近年、表現分野におけるハラスメントの問題がたびたび表面化していることを受け、2020年11月に設立された「表現の現場調査団」。2022年8月24日、同団体は「ジェンダーバランス白書2022」(以下、白書)をウェブサイトで発表するとともに、記者会見を行った。昨年12月9日には本調査の中間報告が行われたが、そこから調査対象を大幅に増やし、今回の白書は全390ページに及ぶ膨大なものとなった。
表現の現場調査団は、表現活動の場におけるハラスメントやジェンダーバランス(男⼥⽐率)の実態調査や啓蒙活動などを行う有志団体。2020年11月に設立され、アーティストや映画監督など現在16名のメンバーを中心に設立・運営されている。また、調査協力には評論家の荻上チキ(一般社団法人 社会調査支援機構チキラボ)らも参加。
2020年度にはハラスメントの実態調査を行い、「表現の現場ハラスメント白書 2021」を発表。表現領域において、様々なハラスメントが起きていることを明らかにした。
ハラスメントの⼤きな⼀因と叶えられるのが、ジェンダーバランスの不均衡だ。
そこで今回の白書は、表現に関わる教育機関と、各分野(美術、演劇、映画、⽂芸、⾳楽、デザイン、建築、写真、漫画)を調査対象とし、それぞれのジェンダーバランス(男女比率)の集計をまとめた。
そのほか三浦まり(上智⼤学法学部教授)による総評や、荻上チキや各分野に携わる人々によるコラムが収録されている。
教育機関については学生や教授等のジェンダーバランスが、そのほか各分野においては賞・コンペティションの受賞者および審査員のジェンダーバランス等が主な調査対象となっている。
まず結論から書くと、いずれの分野においても、受賞者・審査員ともに男性が圧倒的に優位であり、ジェンダーバランスの不均衡が明らかになった。たとえば文芸評論では、賞の受賞者・審査員ともに100%が男性という事例が見られた。また各分野の賞・コンペティションで女性が比較的多い割合を占める場合も、ほとんどが「3割」程度までとなっている。
これについて三浦まりは、「3割程度いれば⼗分ではないかといった意識がさらなる改善を阻んでいる可能性もあります」と指摘する(白書「総評」より)。
教育機関では、教わる側は女性が多く、逆に教える側は男性が多くを占める。また教員でも非常勤講師など組織内の地位が低いポジションでは女性の割合比較的高く、逆に教授や理事といった決定権を持つ層は男性が占めるという結果が明らかになった。
このジェンダーバランスの偏りについて、調査団は以下のように警鐘を鳴らす。
「ジェンダーバランスが不均衡であることは、同質性の⾼さと同義です。そのような偏りのある場では、何かを決定し、判断するさいに、様々な問題が⽣じます。例えば、その同質性の⾼さゆえ異論が出にくくなります。加えて、バイアスがかかったものの⾒⽅が疑われずに「正常」とされてしまうこともおこります。また、排他性がいっそう深刻になるなどの問題もおこりえます。このような様々な弊害が⽣じ、ハラスメントの温床となる危険性があります」(白書P3より)
こうした不均衡や排他性は、この領域に関わる者であれば感覚的にわかる部分も多いかもしれないが、実際に数値として可視化された意義は大きい。社会構造としてこのジェンダーバランスの偏りを正しく認識することが、その改善への第一歩であるからだ。
記者会見に先立って行った取材で、調査団メンバーが「この白書を武器やバックアップ(後ろ盾)にしてほしい」と語っていたのが印象的だった。たとえば教授職の人事や、コンペティションの審査員、グループ展の参加作家などを検討する際、そのジェンダーバランスの偏りを是正したいと考える人がいれば、この白書は周囲を説得するためのエビデンスとして使うことができるだろう。また自分がハラスメントにあっていると感じる人も、その状況が自身の力不足ではなく、社会的な不均衡に理由があると考えるきっかけにもなるかもしれない。
