アメリカにて活動をスタートしたアーティスト、ジョセフ・ボルスタッドと河野真悠子が、日本ではじめて作品を発表する場として選んだのは、なんと都心のど真ん中にある寺院。人の行き来が常に絶えない都心の真ん中に、一歩踏み入ればこつぜんとあらわれる広々とした敷地。夏の太陽をあびて大きく濃く茂った木々。世の中の喧噪からすっかり隔離された、静かでゆっくり流れる空気。彼らの作品は、その寺の敷地内の一角に建つ小さなギャラリーで発表された。
私が特に気に入ったのは、二人の作品に共通してみられる独特のユーモアだ。ジョセフの作品は既製の同じ形状のオブジェをある一定の、または複数の法則で数多く組み合わせることによって立体的なフォルムをつくり出している。よくみればひとつひとつのオブジェクトがある生き物を模した形状をしていることから、そこに感情移入して、つい笑いを誘われてしまう。
河野の作品で秀逸だったのは、ゴーストシリーズだろう。優美な白い塊は、どこまでも有機的なカーブを描き、穴のあいた空洞の部分は貝殻のように繊細で薄い。小さく愛らしいその塊は、もとはお土産や部屋の飾り用に販売されている小動物の置物たち。その外側の植毛加工をひたすらていねいにやすりなどで削りとっていくと、原型の白いプラスチックが現れる。そのうち、もろい部分は崩れ落ち、厚い部分が残ってくるという。たったひとつ意図的に残される瞳は、ハッとするほど強い光を放ってくる。
「寺院」というロケーションにはじめは驚いたが、彼らが意識していたかどうかは別にして、この独特の作品観とのマッチングに納得。そして久しぶりに変な媚や気負いのないアートに出会えたことに、純粋に心地よさを覚えた。近日またどこかで作品を発表するとしても、今回と同様、人知れぬ場所を発表の場と決めて、拍子抜けするくらい、さらりとかわしていきそうな二人だろうから、見る側としては彼らの情報をしっかりつかまえて、この心地よいシュールな世界を是非また体験したいと思うのだった。
Chihiro Murakami
Chihiro Murakami