公開日:2021年7月20日

東京の空に出現した顔:人々を騒然とさせた「目」の《まさゆめ》をプレイバック

東京上空に出現し、SNSを中心に大きな話題を巻き起こした顔の正体は?

2021年7月16日6:00、代々木公園の上空に巨大な顔が浮かび上がった。文字だけを見てもすぐには状況を把握できないだろうが、その意味と異色の佇まいは、写真を見ればたちまち理解できる。インパクトある顔の様子はまたたくまにTwitterで拡散され、「東京の空」は一時トレンドワードにもなった。

この巨大な顔の正体は、荒神明香、南川憲二、増井宏文が中心メンバーの現代アートチーム「目[mé]」によるアートプロジェクト《まさゆめ》。オリンピック・パラリンピックが開催される東京を文化面から盛り上がるための取り組み「Tokyo Tokyo FESTIVAL」で、「パビリオン・トウキョウ2021」などとともに採択された企画のひとつだ。

コロナ禍での実施延期を経て、構想から3年越しに実現した《まさゆめ》について、目[mé]のディレクター、南川憲二は「今朝、顔が空に浮かぶのを見たときは夢かと思いました。実態のないものを(構想を起点に)3年くらい追いかけきたんです」と感慨深く語る。

そもそも本プロジェクトは、目[mé]のメンバーでアーティストの荒神明香が14歳のときに見た「人間の顔が月のように浮かんでいる夢」に端を発し、2014年には宇都宮美術館で《おじさんの顔が空に浮かぶ日》として実現。今回の《まさゆめ》はこの東京版であり、2019年の顔募集や顔会議、トークセッションシリーズなど、多くの人が関わりながら今回の開催に至った。

目《まさゆめ》 撮影:五十嵐智行
目《まさゆめ》 撮影:津島岳央

一般告知はもちろんプレスにさえ開催日時が明かされていなかった本作は、7月16日限定のシークレット発表のかたちをとった。これには、作品の鑑賞体験=実際に現場に赴き作品を見ることだけに限定されないというアーティストのコンセプトを反映している。また、事前告知をしないことで偶然その場に居合わせた人が作品に遭遇する可能性、SNSやメディアの報道を通じて様々な場所やタイミングで一人ひとりが固有の体験をすること、さらには様々な人の視点やとらえ方を通して後から《まさゆめ》を知ることも重要な鑑賞のあり方だと考えているのだという。

国内外1000人以上の応募をくぐり抜けた今回の顔は「はね返す顔」をテーマに選ばれ、風景に溶け込むようにカラーではなく白黒が用いられた。顔会議では参加者から「見た人が色々な表情、気持ちを投影できる顔」「なぜこの顔が浮かんでいるの?という謎を誘発する顔がいいのでは」といったアイデアも出たというが、筆者には東京上空でゆらゆらと揺れるその様子から、毅然とした表情と困惑するような表情が入れ替わり立ち替わり現れているように見えた。

目《まさゆめ》 撮影:金田幸三
顔会議 クロストークの様子。左から増井宏文、南川憲二、荒神明香(以上、「目」メンバー)、法廷画家の宮脇周作、「顔学」の権威である原島博

1日限定のプロジェクトで、「実際に見たかった」と惜しむ声も聞かれたこの《まさゆめ》。再浮遊について目[mé]は「やるかもしれないし、もうやらないかもしれません。告知をせずに発表するという方法をとりたいと考えているので、もし、もう一度顔が浮かぶことがあれば、その出会いをぜひ体験していただけたら幸いです」と説明する。

SNSを通して多くの人が目撃した、夢に出てきそうな今回の光景。夢に見て出会えば、そのときにはまぎれもなく各々の《まさゆめ》になるのだろう。

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。