白書の詳細はぜひ調査団のウェブサイトから見てほしいが、ここでは記者会見と事前に行った取材をもとに、調査の一部を紹介したい(*)。記者会見には、キュンチョメ、小田原のどか、森本ひかる、深田晃司、田村かのこ、荻上チキが登壇した。
美術分野では、「賞・コンペティション」「レジデンス」「批評」、「美術館 個展開催数」「美術館 購入作品」について調査が行われた。
美術の賞に関して、全体的に審査員と大賞受賞者のジェンダーバランスに偏りが見られた。ほぼすべての賞で審査員と大賞受賞者はどちらも男性が50%以上を占めており、女性の審査員や大賞受賞者が男性受賞者を上回っている例はわずかである。白書の調査内容とその結果は以下の通り。
「美術分野の賞・コンペティション(10団体)の審査員合計 男性311名、⼥性126名。美術分野の賞・コンペティション(13団体)の⼤賞受賞者 計 男性845名、⼥性262名、 その他7名。 上記が、各賞・コンペティションの調査対象全体のジェンダーバランスである。 審査員と⼤賞受賞者のジェンダーバランスがどちらも男性に偏っており、かつ数字が⾮常に近い結果となった」(白書P156より)
調査の対象となったのは、芸術選奨、紫綬褒章、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展【⽇本館展⽰】、⽂化庁メディア芸術祭、⽇展、Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)、VOCA展、岡本太郎現代芸術賞、⽇産アートアワード、タカシマヤ美術賞、シェル美術賞、CAF賞、群⾺⻘年ビエンナーレ、五島記念⽂化賞。
文化庁主催の芸術選奨、内閣府主催の紫綬褒章など、国家レベルの芸術に関わる賞は審査員・受賞者ともに7〜8割ほどを男性が占める。
現代美術に関する賞でも状況はほとんど変わらない。
とくに不均衡が顕著な賞として、⽂化庁メディア芸術祭があげられる。10年間の男性審査員33名、⼥性審査員12名。⼤賞は男性受賞者8名、⼥性受賞者0名で、100%男性となった。審査員から受賞者まで全体的に男性に⼤きく偏る結果だ。
VOCA展、シェル美術大賞、CAF賞など若手を対象とした賞になると、副賞受賞者やノミネート作家は女性が多くなる傾向が見られた。しかし女性作家のノミネートは多いいっぽうで大賞は取りづらく、審査員はつねに男性が多数を占めているという、極めて不均衡な状態であることがわかる。
なかでも審査員の偏りが顕著なのが、公募型の賞である岡本太郎現代芸術賞(主催:川崎市岡本太郎美術館、公益財団法⼈岡本太郎記念現代芸術振興財団)。審査員は毎年メンバーが固定され男性のみとなっており、10年間の男性審査員50名、⼥性審査員0名。受賞者は⼤賞(TARO賞)が男性6名、⼥性2名、その他2名。副賞(岡本敏⼦賞)は男性7名、⼥性3名。
いっぽう審査員の女性の割合が高い賞も新設されている。2018年開始のTokyo Contemporary Art Award(TCAA)(主催:東京都、公益財団法⼈東京都歴史⽂化財団、東京都現代美術館、トーキョーアーツアン ドスペース)だ。過去2回の審査員における⼥性の割合は66.7%、受賞者は各年男⼥1名ずつ。また調査の対象期間外だが、最新の「TCAA2022-2024」では津⽥道⼦とサエボーグというジェンダー・コンシャスなアーティストが同時に受賞しており、本賞のジェンダーに対する問題意識が感じられる。
