公開日:2021年11月13日

アジア初にして最大級のヴィジュアル文化美術館、香港「M+」がついにオープン。ヘルツォーク&ド・ムーロンの建築など見どころを紹介

ヴィジュアルカルチャーを専門とするアジア最大級の美術館、その概要とコレクションをお届け。

M+外観(夜) Photo : Kevin Mak © Kevin Mak Courtesy of Herzog & de Meuron

香港の大規模ミュージアムM+(エムプラス)が、計画開始から10年以上の歳月を経て11月12日、ついに開館した。当初の開館予定は2017年。そこから工事の遅れなどで幾度の延期を経ての待望のオープンとなった。

ロンドンのテート・モダン、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、パリのポンピドゥー・センターなど世界的な美術館に匹敵する美術館を目指して作られたM+は、20〜21世紀のヴィジュアル・アート、デザイン、建築、映像を中心に収集と展示を行い、アジア初のヴィジュアル文化のグローバルミュージアムであると標榜する。世界中のアートファンの注目が集まる同館の様子を紹介する。

M+外観 Photo : Virgile Simon Bertrand © Virgile Simon Bertrand Courtesy of Herzog & de Meuron
M+内観 Photo : Edman Choy © Virgile Simon Bertrand Courtesy of Herzog & de Meuron

建築と施設

M+は、香港のなかでもアートや文化のハブとして開発が著しい西九龍文化区、ビクトリア・ハーバーのウォーターフロントに位置し、総面積は6万5000平米。そのうち展示空間は1万7000平米、33ギャラリーにも及ぶ。

話題の建築は、プラダの東京旗艦店やテート・モダンなどを設計したスイスの建築事務所、ヘルツォーク&ド・ムーロンが、同じく国際的建築事務所のTFPファレルズ、エンジニアリング会社のアラップの協力を得て設計。来場者はゆるやかにつながる各空間をスムーズに移動できる。建物のファサードには、コレクション作品や特別なコミッション、美術館に関するコンテンツを表示するためのLEDシステムが設置されており、きらびやかな香港の夜景でも一際強い存在感を放つ。

建物内にはリサーチセンター、マルチメディアライブラリー、レストラン、映画館など、作品鑑賞のみならず、教育や研究、エンターテインメント施設としての多様な機能を備える。

ビクトリア・ハーバーのウォーターフロントに位置するM+ Photo: Kevin Mak © Kevin Mak Courtesy of Herzog & de Meuron
M+のメインホール Photo: Kevin Mak © Kevin Mak Courtesy of Herzog & de Meuron
M+のアトリウム Photo: Kevin Mak © Kevin Mak Courtesy of Herzog & de Meuron

1500点のコレクションを展示

M+が2012年より集めてきたコレクションの一部が披露されるオープニングは、アジアを中心に世界各地のヴィジュアル・アート約1500点を紹介するという大規模なもの。1960年代から現在までの香港の変貌と独自の文化を紹介する「Hong Kong: Here and Beyond」、スイスのビッグコレクター、ウリ・シグ(Uli Sigg)の寄贈コレクションを通して1970年代から2000年代までの中国美術を振り返る「M+ Sigg Collection: From Revolution to Globalisation」、アジアの視点から戦後の国際的なヴィジュアル・アートを語る「Individuals, Networks, Expressions」など核となる6のテーマ展が開催される。

「M+ Sigg Collection: From Revolution to Globalisation」の展示風景 Photo: Lok Cheng, M+ Courtesy of M+, Hong Kong
「Individuals, Networks, Expressions」の展示風景 Photo: Lok Cheng, M+ Courtesy of M+, Hong Kong

そのなかから、いくつかのコレクション作品を紹介していこう。

林天苗(リン・ティエンミャオ)《Braiding》(1998)

アーティストの巨大なセルフ・ポートレイトと、編み物をする手が映された小さなスクリーン、それらを結ぶコットンやリネンの組み紐。《Braiding》は、長いあいだ、社会における女性の役割に「紐付け」られた仕事である編み物や織り物と、中性的なセルフ・ポートレイトを通して、ジェンダーに対する先入観を考えさせる作品。

林天苗(リン・ティエンミャオ) Braiding 1998 Digital print on fabric, cotton thread, and single- channel digital video (black and white, silent)  M+ Sigg Collection, Hong Kong. By donation © Lin Tianmiao Photo: Dan Leung, M+

倉俣史朗《きよ友(Kiyotomo sushi bar)》(1988)

