尾崎世界観、後藤正文も出演。「常磐線舞台芸術祭 2023」が福島県を中心に7月31日からスタート

柳美里がプログラム・ディレクターを務める舞台芸術祭。東京と宮城を結ぶ常磐線沿線で23のプログラムを実施

青年団『銀河鉄道の夜』

「つなぐ、」をテーマに、震災以降の福島・日本を考える

東京都から宮城県を結ぶJR常磐線。そのうち福島県内の沿線を主会場に、宮城、茨城などの各所で「常磐線舞台芸術祭 2023」が開催される。会期は7月31日から8月13日。劇作家・小説家で、現在は南相馬市小高区でブックカフェも経営する柳美里がプログラム・ディレクターを、平田オリザがフェスティバル・コーディネーターをそれぞれ務める。

当初、東京オリンピックが開催される予定だった2020年に合わせて開催される予定だった同芸術祭は、新型コロナウィルスの流行によって長らく延期となっていた。「つなぐ、」をテーマとする今回が、念願の初開催となる。

青春五月党『JR常磐線上り列車 -マスク-』 撮影:新井卓

ラインアップには、電車をモチーフとした作品も多い。柳美里が主宰し、地元の高校演劇部とともに再始動した青春五月党は同じ車輌に乗り合わせた三つの異なる時(2011年の震災直前、同年の震災後、そして約10年後のパンデミック禍)を生きる高校生たちを描いた新作『JR常磐線上り列車 ―マスク―』を上演(ワークインプログレスとなるプレ公演は7月21日~28日。本公演は8月4日~6日)。

2012年初演以降、各地で上演され好評を博した青年団『銀河鉄道の夜』(8月1日〜2日)。青年団を主宰する平田オリザの初期の傑作短編戯曲『阿房列車』と、大人のための「銀河鉄道の夜」として創作された『思い出せない夢のいくつか』を連続上演(8月10日〜12日)。今年3月に、ふくしまFMとエフエム岩手の共同特別番組としてオンエアされたラジオ朗読劇を舞台化し、古川日出男管啓次郎小島ケイタニーラブ柴田元幸北村恵後藤正文が出演する『ザ・レディオ・ミルキーウェイ』(8月1日〜2日)。また、クリープハイプとしての音楽活動だけでなく小説家としても知られる尾崎世界観は柳美里とともに『JR常磐線夜ノ森駅』を上演する(8月7日。後述する企画「Voice on Voice」のプログラムのひとつ)。

青年団『思い出せない夢のいくつか』 撮影:三浦雨林 (『阿房列車』と同時上演)
脚本・演出 古川日出男『ザ・レディオ・ミルキー・ウェイ』 宣伝美術:椚田透(nix graphics)
尾崎世界観

また、青森市を拠点に活動する劇団「渡辺源四郎商店」店主で現役公立高校教諭・演劇部顧問でもある畑澤聖悟は、青森中央高校演劇部×福島県の高校生たちによる『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』(8月1日)、青森中央高校演劇部による『ジンコちゃんの世界』(8月2日)、渡辺源四郎商店による『空に菜の花、地に鉞』(8月5日〜6日)の3作を上演する。

青森中央高校演劇部×福島県の高校生たち(作・演出 畑澤聖悟)『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』 撮影:西澤勝
渡辺源四郎商店『空に菜の花、地に鉞』 イラスト:山下昇平

このほかにも、双葉町で2020年9月に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館では、詩人の和合亮一のリーディングパフォーマンスと、千葉清藍による書、「ダムタイプ」の創成期のメンバーであり、作曲家・ディレクター・DJとして幅広く活動する山中透による音楽のインプロヴィゼーションライブ、日没を祭れ 2023 第一日『日没、新しい夜明けに』(8月5日)、江戸時代以降の相馬氏の菩提寺である小高山同慶寺を会場に、和合の作・演出による創作能と、津村禮次郎による創作能を上演する、日没を祭れ 2023 第二日『日没よ、鎮まれ。』(8月11日)。

常磐線沿線の駅舎周辺でアーティストたちがコラボレーションする企画「Voice on Voice」では、前述した柳美里×尾崎世界観に加え、古川日出男×後藤正文(8月3日〜4日)、和合亮一×田島貴男(Original Love)(8月8日)、佐藤厚志×Miya(8月9日)を開催。範宙遊泳の山本卓卓によるソロ作品『キャメルと塩犬』(8月11日)、柳美里の原作を堀川炎が演出した『窓の外の結婚式』(8月12日)も注目だ。

また、小松理虔が案内する震災遺構をめぐるツアーや、JR新地駅周辺では地域の名産品やおいしいものが楽しめるフェスティバル・フード・マーケット8月4日〜6日)も企画されている。

日没を祭れ 2023 第二日『日没よ、鎮まれ。』
後藤正文
田島貴男
小松理虔

柳美里はプログラム・ディレクターとしてのメッセージ「わたしが手にした糸の端」のなかで、この芸術祭を開催するに至った長い経緯を記し、原発事故以降に引かれた様々な線について語っている。

原発事故以降、様々な線が引かれました。

それは、この地域で暮らす人びとの中に分断や対立や摩擦を、暮らしの中に痛みや苦しみをもたらしています。

南相馬市小高区に暮らす友人は「人と顔を合わせたり話したりするたびに、ささくれ立って、痛い」と語っていました。

線という言葉は、分断や対立に用いられることが多いですが、文字としては糸と泉で成り立っています。

線は、人間の本源が対立ではなく、混じり合うところにあるということを表している、とわたしは思います。

このような意思のもとに、今回の第一回は「つなぐ、」というテーマが採用された。東日本震災から約12年。そのあいだにも、国内外では様々な分断や衝突が続いている。混迷の時代のなかで生きる人間たち、そして「自分と他者の置かれた共通の、あるいは全く異なる状況を理解して、同じ場所と時間の中で生きていかなければならない」と柳が表現する福島県の人々に向けて、舞台芸術の力がいまいちど問われる機会となるだろう。

常磐線舞台芸術祭 2023
第一回テーマ 「つなぐ、」 

開催期間:2023年7月31日〜8月13日
開催地:福島県、宮城県、茨城県内常磐線沿線、他
参加団体・アーティスト:
青森中央高校演劇部/福島県の高校生たち、尾崎世界観(クリープハイプ)、小松理虔、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、佐藤厚志、青春五月党、青年団、田島貴男(Original Love)、津村禮次郎、畑澤聖悟、福名理穂(ぱぷりか)、古川日出男、堀川炎、Miya、森幸彦、山本卓卓(範宙遊泳)、柳美里、和合亮一、渡辺源四郎商店、他

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