調査団のメンバーで、自身も岡本太郎現代芸術賞受賞者であるキュンチョメのホンマエリは、「このような状況のなかで女性が作家活動を続けていくことはハードモード。評価されづらい状況が続いているのではないか」「受賞者のジェンダーバランスを配慮するということではなく、まず選ぶ側のジェンダーバランスを整えてほしいと強く思う」とTABとの取材で語った。
実際、近年では美術系大学の出身者は女性のほうが多いにもかかわらず、若手を対象としたほとんどの賞で受賞者に男性が多いというのは、「男性のほうが優秀な作家が多い」「女性の作家は実力不足」などと片付けられない構造的な歪さがあると推察される。審査員の多くを男性が占めることでその賞の性格が同質性を持つようになったり、選考時にアンコンシャスバイアスが働くことで、結果的に男性以外のジェンダーに対して不利になるといった可能性も考えられる。
また女性はアーティストとして長期的なキャリア形成が難しく、結婚や出産などのライフステージの変化等も相まって制作・発表の場から離れるといったケースはよく聞かれる。長期的なキャリアを持つ作家を対象とする賞の受賞者のジェンダー不均衡にも、その実情は表れていると言えるだろう。
白書の総評で三浦まりも、「⼈材を育成するには時間がかかるので、まずは審査員を男⼥50:50にすることから始め、10-20年かけて表現者がジェンダー均衡になるよう持続的な取り組みが⽋かせません」と書く。これはどの分野にも共通することだが、美術分野でも今後の改革に向けて必須となる指摘だろう。
2011〜2020年に刊行された雑誌『美術⼿帖』の展覧会レビュー欄である「REVIEWS」と、そこからウェブに移行されたかたちの2021年ウェブ版「美術手帖」の展覧会レビュー欄である「REVIEW」を対象に、執筆者とレビュー対象作家を集計。
雑誌『美術⼿帖』では、10年間の執筆者は男性610名、⼥性179名。レビュー対象作家は男性488名、⼥性115名、その他266件。
ウェブ版「美術手帖」での1年間の執筆者は男性65名、⼥性31名。レビュー対象作家は男性148名、⼥性53名、その他25件。
ウェブ版になった2021年からは執筆者の⼥性率は雑誌より10%⾼くなり、レビュー対象となった⼥性作家率も同様に10%⾼くなった。しかし依然として男性が優位を占める状況だと言える。合計すると、男性の割合は執筆者で77%、対象作家で56%となる。
また文芸部門の調査で、『美術手帖』を刊行する美術出版社が主催する「芸術評論募集」の集計も出ていたので、合わせて紹介する。2011年から2020年までの開催回数は2回。そのうち男性審査員は5名、⼥性審査員は1 名。第⼀席(⼤賞)男性受賞者は1名、⼥性受賞者0名。グラフには反映されていないが、次席は男性3名、⼥性0名、佳作は男性6名、⼥性1名となる。「芸術評論募集」は、1954年に⽉刊『美術批評』「新⼈評論募集」として創設されたもの。過去に東野芳明や中原佑介をはじめ、現在も美術評論で活躍する書き⼿を多数輩出しているが、受賞者と審査員のほとんどが男性である。
白書の調査からは外れるが、1954年に創設された美術評論家連盟の会長は、歴代15人のうち14人が男性で、2022年に就任した四方幸子が初の女性となる。現在は美術評論を掲載する媒体が減少しているというメディア環境の問題も大きいが、歴史的に美術評論は男性優位に形成されてきたと言える。
今回の調査では2011〜20年に15の美術館で個展を開催した作家のジェンダーバランスも調査された。結果は男性318名、⼥性58名で、明確な不均衡が確認できる。
対象は、東京国⽴近代美術館、東京都現代美術館、横浜美術館、埼⽟県⽴近代美術館、千葉市美術館、DIC川村記念美術館、アーツ前橋、広島市現代美術館、⾦沢21世紀美術館、青森県⽴美術館、京都国⽴近代美術館、国⽴国際美術館、豊⽥市美術館、愛知県⽴美術館、森美術館。
重要なのは、個展開催が美術館による作品購入につながるなど、作家のキャリア形成において連続的な影響を与えるという指摘だ。
