2021年から、京都という歴史的な街で、国内外の写真家の作品を展示する「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」。第10回が、4月8日に開幕した。
KYOTOGRAPHIEの特徴は、京都ならではの会場でプログラムが展開すること。今年もユニークなロケーションでの展示が楽しめた。
『VOGUE』などのファッション誌やブランドの広告を数多く手掛けたギイ ブルダン(1928〜1991)の展示は、近代の名建築・京都文化博物館別館で。ポラロイド写真、雑誌のアーカイブや記録映像などから、シュールで官能的な作品の創作過程がうかがい知られる。
オリエンタルな作品のモデルに、日本人モデルのレジェンド、山口小夜子が起用されているので、お見逃しなく。
アーヴィング・ペン(1928〜1991)展は、昭和5年(1930年)に京都市公会堂東館として建築されたレトロな京都市美術館別館で。ポートレイトの巨匠・ペンの、初期のストリートスナップから静物、ヌードなど、珍しい作品までをオリジナルプリントで展示。三角形の黒い壁に包まれた展示空間は、撮影セットに迷い込んだようで、ペンの驚くべき多様な、そして完璧な世界に没入できる。
奈良原一高(1931〜2020)は、細江英公、東松照明らとグループ「VIVO」を結成し、日本の写真史に重要な足跡を残した。その奈良原の「Japanesque」シリーズ〈禅〉が、禅寺の建仁寺・両足院で展示されている。戦後、カメラという西洋文化を表現手段にする奈良原が、日本文化に向き合い、禅の静と動を描こうとした格闘が前衛的な作品に焼き付けられている。写真の修行僧の「動」と床の間に掛けられた禅画の「静」のコントラストが、ほっこりとテンションを和ませている。
「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」は、スタイルもテーマも10人10様の現代日本の女性作家を紹介するプログラム。多様な表現のそれぞれに生、死、命への深い眼差しが共通していることが印象的だった。
鈴木麻弓は、不妊治療を経験して感じた、行き場のない思いを写真に可視化した。売り場に取り残された野菜と自身の肉体とを対峙させ、何かを生み出すことの期待と不安、そして創作を通した慰めについての静かな告白を聞くようだった。
ジェンダーやマイノリティの問題を取り上げる岡部桃の展示は、トランスジェンダーの剥き出しの肖像あり、不妊治療の末に出産する赤裸々なセルフドキュメンタリーあり、ゴミのブロー・アップあり。露悪的寸前のダイナミックさのなかに「新しい命にもゴミにも、等しく力強さと美が宿っている」という生への圧倒的な肯定感が放出されている。
清水はるみの「mutation/creation」シリーズは、突然変異、あるいは品種改良された異形の動植物の分類図録。生の操作はネガティブな文脈で語られるが、じつは自然界にも変異はあり、その奇妙な姿はつねに人の好奇心を刺激してきた。カラフルな背景で撮影された生き物たちの姿から、それがじつは「ポップ」であるとも、気づかされる。
アフリカのアーティストを紹介するプログラムの多彩さもKYOTOGRAPHIEのユニークさ。
高校生のときにiPhoneで撮影した作品で注目を浴び、アフリカを代表するビジュアルアーティストとなったプリンス・ジャスィの、色と色のぶつかり合いから生まれる目の覚めるようなヴィヴィッドなイメージには、音楽的なグルーヴがある。
イタリア系セネガル人、マイレーナ・ゲレージは、「ルーツ」をテーマに、宗教、歴史、文化の融合するイメージを象徴的に描く。古い建物に包まれた作品の聖的な色彩とシルエットから醸されるオーラに吸い込まれるよう。
関連イベントとして、これからが期待される写真家の公募展「KG +」も開催されている。「家」というテーマを写真作品と展示構成とで構成する中国人写真家の王露(Wang Lu)ほか、8名の写真家が、現代社会をとりまく様々なテーマに取り組んでいる。
インフォメーションセンターは、京都市指定有形文化財「八竹庵(旧川崎家住宅)」に設けられていて、参加アーティストに関連する書籍を取り扱うブックショップもある。
このほか、KYOTOGRAPHIEと連携、同時開催される写真展は60ヶ所以上。文字通り京都の街が、写真展だらけの1か月になる。
会期は5月8日まで。入場料、休館日は会場により異なるため、公式サイトを確認してほしい。