1688年創業、京都の西陣織を代表する織元の「細尾」。皇族や将軍家などの要望に応え続けてきた老舗だが、2000年以降は西陣織の可能性を広げるイノベーションに積極的に取り組み、ディオールをはじめとするトップメゾンとも協働してきた。
そんな伝統工芸の世界を拡張してきた細尾/HOSOOは、12代目当主を務める細尾真孝のもと、さらなる革新を進めている。ベテランの職人だけでなく、研究畑出身の若い職人らとともに、コンピューター制御された織機や新しい技術を開発するなど、西陣織の新しい地平を切り開いている。アートプロジェクトにも積極的に関わり、たとえば森美術館で開催された「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」ではHOSOOでの伝統的な職人技を用いてタペストリーやテキスタイル作品を制作し、ゲイツのヴィジョンを支えた。
2019年9月、京都の烏丸御池駅近くに設立されたHOSOO GALLERYはそんなHOSOOが運営するアートギャラリー。幅広い専門家との協働を通して、アートやデザイン、工芸、サイエンスなど、多角的な視点から染織を扱う企画展示を中心に開催している。
12月7日〜2025年3月16日に開催される「庭と織物——The Shades of Shadows」は、日本庭園と西陣織をテーマにしたユニークな展覧会。最新鋭の映像と音、織物によるインスタレーションが展開され、西陣織の伝統を江戸時代から現在まで受け継ぐHOSOOの歴史、そしてこうした土地の自然観とも深く関わる内容だ。キュレーターは井高久美子。
インスピレーションのもとになるのは京都の庭園、なかでもHOSOOの織物工房HOUSE of HOSOOの坪庭だ。日本庭園・能楽の研究者である原瑠璃彦が進める庭園アーカイヴ・プロジェクトと協働し、この坪庭を12ヶ月にわたって3Dスキャンを行うなど、様々なかたちでアーカイヴを構築、そのデータをもとに絶えず変化する庭の姿を織物で表現するべく、約3年にわたり継続的に議論と実験を重ねてきたという。
建築デザインスタジオALTEMYが手がけた展示では、このデータをもとにした織物が披露された。ギャラリー空間に曲線を描きながら広がる織物は、周囲を歩きながら見ていると様々な色へと表情を変えていく。まるで虹が重なり合ったような多様で複雑な色合いが目の前に広がるが、じつは本作に使われている緯糸には特定の色が存在しないという。使用された特殊な箔糸は、鑑賞者が特殊な照明の下で視点を変えながら鑑賞することで、初めて色が浮かび上がるという仕組みだ。HOSOOが東京大学筧康明研究室および株式会社ZOZO NEXTとともに2020年から継続している共同研究開発プロジェクト「Ambient Weaving」の成果としてこの箔糸が誕生したという。
本展のステートメントでは、庭園と織物に関する興味深い視点が提示されている。
織物と庭園は、古くから多くの文化圏に存在しており、どちらも自然の要素を再構成する空間的・身体的な装置です。庭は、枯山水庭園に代表されるように、長い時間変化することのない石を配し作り上げられる一方で、池や水流、樹木、草花が配置され、季節ごとに異なる表情を見せます。一方、織物も、古来、自然素材を用いて糸を作り、色を染め、自然に由来する紋様などで構成されてきました。また、織物も、庭と同様に異なる時間の積層によって構成されています。経糸は庭における石のように共時的なものであるのに対し、緯糸は草木や花のように、一織一織に異なる色の糸を織り込むことで、織物の表情を変える通時的な要素です。(公式サイトより)
時間と自然、テクノロジー、そして結晶化された職人技。細尾の庭が持つ歴史や時間を経糸に、この世界の流動性が編み込まれている。様々な要素が重なり合い、思いがけないランドスケープを生み出す本展。ぜひその目と耳で確かめてほしい。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)