スタジオジブリの世界を表現した公園「ジブリパーク」が、11月1日にオープンする。場所は、愛知県長久手市の愛・地球博記念公園(モリコロパーク)内。10月12日に行われたメディア向け内覧会を取材し、いち早く内部の様子をお伝えする。
第1期開園となる今回、オープンするのは「ジブリの大倉庫」「青春の丘」「どんどこ森」という3つのエリア。第2期として「もののけの里」が2023年秋、「魔女の谷」が2023年度内のオープンが予定されている。
「ジブリの大倉庫」は、映像展示室や企画展示、ショップ、カフェなどが集まるメインエリア。「青春の丘」には、『耳をすませば』に登場した「地球屋」が。そして「どんどこ森」には『となりのトトロ』の「サツキとメイの家」や、ジブリパークを見守る「どんどこ堂」が登場する。
名古屋駅から地下鉄東山線とリニモを乗り継いで50分ほど。愛・地球博記念公園駅を降りると、愛・地球博記念公園(モリコロパーク)が目の前だ。エントランスをくぐり抜けると、見えてきたのはエレベーター塔。『天空の城ラピュタ』『ハウルの動く城』といった作品に代表される19世紀末の空想化学的な世界観に基づくデザインだ。
「森と相談しながらつくっている」という公式ウェブサイトの言葉通り、園内では随所で自然を感じられる。広大な公立公園のなかに、ジブリのエリアが点在しているとイメージするとわかりやすいだろう。「森や道をそのままに、自分の足で歩いて、風を感じながら、秘密を発見する場所です」という言葉に胸が高鳴る。それではいざ、ジブリパークへ!
ひとつの巨大な屋内施設にジブリの世界を詰め込んだ、“ジブリの大博覧会”というべきメイン会場が「ジブリの大倉庫」。入口に入り階段を下ると、中央階段がある開けた空間に出る。
色鮮やかなタイルは、愛知県の常滑や瀬戸といった焼き物の街で作られたもの。記者会見に登場した宮崎吾朗監督によると、このほかにも瓦や木材など、建設時に必要となった資材は可能な限り地場のものを使ったという。
タイル装飾にはよく見るとジブリのキャラクターたちが隠れていたり、頭上には『天空の城ラピュタ』のオープニングに登場する全長約7mの「空飛ぶ巨大な船」が飛んでいていたりと、ジブリ好きには堪らない空間だ。
中央階段を登ると、映像展示室オリヲン座がある。昔ながらの劇場のような趣のある座席数170のこの映像展示室では、三鷹の森ジブリ美術館だけで上映されているスタジオジブリ制作の短編アニメーションを上映。開園時は絵本『いやいやえん』を原作とする『くじらとり』(脚本・監督:宮崎駿)が公開される。
ピンク色のネオンが輝く、ちょっと大人な雰囲気の入口。ここは企画展示室だ。スタジオジブリとジブリ作品を知ることができる、3つの企画展示が行われている。
まず「「食べるを描く。」増補改訂版」は、三鷹の森ジブリ美術館で2017〜18年に開かれた企画展をバージョンアップ。「ジブリ飯」なる言葉が巷で使われたりするくらい、「ジブリ作品に出てくるごはんっておいしそう〜」とウットリしたことがある人は多いはず。そんな「おいしそう」なアニメーション表現がいかに生まれたのか、資料をもとに解説。
今回加わった『千と千尋の神隠し』『コクリコ坂から』『アーヤと魔女』の3資料のほか、『となりのトトロ』でさつきが作っていた桜でんぶがきれいなあのお弁当が並ぶ食卓や、『千と千尋の神隠し』の屋台、『天空の城ラピュタ』に登場するキッチンなど、空間展示も楽しめる。随所にこだわりが凝らされたディテールを見ていると、あっという間に時間が経ってしまいそうだ。
「ジブリがいっぱい展」は世界中から集めたジブリ作品のポスターやパッケージや書籍などを集めた展示。トトロが鎮座する可愛らしいバーのある部屋は、スタジオジブリの打ち合わせスペースを再現した「トトロ・バー」だそう。
「ジブリのなりきり名場面展」は、ジブリの登場人物になりきり、名場面の中に入り込める体験型作品。宮崎駿監督作品だけでなく、もうひとりの巨匠・高畑勲監督作品の『平成たぬき合戦ぽんぽこ』や、『おもひでぽろぽろ』の紅花畑があったのが個人的にはグッと来た。
企画展示室の外にも、ジブリ作品の人気キャラクターと出会える展示が。天空の庭には『天空の城ラピュタ』ロボット兵がたたずみ、にせの館長室では『千と千尋の神隠し』の湯婆婆が一心不乱に仕事に打ち込んでいる。
迷路のようなジブリの大倉庫は迷路のようで、上へ下へ左へ右へ、どこに行っても面白そうで目移りしてしまう。下に降りると、巨大な植物に囲まれてびっくり。『借りぐらしのアリエッティ』の世界を再現した床下の家と小人の庭だ。
薄暗い部屋に巨大な造形物が並ぶ公開倉庫は、その名の通りバックヤード感満載。宮崎吾朗監督は記者会見で、「三鷹の森ジブリ美術館で企画展示を行うたび、いろんな造形物を作っては溜まってきた。それで困っていた」とジブリパーク建設の裏事情を語り笑いを誘ったが、そんな造形物を見られるのも特別な体験だ。
丸いフォルムが可愛らしい自動車が見える空間は、子どもの街。ここはスタジオジブリがある東京・小金井市周辺のちょっと昔の街並みや乗り物をモチーフにした子供向けの遊び場になっている。
