公開日:2021年12月9日

「芥川賞」「芸術選奨」「岸田戯曲賞」「日本アカデミー賞」などの男女比率の偏りが明らかに。ジェンダーバランス調査の一部結果発表

表現の現場調査団が、芸術や文芸など表現に関わる各分野の賞やコンクールなどにおける審査員および受賞者、および教育機関のジェンダーバランス調査を実施

12月9日に行われた、表現の現場調査団の記者会見の様子。左から、宮川知宙、深田晃司、端田新菜、小田原のどか、荻上チキ 写真提供:表現の現場調査団 

近年、表現活動の場におけるハラスメントの問題が度々報道されている。ハラスメントが起きる大きな要因のひとつに、選定や評価を行う側とそれを受ける側とのジェンダーバランス(男女比率)の不均衡があげられる。

この問題について、表現の現場調査団が2021年4月より調査を実施。表現の学分野ごとに知名度の高い賞やコンクール、コンテストなどにおける審査員および受賞者、また教育機関における教員や学生のジェンダーバランス調査し、来年3月に調査結果を発表する。これに先駆けて、12月9日に記者会見を行い、本調査の中間報告を発表した。

表現の現場調査団は、表現活動の場におけるハラスメントの実態調査や啓蒙活動などを行う有志団体。2020年11月に設立され、アーティストや映画監督、俳優などの14名のメンバーを中心に設立・運営されている。また、調査協力には評論家の荻上チキ(一般社団法人 社会調査支援機構チキラボ)らも参加。

厚生労働省記者会見場で行われた記者会見には、メンバーから小田原のどか(彫刻家、評論家、出版社代表)、端田新菜(舞台俳優)、深田晃司(映画監督)、宮川知宙(アーティスト)と、荻上チキが登壇した。

以下に、中間報告で発表された調査結果を抜粋して掲載する。賞のデータは2011〜20年に開催された賞の審査員・受賞者数を合計したもので、男性、女性、その他(グループなど複数人のパターン・Xジェンダー・ノンバイナリー・性別不明の人などを含む)で集計。教育機関のデータはすべて2021年度のものであり、美術学部における生徒数・教員数を対象としている。

美術賞のジェンダーバランス:
審査員と大賞は男性多数、副賞やノミネートは女性多数

提供:表現の現場調査団

今回の調査では芸術選奨、シェル美術賞、VOCA展、CAF賞の4つの賞を抜粋。芸術選奨は文化庁主催の賞で長く芸術分野に従事し貢献した人を対象とした賞。シェル美術賞は企業の主催、VOCA展は美術館主催の賞で、比較的若手を対象とした賞。CAF賞は公益財団法人による学生のみを対象とした賞。

美術の賞に関して、全体的に審査員と大賞受賞者のジェンダーバランスに偏りが見られた。
いずれの賞でも審査員と大賞受賞者はどちらも男性が50%以上を占めており、女性の審査員や大賞受賞者が男性受賞者を上回っている例はわずかである。いっぽうで、VOCA展、シェル美術大賞、CAF賞など若手を対象とした賞になると、副賞受賞者やノミネート作家は女性が多くなる傾向が見られた。

女性作家のノミネートは多いいっぽうで大賞は取りづらく、審査員はつねに男性が多数を占めているという、極めて不均衡な状態であることがわかる。

なお、今後3月に向けて公募の賞なども調査に含む予定だという。

文芸賞のジェンダーバランス:
評論分野はほぼ100%が男性

提供:表現の現場調査団

調査は、五大文芸誌(『群像』『新潮』『すばる』『文學界』『文藝』)主催の文芸賞・評論賞、および文芸賞三冠(芥川賞、野間文芸新人賞、三島由紀夫賞)の審査員と受賞者から抜粋して行われた。

小説などに与えられる賞の審査員・受賞者のジェンダーバランスは、おおむね男性6割、女性4割前後で、各賞が一致した。受賞者においては、女性の受賞者が多いものもある。

特筆すべきは、評論を対象とした賞だ。審査員・受賞者ともに、ほぼ100%を男性が占め ている。文芸ジャンルにおいては、小説のような創作と評論では評価体系が大きく異なり、とくに評論分野は男性中心に成り立っていることが端的に現れたと言えるだろう。

またメンバーは、評論における著しい偏りについては、賞の性格も考慮する必要があると分析。文芸賞三冠は公募ではなくたとえば芥川賞は、「雑誌(同人雑誌を含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから選ばれる」とされる(参考:日本文学振興会ウェブサイト)。

他方、文芸誌が主催する賞はおおむね公募制であり、かつ、誰が審査員を務めるかが事前に公表されていることがほとんどである。つまり、男性中心の評価体系があらかじめ明らかになっていることにより、評論分野の応募者の多様性を大きく損ねている可能性がある。

演劇賞ジェンダーバランス:
岸田國士戯曲賞は審査員・受賞者ともに男性多数

提供:表現の現場調査団

岸田國士戯曲賞、近松門左衛門賞、劇作家協会新人戯曲賞、読売演劇賞、紀伊国屋演劇賞、利賀演劇人コンクールの6つの賞を抜粋して調査。

審査員の合計数値は男性が81%、女性が19%であり、女性が非常に少ない。大賞受賞者では男性が62%、女性が37%、不明あるいはチーム受賞が1%で、男性が過半数を占める。

