「光る金継ぎ」が彩る東京ミッドタウン八重洲のクリスマス。光と音のインタラクティブなツリーが八重洲と能登をつなぐ

総合演出はHYTEK Inc.、音楽はKan Sanoが担当。石川で盛んな伝統工芸「金継ぎ」をモチーフに、石川にゆかりの人々の協力により制作された。ナカムラクニオによる金継ぎワークショップも開催。

「キンツギツギキ」

東京駅の向かい、東京ミッドタウン八重洲1階の屋外広場「ガレリア」に光と音を使ったインタラクティブなクリスマスツリー「キンツギツギキ」が登場している。

東京ミッドタウン八重洲のクリスマスイベント「MIDTOWN YAESU CHRISTMAS 2024」の一環で展開されているこのツリーは、石川県で盛んな伝統工芸である金継ぎをモチーフにしたものだ。ここでは、制作に携わった人々の声を紹介しながら、その見どころをお届けする。

手をかざすと、光が枝を駆け抜けるインタラクティブな演出

割れたり欠けたりした皿や器などの陶磁器を、漆と金や銀で装飾しながら修復する「金継ぎ」。今年の東京ミッドタウン八重洲のクリスマスイルミネーションでは、近年、国内外から広く注目集めるこの伝統技法に注目した。訪れた人がツリーの台座に手をかざすと、割れたパーツをつなぎあわせる金継ぎの線のように光が木々の枝の上を駆け抜け、幻想的な音楽が奏でられる。

天井からは長さ3mのカーテン状のイルミネーション装飾「ガレリアウィンターライツ」が吊るされている。ゆるやかに明滅する光は、ツリーとともに空間全体を照らし出す。

「ガレリアウィンターライツ」

総合演出を手がけたのは、クリエイティブ集団HYTEK Inc.、空間・インタラクション設計は博展が担当。音楽は石川県出身のKan Sanoが提供したほか、ツリーに使われている能登の木材の調達に際しては石川県のフルタニランバー、のと復耕ラボ、古材クリエイト青組と連携しており、石川や能登にゆかりのある様々な人や企業の協力のもとで制作された。

今年のクリスマスのイルミネーションで、「金継ぎ」をモチーフとしたのはなぜなのだろうか。

2023年にグランドオープンした東京ミッドタウン八重洲は、施設のコンセプトに「ジャパン・プレゼンテーション・フィールド 〜日本の夢が集う街。世界の夢に育つ街〜」を掲げる。八重洲が江戸時代から職人の集うクラフトマンシップの街として栄えていたことを背景に、青森県の「ねぶた」を取り上げた昨年に続いて、「ジャパンクラフト」をイルミネーションのテーマとした。

「そのなかで、石川県が金箔の日本一の生産地であり、輪島塗など漆芸が伝わるなどゆかりの深い地であること、また今年は能登の震災のあとに初めて迎えるクリスマスということで、八重洲から被災地に光をあてることができたらという思いで『キンツギツギキ』を制作するに至りました」と東京ミッドタウンマネジメントの担当者は話す。

演出はクリエイティブ集団HYTEK Inc.。石川県の企業との協働で目指したものとは?

ツリーのインタラクティブな演出においては、訪れた人々が能動的にツリーに関わることでつながりが生まれるという点がポイントのひとつだった。金継ぎによる柔らかな輝きや、異なる木と木が光によってつながっていく様を表現するため、光の色合いや速さ、音楽とのバランスを見ながら細かな調整を行なったという。

HYTEK Inc.代表取締役/クリエティブディレクターの満永隆哉は、「石川・能登と東京・八重洲とを光がつないでいく様子を視聴するだけではなく、訪れた人々の手によってつながりを作っていくことを目指し、インタラクティブな体験装置の実装に至りました。台座に手をかざすと、手元や東京・八重洲の根本から、石川・能登の木材が使われた枝の節々へと光が駆け巡る、特別な演出を体験いただけます」と演出におけるこだわりを明かす。

プライベートでも能登エリアにボランティアで訪れ、被災の傷跡を目の当たりにしたという満永。今回の企画の実現に向けて「様々な障壁はありましたが、東京の制作チームの困難と比べ物にならないほど、何よりも大変な思いをされたのは被災された方々です」と石川県の企業との協働を振り返る。

「プロジェクトが進行してからも豪雨による被害が重なり、どこまでご協力いただくべきなのか含め、我々もご相談しながら実施に向け準備を進め、みなさまのご協力でなんとか形にすることができました。異なる木と木とをつなぎ合わせながら巨大なオブジェクトを作る造作はもちろん、通りがかる人々に対し、恐怖感や危機感という訴求ではなく、石川・能登エリアに明るい光を当てられるような造形を模索しました」(満永)

美術家のナカムラクニオによる金継ぎワークショップ

関連イベントとして11月30日、12月7日、12月14日に開催される金継ぎワークショップでは、収益を石川の復興支援として寄付する。講師を務めるのは、自身も輪島のアトリエが被災し、現在は震災で破損した陶器や漆器の金継ぎボランティアを行っている美術家のナカムラクニオ。輪島産の漆、金沢産の金粉を用いた講座で、輪島の現状なども話しながら金継ぎの歴史や文化を伝える。

1Fアトリウムでは、ナカムラによる金継ぎ作品の展示も行われている。

Kan Sanoがピアノ1台で奏でる音楽

11月27日には、音楽を手がけたKan Sanoによるライブが行われた。自身も能登半島地震を金沢の実家で経験したというKan Sano。震災直後には、能登支援の寄付を募るため、地元の本屋・オヨヨ書林でInstagram配信による投げ銭ライブを行った。それを今回の総合演出を務める満永隆哉が見ていたことから、「キンツギツギキ」でのコラボレーションが実現したという。

Kan Sano

「キンツギツギキ」のために書き下ろした音楽は、ピアノのみで作られた楽曲。Kan Sanoは、「なるべく少ない音数で空間を作れたらいいなと考えました。『キンツギツギキ』がすごく存在感があって、イルミネーションもきれいなので、空間を支配するというよりは、空間に馴染むような音楽をピアノでできたら、という思いで作ったんです」と楽曲の制作秘話を明かす。

ツリーをバックに行われたライブでは、能登の木材を使ってリニューアルされたアップライトピアノ1台による演奏で、八重洲の夜を温かく彩った。ライブ中、このピアノを作ったのが学生の頃に金沢で縁のあったKan Sanoの恩人だったというエピソードも明かされ、石川と東京を音楽がつなぐ一夜となった。

なお、東京ミッドタウン八重洲の正面エントランス前に設置されている吉岡徳仁の彫刻《STAR》も、12月4日〜2025年1月13日までの期間限定で特別なライトアップが行われる。高さ10mにおよぶこの作品は、輝くひとつ星に平和への願いが込められている。

東京駅のほど近く、多くの人が行き交う街並みを温かな光が照らす1か月。クリスマス当日までの期間限定の演出を楽しんでほしい。

東京ミッドタウン八重洲外観

後藤美波(編集部)

後藤美波(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。