「個展は作家のキャリアを形成する上で⾮常に重要であると同時に、そもそも購⼊による収蔵が少ない⽇本の美術館において、個展の開催に伴う作品購⼊というパターンは⾮常に多い。つまり個展の機会が少ない男性以外の作家にとっては購⼊の機会も少なくなることがありえる。 対象となった15館は近代の作家を扱った美術館も多いため、現代の作家のみを扱った5館のみの合計平均パーセンテージも別途算出した。(東京都現代美術館 、アーツ前橋、広島市現代美術館、⾦沢21世紀美術館、森美術館)結果は男性が75%を超えており過半数である。美術館が扱う作家の時代が変わり、現代になってもなお男性優位であることがわかる」(白書P184)
この傾向は、東京都現代美術館をはじめとする現代作家を扱う美術館でも変わらない。
2011〜20年に美術館(合計7館)が作品を購入した作家のジェンダーバランスも、上述の指摘を証明するように不均衡が見てとれる。
公⽴美術館で、主に近現代美術を中心に以下が対象となった。国⽴国際美術館、東京国⽴近代美術館 (美術部⾨、⼯芸部⾨、総合)、愛知県美術館、⾦沢21世紀美術館、東京都写真美術館、東京都現代美術館、豊⽥市美術館。
「作品数、作家数ともに男性作家が圧倒的に多い状況が明らかになった。またここには現れない数としてはコレクティブにおいて男性のみのコレクティブがほとんどであることがあげられる。また、美術館の収蔵はしばしば個展の際に⾏われることがあり、前章での調査の結果が収蔵作品の結果にも繋がっている。また男性作家と⼥性作家の初回作品購⼊年齢を⽐較すると、 愛知県美術館のような特別に設定された若⼿作家枠での購⼊をのぞいては、平均して男性作家 の⽅がより若い年齢での作品購⼊の機会に恵まれている」(白書P195)
展覧会と作品収集について、調査団メンバーの⼤舘奈津⼦は、総評「美術館におけるジェンダーバランスについて」で以下のように指摘する。
「近年、既存の美術史が男性、欧⽶中⼼主義であるという認識は学術的には共有され、美術史を複数の視点から捉え直す研究は進んでいるものの、世間⼀般を対象にし、観客動員数を稼ぐことを⽬指す展覧会というイベントにおいては、すでに名がある作家が優先されることも多く、結果ジェンダーバランスが男性作家に偏ったままの状態となっている」
「90年代のジェンダー論争を経て、未だにこうした偏りがあり続けることについて、全体のプログラムを統括するべき美術館が、ジェンダーバランスについて組織レベルで意識をしていないのではないかと⾔わざるを得ない」(白書P202)
近年では、「あいちトリエンナーレ2019」が掲げた出品作家の男⼥⽐率を同じにするという試みや、続いて愛知県⽴美術館がスタートさせた若⼿美術作家を⽀援する⽬的の収蔵基⾦といった画期的な試みもある。国際的にも活発化しつつある、美術館におけるジェンダーバランスの是正に向けた動きを、日本の美術館もぜひ推し進めてほしい。
調査は、五大文芸誌(『群像』『新潮』『すばる』『文學界』『文藝』)主催の文芸賞・評論賞、文芸賞三冠(芥川賞、野間文芸新人賞、三島由紀夫賞)、直⽊三⼗五賞、⼭本周五郎賞、江⼾川乱歩賞、芸術評論募集、⼩林秀雄賞、サントリー学芸賞、倫雅美術奨励賞の審査員と受賞者から抜粋して行われた。
小説を対象に与えられる賞の審査員・受賞者のジェンダーバランスは、おおむね男性6割、女性4割前後。男性優位であるもののジェンダー平等に近づきつつある。受賞者においては、女性の受賞者が多いものもある。
特筆すべきは、評論が対象の賞だ。審査員は男性が9割以上を占め、他分野と⽐べても異例の数値になった。評価する側が極めて男性優位の現状は、評価⾃体の偏りにつながりかねない。白書は「これほど同質性の⾼い場での選考や審査が、果たして公正なものと⾔えるのか、今⼀度問い直される必要がある」と警告する。
