ストリートファッションのパイオニア、渋谷に登場!
思わず目が釘付けになってしまう、巨大な2枚のTシャツ。ポップな色づかいのアニマル・プリントに、著名人たちの顔・顔・顔!
明治通りに面するDIESEL ART GALLERYで開催中の「SENSIBILITY AND WONDER」に一歩足を踏み入れると、刺激的な空間が広がっている。
めくるめくパンクな世界を手がけるのは、ジョン・ドーヴ&モーリー・ホワイト※1だ。イギリス出身の2人は、公私ともに最高のパートナーとしてさまざまな作品を発表してきた。1960年代から現在までストリートカルチャーの第一線を走り続ける彼らは、イギー・ポップやポール・マッカートニーらミュージシャンとの交流も深い。
今回の展覧会には、日本未発表の作品が多数来日している。Tokyo Art Beatでは、ジョン・ドーヴ&モーリー・ホワイトの2人と本展覧会キュレーターの小石祐介※2に話を聞いた。
夫婦であり、親友であり、戦友。伝説のアーティストの素顔にせまる
この日も、サングラスにノースリーブジャケットのパンクなファッションでばっちり決めたジョンとモーリー。アーティスト活動をともに行う2人だが、どのような体制で作品づくりをしているのか尋ねてみた。
「彼はEメール担当よ」と笑うのはモーリー。どちらかといえば機械に強いジョンが、事務的なことやメールのやり取りなどを担当しているとか。どうやら、2人の間でおおまかな役割分担ができているようだ。
もともとテキスタイル出身のモーリーは、グラフィックデザインやスクリーンを担当している。彼らの代表的なグラフィックデザインであるヒョウやシマウマなどのアニマルを模したペインティングのアイデアも、モーリーが発信源だという。対して、ジョンの得意分野は彫刻とペインティング。彼らの作品にしばしば見られる緻密なドローイングは、ジョンが主となって制作している。
それぞれの役割をはっきり分ける一方で、作品のアイデアを2人で話し合うこともしばしばあるという。著名人の顔をモチーフにしたシリーズでは、映画やテレビのフィルムを参考にしながら、モデルを探したとのこと。2人の性格や役割は真逆のようにも見えるが、お互いに信頼しあいながらバランスのとれた関係性を構築しているようだ。
「僕がモーリーに新しいアイデアを伝えると、大体厳しい意見が飛んで来るんです。自分は落ち着きがなくて、ひとつの作品に取り組んでいるときも、次々と新しいアイデアに手をつけたくなるんですが、モーリーは僕と違って一つのアイデアを完成させる執念があり、いつもアイデアの軌道修正をしてくれます。2人の時間を無駄にしないように。彼女は結構現実主義で、自分にとってはときどき悲観的にすら思えるほどなんですが(笑)」
センセーショナルな表現、そのルーツはどこに?
イギー&ザ・ストゥージズ『Raw Power』のジャケットを手がけるなど、アートと音楽を横断しながら作品を生み出してきた2人。彼らのスタイルに影響を与えたアーティストはいるのだろうか。
「最近だと、ハーランド・ミラーやジェフ・クーンズをはじめとするアーティスト、あとは写真家のディック・ジュエルらに影響を受けています」とジョン。日本ではあまり聞きなれないディック・ジュエルは、証明写真機に備え付けのごみ箱に捨てられた写真を素材にコラージュ制作を行うアーティストだという。2人は英米圏の現代芸術を常に意識しており、インタビュー中も次々と同時代のアーティストの名前が飛び出した。
なかでも、同じPAUL STOLPER GALLERY※3に所属するダミアン・ハーストとジョン&モーリーには深いつながりがある。イギリスを代表する現代アーティストであるハーストは、2人の作品を多数所有するコレクターでもあるのだ。ハーストとジョン&モーリーは、パンク・マインドを共有する同時代のアーティストとしてお互いを尊敬しあっている。
もちろん、音楽シーンからも多大な影響が。「イギー・ポップをはじめとするパンク、50年代から60年代にかけてのロックミュージック、ソウルスタッフ、レゲエ、パン・ミュージック……さまざまなものに関心があります」と2人は語る。最近では、家族の影響でヒップホップにも親しんでいるようだ。
ひとつの時代に固執せず、新しいコンテンツを受け入れる柔軟さ。彼らは時代の潮流に踊らされることなく、俯瞰的な立ち位置からトレンドを把握している。このフラットな時代感覚こそが、センセーショナルな作品を生み出し続ける秘訣かもしれない。
パンクに生きて半世紀。「いま」をとらえる2人のまなざしとは?
