公開日:2016年9月16日

KULT「MASKS」インタビュー

“アジアのハブシティ”東京に集まった「マスク」、アジア7カ国のアーティスト26組の作品が集結

シンガポールで『KULT』なる雑誌が文字通りカルト的人気を博しているのをご存知だろうか。たとえば〈恐怖〉〈食物〉〈貧困〉といったテーマで特集を組み、アジアのヴィジュアルアーツを紹介しているフリーマガジンだ。そのKULTが今、アジア7カ国のアーティスト26組の作品を「MASK」というテーマでキュレーションした展覧会「MASKS」が渋谷のDIESEL ART GALLERYで開催している。どうやらKULTとは単なる雑誌名というわけではないらしい。来日したクリエイティブ・ディレクターのスティーヴとキュレーターのザラニに話を聞いた。

手前はハンドカットペーパーに映像を投影した、インドネシアの作家Rudy Atjehの《The Next Unknown / Follower Generation》(2016)。奥の絵はシンガポールのデザインスタジオBüRO UFHOの《Transcendence》(2016)。
手前はハンドカットペーパーに映像を投影した、インドネシアの作家Rudy Atjehの《The Next Unknown / Follower Generation》(2016)。奥の絵はシンガポールのデザインスタジオBüRO UFHOの《Transcendence》(2016)。
Photo: TAKAMURADAISUKE

「ビジュアルカルチャーに強い関心があって、それを発展させたい。2009年にデザインスタジオ、アートギャラリー、出版社としてスタートして、これまで世界中の1000組以上のアーティストといろんなかたちでコラボレーションしてきたよ。ものを売るだけでなく、そこから新しいアイディアを閃ける場を作りたいんだ」

シンガポールと言えば、経済的に急成長を遂げアジアにおいて存在感を増しているが、そんな彼らのホームグラウンドのアートシーンはどうなっているのだろうか。

「シンガポールの若者はあんまりアートに興味がなくて、ギャラリーに行くこともなく、シーンとしてはすごく保守的。なぜかというと、新しいスタイルのアートワークを観る機会がとても少ないから。とはいえシンガポールにも、イラストレーター、グラフィックデザイナー、フォトグラファーなど才能があるクリエイターはたくさんいて、それぞれが影響しあっている。そういう作家たちを紹介するグループショーを何度か企画するうちに、多くの人が来て、大きなサポートネットワークができてきたんだ」

『KULT』のクリエイティブ・ディレクター、スティーヴ・ローラー(右)とキュレーター、ザラニ・リシャド(左)。スティーヴはアーティストでもあり、ザラニはデザイン誌のライターでもある。
『KULT』のクリエイティブ・ディレクター、スティーヴ・ローラー(右)とキュレーター、ザラニ・リシャド(左)。スティーヴはアーティストでもあり、ザラニはデザイン誌のライターでもある。

雑誌『KULT』では、決まってアーティストの連絡先を掲載している。雑誌を1万部刷って発行すると、それはアーティストの発表の場になり、企業からアーティストにダイレクトにオファーが来たり、ギャラリーや他メディアが取り上げるきっかけになったり、アーティスト同士のつながりが生まれたりもする。こうしたKULTのインキュベーター的な考え方によって、クリエイティブコミュニティが急速に発展していったという。

「アーティストが紹介してくれてどんどんつながっていくんだ。嬉しいことに、アーティストはギャラリーに所属していないかぎり、みんな喜んで僕らからの掲載のオファーを受けてくれるよ。時には商業的な仕事より優先してね。ちなみに僕らは金持ちというわけでもなく、アーティストとして展覧会をしたり、ライターの仕事をしたりもしながらKULTをやっていて、パッションで成り立っていると言えるかも」

スティーヴが「最高のアーティストの作品だよ」と紹介してくれたMOJOKOの《Mirror Man》(2016)。正面に立つと鏡に自分の顔が映り込む。MOJOKOとは実はスティーブの別名だった。
スティーヴが「最高のアーティストの作品だよ」と紹介してくれたMOJOKOの《Mirror Man》(2016)。正面に立つと鏡に自分の顔が映り込む。MOJOKOとは実はスティーブの別名だった。
Photo: TAKAMURADAISUKE

シンガポールをはじめ、タイ、インドネシア、フィリピン、台湾、韓国、日本の7カ国から集められた作家26組の展示作品は、ペインティング、彫刻、映像、陶芸、テキスタイル、服装品などさまざま。それらが「MASK」というテーマで貫かれている。

「テーマは、現代の社会を象徴するインターネット、アイデンティティー、変身、障害、オンラインのアバター、といった要素から決めたんだ。アーティストたちにこういった問題についてブリーフィングしたわけ。これらの作品はそれに対する回答と言えるね」

今回の開催地である東京は“仮面社会”などと揶揄されることもある。

「たしかに、いまの日本はみんなマスクをしているようなものだよね(笑)。オンラインのアバター、コスプレ……他人に迎合することが仮面とも言えるね。日本こそがこのテーマに最適な国だよ。日本は西洋の文化の影響を非常に強く受けているけれど、それをさらに独自の文化として発信する“港”のようなメンタリティがある。シンガポールは日本のカルチャーの影響をとても強く受けているよ」

彼らが“アジアのハブシティ”と呼ぶ東京につくりあげたカルトな場に足を運んでみれば、触発されるものがあるはず。

今回の展示作品はすべて販売されており、価格帯は3万円台のペインティングから80万円の木彫まで幅広い。
今回の展示作品はすべて販売されており、価格帯は3万円台のペインティングから80万円の木彫まで幅広い。
Photo: TAKAMURADAISUKE

■展覧会概要
タイトル:MASKS (マスクス)
サブタイトル: An exhibition curated by Kult In collaboration with ASHU
会期:2016年8月19日(金) 〜 11月11日(金)
会場:DIESEL ART GALLERY
住所: 東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
電話番号: 03-6427-5955
開館時間: 11:30〜21:00
休館日: 不定休
キュレーション:Kult
コ・キュレーション:亜洲中西屋(ASHU)
http://www.diesel.co.jp/art

Sayuri Kobayashi

Sayuri Kobayashi

雑食系編集/ライター。ヴェネチア・ビエンナーレ、恐山、釜ヶ崎のドヤ街、おもしろいものがあるところならどこへでも。