調査団メンバーの彫刻家・評論家の小田原のどかは、文科省の新たな学習指導要領に基づき2023年度から高校の国語科目が再編され、選択科目が「論理国語」と「文学国語」に二分される点に着目。主に評論を扱う「倫理国語」が教育現場で優先されると予想されるなかで、評論領域のジェンダーバランスの著しい偏りは「この国の『国語』文化の豊かさを損なうことに他ならない」と話し、是正が急務だとした。
調査対象は、⽇本アカデミー賞、毎⽇映画コンクール、報知映画賞、⽇刊スポーツ映画⼤賞、ブルーリボン賞、新藤兼⼈賞、⽇本映画監督協会新⼈賞、⽇本映画プロフェッショナル⼤賞、キネマ旬報ベストテン、映画芸術ベストテンワーストテン、ぴあフィルムフェスティバル、TAMA NEW WAVE、TAMA映画賞、東京国際映画祭、東京フィルメックス、⼭形国際ドキュメンタリー映画祭、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、イメージフォーラムフェスティバル、⼤阪アジアン映画祭。監督のキャリアのステップアップに重要、あるいは登竜門の役割を果たしている19の映画祭や映画賞、ベストテンをピックアップした。
審査員は男性が7割超と男性が多勢を占め、男性主観による評価が積年常態化している状況が明らかになった。受賞者の統計を見ると、男性81%、女性19%とさらに差は開く(なお作品賞の場合は監督の性別で判断し、ほかにはスタッフへの賞も合算)。ただし、約4000⼈いる⽇本アカデミー賞会員を審査員扱いとしたため、調査結果は同賞の影響が⼤きくなっている。
俯瞰すると商業映画に比べて、国内最⼤規模のぴあフィルムフェスティバル(PFF)など若手の⾃主映画や学⽣を対象にした賞ほど、⼥性監督や⼥性の受賞者が多くなる傾向があった。現在PFFでは「一次審査員」の男女比を50:50とする取り組みがなされている。
メンバーは、こういった変化に今後期待したいとしつつ、同時に学生や新人に有望な女性監督が多いにも関わらず年齢やキャリアを重ねるうちに減っていく厳しい状況にも目を向けるべきだと指摘。
白書の中で、NPO法人映画産業で働く女性を守る会(swfi)代表のSAORIは、「⼥性が出産、体調不良、介護問題などで、キャリアを離脱せざるを得ない現状だから、⼥性の審査員や監督も⾃ずと少なく、ノミネートされるための⼟俵に⽴てるチャンスが少ない」と分析。昨年メンバーに加わった映画監督の深田晃司は、「この1年は男性である私⾃⾝が履いてきた『下駄の⾼さ』を知るための時間であった」と振り返り、調査結果を「男性にこそ広く知ってほしい」と訴えた。
調査対象は、9つの戯曲賞(岸⽥國⼠戯曲賞、九州戯曲賞、劇作家協会新⼈戯曲賞、せんだい短編戯曲賞、近松⾨左衛⾨賞、鶴屋南北戯曲賞、テアトロ新⼈戯曲賞、北海道戯曲賞、AAF戯曲賞)と、劇作家以外も含む演劇⼈・演劇作品に送られる賞(紀伊國屋演劇賞、演劇⼈コンクール/利賀演劇⼈コンクール、「悲劇喜劇」賞、⽂化庁芸術祭賞、毎⽇芸術賞、読売演劇⼤賞)の6賞。
審査員の合計数値は男性が76%、女性が24%で、女性が非常に少ない。大賞受賞者では男性が64%、女性が28%、不明あるいはチーム受賞が8%で、男性が過半数を占める。
演劇界の芥川賞と言われ1955年から続く岸田國士戯曲賞は、審査員・受賞者ともに⼥性がゼロの年が多く、⼥性がいた場合でも1⼈のみだった。最終ノミネートは男女比の均衡が取れて見えるが、最終的に受賞するのは大半が男性だった。同賞は審査員を過去の受賞者が担う慣習があり、白書は不均衡の背景を「慣習の影響が感じられる」と指摘した。
