり、さらに連作の頂点としてオランジュリー美術館所蔵の壁画大の作品群がある。本展に出品される《睡蓮の池》(1907)は第二の「連作」に含まれるものだ。この48点のキャンバスで構成された連作は、1909年5月にデュラン=リュエル画廊で「睡蓮:水の風景連作」展として発表された。
1840年に生まれたモネは、人生の折り返し時期にあたる83年にジヴェルニーに移り住み、そこに有名な庭を築いた。そして睡蓮を栽培できるように改修された「水の庭」で、静謐で瞑想的な水辺を描いた多数の作品を生み出すことになる。《睡蓮の池》(1907)は、水に反射する像と実際に存在する像とがシームレスに溶け合い、空や雲、木々が映り込む水面が丹念に描かれている。本展図録に収録された安井裕雄(同館上席学芸員)のエッセイ「ジヴェルニーの『水の庭』の生成と、『睡蓮:水の風景連作』展」によると、モネは植物としての睡蓮それ自体ではなく、水とその反映にこそ関心を持っていたという。
本展には特別展示として、同連作からDIC川村記念美術館、和泉市久保惣記念美術館、東京富士美術館(11月30日〜)所蔵の《睡蓮》も展示されている。同じ構図でありながら、その時々の気候や時間帯に応じて風景の微細な変化をとらえたモネの描写を堪能できるだろう。
また「1:水の風景と反映」の章では、ジャン=バティスト・カミーユ・コローやウジェーヌ・ブーダン、ポール・セザンヌらによる海や川といった水辺の風景画が並ぶ。
「2:自然と人のいる風景」には、ポール・ゴーガンの画家としての初期から晩年までの4作品が展示されている。ゴーガンは1870年代にパリの証券取引所に勤める傍ら独学で絵を描き、76年に作品がサロンで展示されると、徐々に画家として知られるようになる。
出展される《ヴォージラールの家》(1880)はパリ郊外、《マルティニークの村》(1887)は中米カリブ海のマルティニーク、《ウパウパ(炎の踊り)》(1891)はタヒチ、作家が亡くなる1903年の初頭に描かれた《犬のいる風景》はマルケサス諸島のヒヴァ・オアと、それぞれゴーガンが移り住んだ土地の風景が描かれている。様式や手法の変遷を辿りながら、各作品を鑑賞するのも面白い。
また本章ではほかに、フィンセント・ファン・ゴッホのアルル時代の作品や、農民や田園風景を描いたカミーユ・ピサロの美しい作品などを見ることができる。
「3:都市の情景」「4:人物と静物」では、当時の画家たちにとって自然と並んで大きな関心の的であった都市の風景と、そこに暮らす中産階級の人々の暮らしを描いた作品が並ぶ。エドガー・ドガやピエール=オーギュスト・ルノワールといった人気作家はもちろん、ドイツで活躍したユダヤ系の画家レッサー・ユリィを代表する夜の街の風景なども出品。19世紀から20世紀初頭にかけて西洋諸国各地に波及した「光」をめぐる絵画の革新を、新たな視点から見ることができる貴重な機会だ。
なお巡回展が大阪・あべのハルカス美術館にて2022年1月28日から4月3日まで開催される。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)