世界的なインテリアデザイナーと知られる倉俣史朗。同作家がデザインを手がけ1988年に新橋にオープンした寿司屋「きよ友」が、外観内観ともに再現。緩やかなカーブを描き障子を連想させる天井や、青と赤のラインが配された扉によって、日本の伝統とモダンさが同居する空間が生み出されている。

倉俣史朗 きよ友(Kiyotomo sushi bar) 1988 Japanese cedar-veneered wood, steel, fabric, granite, glass, and acrylic Purchase with partial gift of Richard Schlagman, 2014 © Kuramata Design Studio
倉俣史朗 きよ友(Kiyotomo sushi bar) 1988 Japanese cedar-veneered wood, steel, fabric, granite, glass, and acrylic Purchase with partial gift of Richard Schlagman, 2014 © Kuramata Design Studio

マルセル・デュシャン《From or by Marcel Duchamp or Rrose Sélavy(Box in a Valise)》(1935–41/1963–66)

トランクの箱を意味する本作は、デュシャンの80個にも及ぶ作品のレプリカをトランクに収め、「持ち運び可能な美術館」として作品化したもの。展示ではその内部や関連する写真も展示される。

マルセル・デュシャン From or by Marcel Duchamp or Rrose Sélavy (Box in a Valise) 1935–1941 / 1963–1966 Red leather valise lined with upholstered cardboard containing miniature replicas and reproductions in collotype, relief halftone, screen print, offset lithograph, photograph with surface coating, printed colour and hand colouring on paper, cardboard, clear acetate, vinyl, glass, and ceramic; series F overall (closed): 9.5 × 38.2 × 41 cm overall (open, approx. ): 40 × 108 × 91.5 cm

アントニー・ゴームリー《Asian Field》(2003)

アントニー・ゴームリーが世界各地で行ってきた彫刻プロジェクト《Field》のアジアバージョン《Asian Field》は、中国・広州で制作された。住民約300人を招いてゴームリーが提示した条件は、「手のひらサイズ」「直立できること」「目が2つあること」の3つだけ。300人によって、約20万個の粘土彫刻が作られた。

アントニー・ゴームリー Asian Field 2003 Clay Dimensions variable M+, Hong Kong. Museum purchase and gift of anonymous Hong Kong donor, 2015 © Antony Gormley
アントニー・ゴームリー《Asian Field》(2003)展示風景 Photo: Kevin Mak © Kevin Mak Courtesy of Herzog & de Meuron

《Neon sign for Kai Kee Mahjong parlour, Kwun Tong branch》

コレクションは、著名アーティストの作品だけではない。街並みの一部として、また映画や小説を通じて香港を象徴するものとして認知されてきたネオンサイン。文化的な重要性を紹介するだけではなく、都市化する街から消えゆくネオンサインを保存することも目的に掲げて収蔵された。

Neon sign for Kai Kee Mahjong parlour, Kwun Tong branch 1976 Exhausted glass tubes, neon gas, tin, steel, and paint Gift of Kai Kee Fun Den Co. Ltd., 2013

今回のM+開館に際して、テート、MoMAなど各国の美術館関係者が祝福のコメントを寄せた。森美術館館長の片岡真実は、「M+をグローバルなミュージアム・コミュニティ、とくにアジア太平洋地域のミュージアム・コミュニティに迎え入れることができ、感無量です。アートは人間の生活に欠かせないものであり、美術館は自分が生きていることを実感できる場所です。世界はかつてないほどの困難と複雑さに直面していますが、M+が満開になることで、より良い未来に向けて、美術館の使命をともに達成できると確信しています」として、M+が今後のアジアミュージアム・コミュニティを盛り上げるための重要な一員となることに期待を示している。

中国を中心に、アジアや日本の美術作品の収集も積極的に行うM+は、今後アジアの美術館のハブとなっていくのだろうか。ついに本格始動したM+の今後に注目が集まっている。

M+のメインホール Photo: Kevin Mak © Kevin Mak Courtesy of Herzog & de Meuron
蔡國強(さい・こっきょう、ツァイ・グオチャン) Gunpowder Drawing No. 8–A5 1988 Gunpowder and acrylic on canvas © Cai Guo-Qiang
ヤン・ヴォー We the People(detail) 2011–2016 © Danh Vo © Rheinisches Bildarchiv Cologne, Schlier, Britta, rba_d038677_14

Art Beat News

Art Beat News

Art Beat Newsでは、アート・デザインにまつわる国内外の重要なニュースをお伝えしていきます。