メンバーのアクタートレーナー・ファシリテーターの森本ひかるは、調査を通じて「男性審査員が 男性受賞者を多く選ぶという男性優位且つ男性中⼼の構造が⾒えた」。その結果、既存の性差別的な意識に基づいて⼥性を定型的に描く作品が増えてしまい、作品を見る観客にも「差別的な意識の再生産」など悪影響を及ぼす恐れがあると指摘する。
今回、2021年12月に行われた中間報告には含まれなかった「音楽」「デザイン」「建築」「写真」「漫画」の5つの分野が調査対象に加わった。男女ほぼ同数だった漫画分野の受賞者を除き、5分野とも男性優位の結果となった。
各分野のグラフと調査対象は以下の通り。
調査対象:審査員は出光⾳楽賞、浜松国際ピアノコンクール、東京国際コンクール(指揮)の3つの賞、受賞者は日本音楽コンクール(審査員非公表)を加えた
調査対象:JAGDA国際学⽣ポスターアワード、JAGDA賞、 JAGDA新⼈賞、⻲倉雄策賞、東京TDC賞、朝⽇広告賞、毎⽇広告デザイン賞、1_WALLの8つの賞(グラフの濃い灰色はグループなど)
調査対象:JIA⽇本建築⼤賞、JIA 新⼈賞、U35-architecture exhibition、AIJ⽇本建築学会⼤賞、AIJ⽇本建築学会、作品選集新⼈賞、村野藤吾賞、⽇本芸術院賞、空間デザインコンペティション、 毎⽇デザイン賞の9つの賞
調査対象:⽇本写真協会賞、名取洋之助賞、⽊村伊兵衛写真賞、⼟⾨拳賞、写真新世紀(2021年度を以て終了)、伊奈信男賞、1_WALL(2022年度を以て終了)、写真の町東川賞、さがみはら写真賞、林忠彦賞、写真の会賞の11の賞(グラフの濃い灰色はグループなど)
調査対象:講談社漫画賞、⼩学館漫画賞、⼿塚治⾍⽂化賞、メディア芸術祭漫画部⾨、このマンガがすごい!の5つの賞(グラフの濃い灰色はグループなど)
音楽分野は部門(楽器)によりジェンダーバランスが大きく異なった。たとえば指揮者が対象の東京国際コンクールは、審査員は全員男性で、受賞者は男性70%に対し女性30%。10部門ある日本音楽コンクールの受賞者は、クラリネット、チェロ、ピアノ、ホルン、作曲、声楽の6部門で男性が過半数を占め、オーボエ、トランペット、バイオリン、フルートの4部門は女性が過半数だった。
音楽分野は、国内33のオーケストラ団体も調査。全団員の合計数値は男性55.2%、女性44.8%で、一見ジェンダーバランスが取れて見えるが、詳細を見ると偏りがある。名⾨オーケストラとされ、固定給が保証される公益財団法⼈ほど男性比率が高く、公演ごとのギャラ払いが多いNPO法⼈は⼥性の⽐率が⾼かった。楽団の顔となる芸術監督や常任指揮者はほぼ100%が男性で、「特定の職業に対する社会の固定観念が現れた結果と考えられる」(白書)。
美術、⾳楽、演劇、建築、⽂学の5分野に分けて、学生や教授のジェンダーバランスの調査を行った。美術系は、国公立・私立の美術大学、総合大学の美術系学部、映像メディア系大学の39機関を対象とした。
芸術系教育機関の⼤きな特徴として、学⽣の⼥性率が⾮常に⾼い点が挙げられる。政府統計を⾒ても、美術・デザイン分野では女性が約7 割を占める。一方、指導する教員は男性率が⾼いのも特徴で、とくに役職の⾼い教授職においては顕著な傾向だ。例えば、東京芸術大学と5美術大学(多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京造形大学、日本大学芸術学部、女子美術大学)の教授は、男性比率が平均80%を超えた。広島市立美術大学と東北芸術工科大学は、教授がほぼ全員男性だった。
また学校法人において最終的な意思決定機関である理事会のメンバーや理事長、学長のジェンダーバランスも調査。理事長と学長は男性が9割と、極めて不均衡な現状が明らかになった。