とくに岸田國士戯曲賞は、演劇界の芥川賞と言われ1955年から続いている歴史ある賞だが、審査員を過去の受賞者が行うという制度から、その大多数が男性となっている。メンバーは、この制度が受賞者の大半が男性であることにも関係しているのではないかと指摘する。

また記者会見でメンバーの端田新菜は、自らを含む多くの演劇関係者にとって岸田國士戯曲賞は憧れの賞であると前置きしたうえで、第64回(2020)の選考委員に関してハラスメントの問題が指摘されたことや、第65回(2021)で柳美里氏の選評が掲載されず選考委員を辞することになったことについても言及。演劇界にジェンダーバランスの不均衡が状態化していることについて、「人材の乏しさなのか、議論の少なさなのか、教育の行き届かなさなのか、いずれにせよ風通しの悪さを感じる」と所感を述べた。

映画賞におけるジェンダーバランス:
男性主観の評価が常態化。女性は年齢を重ねると減少傾向

提供:表現の現場調査団
提供:表現の現場調査団

主要な映画祭、映画賞、ベストテン、映画学校や教育機関などの過去10年における審査員や受賞者、講師や学生を対象に調査。映画作品や監督のキャリアのステップアップにとって重要な、あるいは登竜門としての役割を果たしている主要な映画賞、コンペティションの6つがピックアップされた。

審査員については男性80%、女性20%と男性が多勢を占め、男性主観による評価が積年常態化している状況が明らかになった。受賞者の統計を見ると、男性85%、女性15%とさらに差は開く(なお作品賞の場合は監督の性別で判断し、他にはスタッフへの賞も合算)。
いっぽうで、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のような新人や学生に対して開かれたコンペ ティションにおいては、ノミネート作品や受賞作品に女性監督が多くなる傾向があり、2021年度はさらに女性が中心となった。現在PFFでは「一次審査員」の男女比を50:50とする取り組みがなされている。

メンバーは、こういった変化に今後期待したいとしつつ、同時に学生や新人に有望な女性監督が多いにも関わらず年齢やキャリアを重ねるうちに減っていく厳しい状況にも目を向けるべきだと指摘。

メンバーで映画監督の深田晃司は、これまでの自らの経験を踏まえ、たとえば夫婦がともに映画業界に関わっている場合、ほとんどの場合仕事をやめていくのは妻である女性の方であると語る。

また記者会見で深田は、自身が監督した過去の映画制作におけるスタッフのジェンダーバランスを振り返り、その座組みもまた男性が重要なポジションの多くを占めていたと振り返った。

提供:表現の現場調査団

日本アカデミー賞の男女比データは上記の通り。投票権を持つ日本アカデミー協会員の男女比は2019〜21年、受賞者の男女比は2012〜21年のデータ(個人情報管理の理由から、教会員の男女比のデータは直近3年間分のみの保存のため)。

各分野の賞・コンペディションにジェンダーバランスの不均衡

中間報告にまとめられた調査結果を総括し、荻上チキは「日本の様々な表現の現場で同じようなジェンダーギャップの状況が見られる」と語る。また、ジェンダーギャップの常態化が、表現活動の場におけるハラスメントを増大させていること、また活躍する女性やマイノリティのロールモデルの不足が、次世代をも萎縮させていると指摘した。

女性がライフイベントなどによってキャリアを中断・離脱せざるを得なくなる「持続性のギャップ」は、多くの分野で見られる。ジェンダーギャップを生み出すこういった構造の改善は、個々人の努力のみに委ねるのではなく、多様な働き方を維持するための制度作りが必要だろう。

教育機関のジェンダーバランス:
美術学部は女性学生が多く、女性教授が少ない

提供:表現の現場調査団
提供:表現の現場調査団

美術大学における学生や教授のジェンダーバランス調査の結果も発表された。美術大学における女生徒の比率は最低の東京藝術大学で65%、最高の秋田公立美術大学で84%、15大学平均で72%と、一般大学学部の45.5%と比べて極めて高い。

いっぽう15大学の教授の男女比率の平均は、男性が87%、女性が13%。15大学のうち、男性教授率が90%を超えた大学は7校あり、たとえば東京藝術大学は91%、広島市立大学が100%となっている。全国の大学における女性教授率は17.7%であるため、これと比べても美術大学は極めて男性優位の体制であることが明らかになった。

記者会見の様子 写真提供:表現の現場調査団

クラウドファンディングの呼びかけ

表現の現場調査団は、クラウドファンディングを開始。費用は、今後のハラスメント実態調査(量的調査)や、表現系分野教育機関に配布するハラスメント対策をまとめたリーフレットの制作・提供のための資金に充てられる。詳細は以下サイトを確認してほしい。

クラウドファンディング
https://camp-fire.jp/projects/534060/preview?token=bjr7lxra

表現の現場調査団への寄付
https://www.hyogen-genba.com/donation

*訂正(2021年12 月16日)
表現の現場調査団から提供されたデータのうち、美術大学における学生や教授のジェンダーバランス調査内、東京藝術大学と15大学の教授の男女比率の平均に関するデータに誤りがあったため、修正しました。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。