ジブリパークには所々に子供だけが入れるスペースがあり、ネコバスルームもそのひとつ。『となりのトトロ』の世界を表現したこの部屋には、小学生以下が乗ることができるネコバスや、子供サイズの「サツキとメイの家」、大きな木の中には眠るトトロもいる。
いいなあ、私だってふわふわのネコバスにダイブしたいのに……! すっかり大人になってしまった我が身を嘆いていると、向こうに「おとな」「大歓迎」の赤提灯が。誘われるまま足を踏み入れると、そこには懐かしい昭和テイストの商店街が。南街(みなみまち)と名付けられたこのエリアには、書籍を扱う「熱風書店」のほか、駄菓子屋や模型屋が軒を連ね、実際に商品を買うことができる。ノスタルジックな雰囲気に包まれ、大人も童心に帰ることができるというわけだ。
そのほか、ジブリの大倉庫にはショップ「冒険飛行団」、カフェ「大陸横断飛行」、「ミルクスタンド シベリ・あん」がある。カフェはサンドイッチやピザなど、ミルクスタンドは『風立ちぬ』にも登場するお菓子シベリアを提供する。
「ジブリの大倉庫」から「どんどこ森」までは徒歩20分ほど。園内には広々と舗装された道もあれば、ちょっとした山の小道のようなワイルドなルートも。園内を散策し、木々や池といった景色を楽しみながら歩くことができる。
印象的な赤い屋根が見えてきて、期待に胸が膨らむ。『となりのトトロ』の主人公が暮らす、サツキとメイの家だ。考古学者である父親の書斎は風通しが良さそうで、研究資料がどっさり積まれている。
赤いランドセルが脇に置かれた小机、「わっはっは!」と家族の笑い声が響いていたお風呂、昔風の台所。居間にある棚を開ければ、サツキやメイが使っているんだろうなと思わせるお茶碗や湯呑み、『トンガ王国探検記』の文庫本なんかも出てくるし、箪笥を開けば防虫剤の匂いがフワッと立ち上り、子供用の可愛らしい浴衣が見える。劇中の設定に合わせ、昭和10年台の建築様式と、昭和30年代の生活様式を踏まえて作られたこの民家は、さっきまでサツキやメイがそこにいたかのような気配を感じさせるこだわりの作りだ。
サツキとメイの家は2005年に同地で開かれた「愛・地球博」のパビリオンとして建てられたもので、宮崎吾朗監督が制作を担当。ジブリパークでも引き続き公開されることとなった。宮崎吾朗監督はジブリパークのあり方とサスティナビリティに関して、「作ったものをきちんと維持していく」ことをまず第一に考えていると語った。「愛・地球博でサツキとメイの家をパビリオンを作り、それがきちんと残っていたことが、このジブリパークにつながったと思う。あまり拡大主義にならず、まずはあるものをいい状態で残していくことを考えたい」。
さらに小高い山頂に登ると、木製のトトロが登場。どんどこ堂と名付けられた子供用の遊具で、愛知県産の杉やヒノキが使用されている。どんどこ売店では、ここでしか買えないおみくじやキーホルダーも。
山頂からは、スロープカー「どんどこ号」で下に降りることもできる(ベビーカーや車椅子を利用している方、お身体が不自由な方が優先)。
青春の丘は、前述のエレベーター塔のほか、『耳をすませば』『猫の恩返し』に関連する施設や展示で構成されるエリア。なんといっても見どころは、『耳をすませば』に登場するアンティーク家具や時計の修理・販売を行う店「地球屋」の丸ごと再現だ。
中に入ると、その麗しい雰囲気に思わずため息。主人公・月島雫が心を奪われたバロンの人形や、木馬、時計などのアンティーク、キッチン、テラスなど。階段を下ると、天沢聖司が見習いとしてバイオリン制作を学んでいた工房が広がる。工具の数々に加え、作業途中を思わせる木屑まであったりして、芸が細かい。
猫の事務所は『猫の恩返し』に登場する猫サイズの木造平屋で、中を除くとバロンとムタが談笑する姿が。
2017年に構想されてから、約5年5ヶ月というこの規模の施設としては短期間で開園まで辿り着いたジブリパーク。記者会見で大村秀章愛知県知事は、「現代日本が産んだ文化の最高峰がスタジオジブリの作品。その作品の世界がぎゅっと詰まっている」「愛知県の公立公園であり、スタジオジブリのコンセプトで作られてもいるハイブリッドな施設」と説明。
宮崎吾朗監督は、「宮崎駿監督が長編作品の監督から引退するということが、ジブリパークを作ることになったひとつのきっかけ。ジブリが長編を作らなくなったのち、これまでの作品を後世にどう残していくんだろう、という思いから始まった」と語りつつ、「ところが、相変わらず裏切られました。宮崎駿監督はまた長編を作り始めまして、ハシゴを外された気持ちでいっぱいですが」と笑う。
数々の作品を通して、鑑賞者の夢や想像力を育んできたスタジオジブリ。その新たな冒険が、ここジブリパークから始まるのだろう。
*ジブリパークのチケットは、毎月10日発売、エリアごとに日時指定の予約制。詳細は公式ホームページへ
Photo : © Studio Ghibli
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)