彼らの作品を語るうえで外せないキーワードに「ファッション」がある。今回の展覧会の目玉であるスクリーンプリントのシリーズも、もとはTシャツのデザインをスクリーンプリントに落とし込んだものなのだ。2人は、Tシャツという身近な媒体を使って、自らの作品をより広い範囲の人々に届けようと試みている。
しかし、アートの文脈におけるファッションの立場は、しばしば他の芸術形式と比較して下位のものだと判断されるケースがある。この原因のひとつに、ファッションがマーケティングやコマーシャルと強く結びついていることが挙げられるだろう。ファッションと親和性の高いアート作品を発表し続ける2人は、ファッションとアートの関係をどのようにとらえているのだろうか。
「私たちの作品はもちろん違っていますが、ファッションの中にはときにコマーシャル的なものも含まれているでしょう。クリエイティブなファッションが過去のものになったのは、インターネットの力によるところが大きいと思います」とジョン。インターネットを通じてファッションは世界中に発信され、高級ブランドのコレクションをファストファッションがコピーすることも日常茶飯事だ。急速に拡大していく現代のファッション市場に対し、「ファッションはよりパーソナルな関係のもの」であるとジョンは語る。この言葉通り、2人が手がけたファッションアイテムは、個人の主張を表現することのできるツールとして、単なる商品以上の役割を果たしている。ジョンとモーリーにとって、音楽とファッションを中心とするパンクカルチャーは、社会に対する批評のひとつのかたちとして哲学的な意味を持つものなのだ。
こういった状況を振り返っても、2人はインターネットの拡大を否定するわけではない。「現代のアーティストたちはどんな環境に置かれているのか?」という質問に対して、2人はこう答えてくれた。
「機械が進化したことで、現代の若者を取り巻く環境は過去と大きく変化しました。現代のアーティストたちは、ソーシャルネットワークを活用してより社会的な物事とつながり、問題意識を共有している傾向があるようです。私たちが若かった頃の時代と違って、今は今の時代のコミュニケーションがあると思います」
ジョンとモーリーは、現代の若者のコミュニケーション手段としてのインターネットに前向きな印象を持っているようだ。目まぐるしく変化する時代を駆け抜けた2人は、若い世代のアーティストたちに強いシンパシーを抱いている。
「たとえば、ボストンの若いパンクミュージック世代にも、60年代のパンクラバーと共通するスタイルが続いているといえるでしょう。インターネット世代のミュージシャンやアーティストたちを見ていると、意識下で60年代の系譜につながっていると感じます」
■概要
タイトル:「SENSIBILITY AND WONDER」(センシビリティ アンド ワンダー)
アーティスト:John Dove & Molly White(ジョン・ドーヴ & モーリー・ホワイト)
会期:2017年8月25日(金) 〜 11月9日(木)
会場:DIESEL ART GALLERY(DIESEL SHIBUYA内)
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
電話番号:03-6427-5955
開館時間:11:30〜21:00
入場料:無料
休館日:不定休
ウェブサイト:https://www.diesel.co.jp/art/
ジョン・ドーヴ&モーリー・ホワイト ※1
1964年にイギリス、ノーウィッチ出身のJohn Dove(ジョン・ドーヴ)(b.1943)とテキスタイルデザイナーのMolly White(モーリー・ホワイト)(b.1944)がロンドンで結成したアートユニット。詳細はhttp://www.johndove-mollywhite.co.uk/、http://wonderworkshop.co.uk/、http://www.boyblackmail.com/を参照。
小石祐介 ※2
プロデューサー、クリエイティブプランナー。株式会社クラインシュタイン代表。
ファッションを中心に、国内外のブランドのプロデュースやデザインを行う。現代アートとファッションを繋げるコラボレーションやキュレーションを手がけている。詳細はhttp://kleinstein.comを参照。
PAUL STOLPER GALLERY (ポール・ストルパー・ギャラリー)※3
ジョン・ドーヴ&モーリー・ホワイトが所属するロンドンのコンテンポラリーアートギャラリー。
彼らの他にも、ダミアン・ハースト、ピーター・ブレイク、ピーター・サヴィル、ジェーミー・リードやブライアン・イーノなど著名なアーティストを紹介している。
http://www.paulstolper.com/