歌川広重 「東海道五十三次之内 鞠子」(前期)
風景画の名作を数多く描いた絵師・歌川広重。その絵をよく見ると、なんとも味わい深い人物たちがたびたび登場することに気づく。それらの人々を親しみと愛着を込めて、あえて「おじさん」と呼んでしまうのが太田記念美術館で開催される「広重おじさん図譜」だ。会期は2023年2月3日から3月26日。
広重の浮世絵をじっと見てみる。無垢な笑顔のおじさん。仕事をがんばるおじさん。グルメを楽しむおじさん。ピンチであわてるおじさん。かれらは見れば見るほど個性豊かで、愛嬌に満ちた存在であることがわかる。江戸時代を舞台とすることの多い落語でも、すっとんきょうでおっちょこちょいなおじさんが幾人も登場するが、かれらを通して感じられる昔々の空気感はどこか心地よいものだ。
よく知られた広重の名品も、「おじさん」という視点で眺めることで、今までとは違った新鮮なイメージをもたらすかもしれない。
展示担当学芸員の渡邉晃は、「広重は群衆を描いたとしても、ひとりとして同じ顔の人がいない。しかも骨格から違うというか、頭蓋骨の形から違うと感じる」と、その優れたデッサン力を説明。
「北斎が風景のなかに人物を描く場合は、主体として前景にくる。いっぽう広重は、人物が描かれていても風景画のようにも見える。風景画と人物画をブレンドするようなバランス感覚が優れている」とも語った。
展覧会には、保永堂版「東海道五拾三次之内」を始めとした代表作はもちろん、葛飾北斎や小林清親らの名品、そして普段は展示されることの少ないレアな作品まで並ぶので、見比べるのも楽しい。ぜひ、あなたの「推しおじ」を見つけてほしい。