各地で展覧会の開催が引きもきらない人気画家、伊藤若冲(1716〜1800)。これまで多くの作品が紹介されてきたが、知られざる作品は、まだあった。今回、発見されたのは、絹本彩色の絵巻。現存する若冲の絵巻としては、佐野市立吉澤記念美術館所蔵の《菜蟲譜》(重要文化財)があるが、今回の発見で、若冲の絵巻は2例目となった。
絵巻を入手したのは、今年開館から5年を迎える福田美術館だ。《果蔬図巻(かそずかん)》と名付けられ、3月5日に報道関係者に披露された。
絵巻は、絹本着色の縦30.5cm、横277.5cmの大作。菊の花から始まり、ウド、クワイ、梨、ナスなど、40種類の花、野菜と果物が、季節に関わらない順番で描かれている。ランダムに、様々な角度に配置された野菜たちからにじみ出る軽快な雰囲気、そして色彩の鮮やかさ。とくにグラデーションの美しさには、保存の良さが感じられる。
同館学芸課長の岡田秀之は、この作品について「昨年8月に、ヨーロッパの個人コレクターの所蔵だったものを、大阪の美術商を通して入手しました。これまでの記録にはない作品でしたが、絵に若冲の署名『米斗翁行年七十六歳画』と『若冲居士』の印があり、佐野市立吉澤記念美術館の《菜蟲譜》と筆法が似ていること、跋文を寄せているのが、梅荘顕常(若冲をサポートした禅僧、大典)で、その筆跡も同じであることが、真筆と認める決め手になりました」と語る。
伊藤若冲は、江戸期18世紀の京都で人気を博した画家だが、現在の人気につながる再評価のきっかけとなったのが、辻惟雄(つじ・のぶお)の著作『奇想の系譜』(1970)だった。今回の若冲の絵巻は、その辻氏をして「これは大物が出ましたね」と言わしめる大発見となった。辻氏はさらに「色の対比をきちんと考えた彩色が興味深い」と、この絵巻を評している。
よく知られているように、伊藤若冲は、錦市場の青物問屋の家に生まれ、絵は独学だった。そのせいか、若冲にとって野菜は特別な画題で、様々な趣向の野菜の絵を描いた。国宝指定されている《果蔬涅槃図》(京都国立博物館蔵)は、釈迦の入滅を描く涅槃図を、果蔬(野菜と果物)によって表現した。
この絵巻《果蔬図巻(かそずかん)》も、《菜蟲譜》と同じく、野菜のモチーフを描いていて、同様に生き生きして見事であるが、構図は気の向くままという感じもあり、初々しい。《菜蟲譜》の予行というわけではないだろうが、よりリラックスして描かれた作品という印象を与える。
福田美術館は、2019年に京都の景勝地、嵐山に開館。江戸時代から近代にかけての日本画家の作品、約2000点を所有する。なかでも充実するのは、京都ゆかりの画家の作品だ。若冲の作品は、2020年の若冲誕生〜葛藤の向こうがわ〜」展で披露された、最初期の作品《蕪に双鶏図》(18世紀)、12枚からなる《群鶏図押絵貼屏風》(1797)などを所蔵している。作品の収集にも力を入れ、先ごろ、52年ぶりに再発見された長沢芦雪の《大黒天図》も取得、公開された。
この新発見の絵巻《果蔬図巻(かそずかん)》は、2024年10月から始まる、若冲をテーマにした企画展「開館5周年記念特別展 :京都の嵐山に舞い降りた奇跡〜伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ?」で展示される予定だ。
美術館公式サイト:https://fukuda-art-museum.jp