公開日:2024年8月2日

葛西臨海公園をアートが彩る。蜷川実花、落合陽一らの作品が集う「海とつながる。アートをめぐる」が開幕

会期は8月2日〜18日。葛西臨海水族園のガラスドームを包み込む、ミストの特別演出も

会場風景より、蜷川実花《Garden of Sky(空の庭園)》

葛西臨海水族園・葛西臨海公園を舞台にしたアートイベント「海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ―」が8月2日〜18日まで開催される。

新領域株式会社ART +TECHの杉山央がプロデュースを務める本イベントは、長きにわたって海と深いつながりを持っていきた地域の歴史を受け継ぎ、広大な敷地の魅力を体感できるアートインスタレーションとして展開するもの。葛西臨海水族園では「海とつながる」をテーマにしたミストの演出、葛西臨海公園では「アートをめぐる」をテーマに、4組のアーティストによる作品展示を行う。

水族園のガラスドームをミストが包み込む

1989年に開園した葛西臨海水族園は、建築家・谷口吉生が設計を手がけた、ガラスドームが象徴的な建物。2028年3月にリニューアルオープンを予定しており、東京都は本館の保存・利用の検討やガラスドームへの愛着を表現するイベントなどを行う「ガラスドームプロジェクト」を実施している。

今回の演出はその一環で企画されたもので、15分に1回、左右から噴き出るミストがガラスドームを包み込む。杉山はミストに注目した理由として、「海や水を感じることができる内容にしたいということ、透明感のあるガラスでできた建築の美しさを際立たせるものにしたいということ」との2つの思いがあったと明かす。

葛西臨海水族園

水族園では8月11日〜14日の期間に「Night of Wonder ~夜の不思議の水族園~」と題し、開園時間を3時間延長するイベントが実施される。この期間中はミストにもライティング効果が追加され、海に入り込むかのような世界観を生み出すという。

空とつながる、蜷川実花の過去最大級の新作

葛西臨海公園で開催されるアート展示には、蜷川実花 with EiM、平子雄一、落合陽一、河瀨直美の4組のアーティストが参加。かれらはいずれも、海、花、緑、光、建物など、公園の様々な要素との関係を受けて制作を行ったという。

蜷川実花の新作《Garden of Sky(空の庭園)》が展開されているクリスタルビューは、360度を見渡せる展望室から東京湾を一望できるガラス張りの建物。こちらも谷口吉生の設計によるものだが、蜷川たっての希望でこの場所での展示が実現したという。

思春期の頃からすごく馴染みがあって、大好きな建物で、自分の生活の中にある大切な場所だったので、どうしてもここでやりたいとお願いした。この場所で建築の素晴らしさを生かしながら新しい表現ができないかなと思って作った新作」と本作に込めた思いを明かす。

蜷川実花

ファサードを覆う作品は、自身の写真作品を再構成し、「自分の中にある桃源郷のような風景を表現した」もので、蜷川の作品としては過去最大の大きさの作品だという。ステンドグラスのように周囲の風景が透けて見え、「写真の空と実際の空が溶け合って一体化するような作り」(蜷川)になっている。

会場風景より、蜷川実花《Garden of Sky(空の庭園)》

館内では、一つひとつ手作りで制作したという800個ものパーツをつなぎあわせたインスタレーションが展示されている。天井から吊るされたクリスタルやハート、蝶々、月などの形をしたパーツは、ガラス窓を通して入る太陽光を反射して輝き、瞬間ごとに違った表情を見せる。時間や天候による見え方の変化を楽しむことができる作品だ。

クリスタルを通すことによって、室内にいながら自然のことをより感じられるきっかけになる作品になっているんじゃないかなと思っています。写真家なので、その瞬間を切り取って残したいと思ったり、瞬間瞬間で変わっていく事柄に対して敏感に反応しているところがあると思う。それを増幅させて感じられるような作りになっていると思いますので、変化を体感しにきていただけたら」(蜷川)