調査団メンバーの田村かのこは、「大学において女性はロールモデルとなる女性作家(教員)に出会う機会が少ない」と指摘し、その結果として「卒業後も、様々な局面で出会う男女不均衡を『仕方がない』と受け入れてしまう可能性がある」と話した。
また、「教員」と一括りにしても、組織内の役職ごとにジェンダーバランスが異なることにも注意が必要だという。「教員職のうち30%が女性というデータを出している大学も、よく見てみると助手や助教、非常勤講師といった教員職を女性が占めており、より上位の教授職では女性がほとんどいないということもある」。
内閣府男女共同参画局は、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標を掲げている。30%でも十分とは言えないが、少なくとも各大学は、この目標に向けて早急なアクションを行うべきだろう。たとえば京都市立芸術大学は、男女の教員比率適正化を目指し、女性限定での教員公募を行うといった試みをしている。
また、白書ではジェンダーバランスを考えるうえで、男女だけではなく多様なジェンダーの存在についても言及している。森本ひかるによるコラム「『いわゆる』男⼥以外の性のあり⽅―トランスジェンダーの表現の現場での困難とトランスジェンダーにとって公平な現場を作るための提案」も参照にしてほしい。
2020年11月に発足。5年間の継続を前提に、表現分野にける調査活動、発信、提⾔などの取り組みを⾏う。
メンバーは、美術や映画、演劇など各分野における、表現者や研究者などによって構成。現在は16名で、岡田裕子、笠原恵実子、小田原のどか、木村奈緒、キュンチョメ、田村かのこ、津田道子、寺田衣里、端田新菜、花崎草、深田晃司、maya masuda、宮川知宙、百瀬文、森本ひかる、森山晴香。
調査協力として、荻上チキ、高史明(ともに一般社団法人 社会調査支援機構チキラボ)、横山美栄子(NPO法人 福岡ジェンダー研究所理事/NPO法人アジア女性センター理事長)が参加。
これまで2度にわたる調査や発信を⾏っており、2020年度には実態調査に基づいた「ハラスメント⽩書2021」を発表。深刻なハラスメントが多く発⽣していることを明らかにした。今回の「ハラスメント⽩書2022」では、表現領域のジェンダーバランスを調査・発表した。なお2021年12月9日に行われた「ハラスメント⽩書2022」の中間報告については、以下の記事にまとめている。
▶︎「芥川賞」「芸術選奨」「岸田戯曲賞」「日本アカデミー賞」などの男女比率の偏りが明らかに。ジェンダーバランス調査の一部結果発表
現在、2023年新学期に向けてハラスメントに関するリーフレットを制作しており、教育機関を対象に無料配布予定。希望者はウェブサイトから申し込みできる。
また今後はハラスメントに関する量的調査を行う予定で、こういった活動に充てる資金の寄付も募っている。詳細は以下サイトを確認してほしい。
公式ウェブサイト https://www.hyogen-genba.com
*──調査方法については白書P4を参照。以下引用。「本調査では公にされている情報である活動上の性別(男性、⼥性、Xジェンダーやノンバイナリーを含む)をもとに集計を⾏いました。⼀部、公表されていない情報などは問い合わせを⾏い集計しています。教育機関のデータは基本的には2021年度のものであり、学⽣数・教員数を対象としています。(教育機関のWEB更新時期、調査時期などにより調査年度が前後する場合があります)
賞のデータは各分野で⽐較できるよう、2011-2020年の10年間に開催された賞の審査員・受賞者数を合計したもので、男性、⼥性、その他(グループなど複数⼈のパターン・Xジェンダー・ノンバイナリー・性別不明の⼈などを含む)で集計をしています。各分野の特性に合わせて、細かなカウントルールが異なるため、詳細につきましては各分野のページをご参照ください」。