会場風景より、蜷川実花《Garden of Sky(空の庭園)》
会場風景より、蜷川実花《Garden of Sky(空の庭園)》

4万本のひまわり畑に出現した平子雄一、落合陽一、河瀨直美の作品

4万本のひまわりが咲くひまわり畑に大型の彫刻作品を制作したのは、植物や自然と人間の関係性をテーマに制作を続ける平子雄一。

《Wooden Wood 73》と題された本作は、「材木になった木を、自然の造形に戻す」というコンセプトで制作している木彫のシリーズに連なる一作だ。ひまわり畑での制作を依頼された際は、「ひまわりは自然の造形なので、それぞれが作り出す造形があり、僕たちが介入できない。僕が作る自然のような造形は、僕が作り出すものなので、その対比が発生すると思った」と平子。

会場風景より、平子雄一《Wooden Wood 73》

無数のひまわりを背景に、平子作品の象徴的な存在である木と人間が一体化した人物がそびえ立っている。本や野菜、果物、犬や猫などはいずれもこれまでの平子作品でも描かれ続けてきたモチーフだが、積み上げられた本は、人間が発展させてきた文明の象徴であり、オレンジ色の果物は、未来の自然や環境と人間の関係について考え、あえて不自然な色をしているという。また左に佇む猫は、自然にも住むことができ、人間とも共存できる、中間の存在として作品に登場させている。

(鑑賞者が)最初は『かわいい』というところから入って、その後『なんだろうこれ?』という感じで近づいて見て、おうちに帰ってから『なんだったんだろうね。自然のものもあるし、でも周りにある自然とは違うし、それってどういう意味なんだろう?』というふうにちょっとでも考え始めると、また面白い視点がみなさんのなかに生まれたりするのかなと思う」(平子)

左から杉山央、平子雄一

平子の作品の向かい、観覧車とひまわり畑を背に設置された横長のスクリーンでは、落合陽一の作品《リキッドユニバース:向日葵の環世界のコペルニクス的転回》が展開されている。

横幅8メートルほどのスクリーンに映し出されているのは、AIが作り出したひまわりの映像。ひまわり畑という自然、人工物である観覧車、そしてデジタルが生み出すひまわりという3つの要素が対比され、また相互に関わり合うことで、見る者の知覚や認識に問いを投げかける。

デジタル革命によって新たなパラダイムが起きている現在において、「人間中心の世界を脱し、人間が自然の流れに従って無心で自由に生きることを目指す」という中国の荘子が説明した言葉「逍遥遊」を具現化した作品になっているという。

会場風景より、落合陽一《リキッドユニバース:向日葵の環世界のコペルニクス的転回》

映画監督の河瀬直美は、テキストによる作品《隠されたもう一人の私。ひまわり畑での問いかけ》を発表。

短編映画をイメージして作られた本作では、ひまわり畑の中にメッセージが書かれた8枚のボードが点在している。メッセージを読む順番は決められておらず、鑑賞者は自由に畑の中を歩き回りながら一つひとつのメッセージと出会うことになる。

河瀬は「自分の中に見え隠れする、もう一人の自分と出会う」をコンセプトに本作を制作。来場者がひまわり畑の中で突然出てくるいくつかの問いかけをまるで人生の分岐点に立ったような感覚で鑑賞し、自分の内側と対峙しながら自己を発見したり、自分とのつながりを思い出したりするような旅へ誘うイメージで作られたのだという。

会場風景より、河瀬直美《隠されたもう一人の私。ひまわり畑での問いかけ》

4組のアーティストによる作品は、すべて葛西臨海公園での展示のために制作されたもの。杉山は、「時間や天候などで変化していく空間のなかで存在するアートが、海と自然、そして人と自然とのつながりを再認識するようなきっかけとなり、葛西臨海エリアの新しい楽しみ方を感じてもらえれば」と呼びかけた。

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。