8月21日、世界的現代美術家の村上隆が率いるアートの総合商社カイカイキキが、新人発掘アートコンペ「GEISAI#21」を開催した。会場は東京ビックサイト南1ホール。過去のGEISAI同様、一般客の作品購入やギャラリーの新人スカウトの場である点は変わらないが、審査方法はこれまでとは異なっている。当日の会場風景、審査の様子、そして審査結果をいち早くお届けする。
2001年の東京現代美術館にて開催された「芸術道場グランプリ」を端に発するGEISAI。2022年から14年までに、GEISAIミュージアム、マイアミ、バーゼルそして台湾での開催を挟みながら、日本でのアートマーケット生成を目的に、これまで28回開催されてきた。村上隆がウェブサイトに掲載した言葉によると、過去に参加した100名以上の作家が著名になっているという。8年ぶりとなる今回のGEISAI#21では、これまでの展示ジャンルから継続する現代美術、絵画、彫刻に加え、陶芸部門を新設した。参加作家は総計206組となった。
2014年ぶりの開催となる今回のGEISAIがこれまでと異なるのは、審査員をすべてカイカイキキ所属のアーティストが務める点だ。審査方法の変更について、村上は「本当の目的は、新人クリエイターの発掘、育成を、僕らカイカイキキの評価基準で行う、が争点となる」(同上のウェブサイトより)とした。
また、会場では「Memorial NFT」を配布。8年ぶりに開催されるGEISAIを記念したデザインだ。
過去には、草間彌生、安藤忠雄、みうらじゅん、蜷川実花、松任谷由美、浅野忠信など多様なジャンルで活躍する著名人を審査員に迎えてきたGEISAI。今回は、新人アーティストの育成と、マネジメントを約20年経験したカイカイキキに所属する作家たちが受賞者を決定した。
審査員作家は、アニメ美少女をモチーフに作品制作をするMr.、国内外でイラストレーションが評価されるタカノ綾、デジタルアニメーションや彫刻を経て現在陶芸に取り組む青島千穂、スプレーでペインティングを行うMADSAKI、彫刻を中心として世界で評価される大谷工作室、少女をモチーフにした絵画を描くob(オビ)、淡い油絵を制作するくらやえみ、陶芸家の村田森だ。この8人がそれぞれ受賞者を決定し、受賞者には賞金10万円が授与される。
10代の頃から作家として活動するobは、約10年ぶりの開催に際し「私自身デビューした2010年頃とキャラクターへの向き合い方がどんな風に変わったのかなど、新鮮な感性に出会えることを心待ちにしています。」とウェブサイトでコメント。
新設された陶芸部門について、審査員で陶芸家の村田森は、「初めてGEISAIに陶芸部門が出来るという事で、コンペに出品しても落選ばかりしていた僕が、僭越ながら審査をさせて頂きます。今回のための時間と情熱が、皆さんの未来の殻を破るような、気合いの入った作品をお待ちしております」と新部門への期待を込めたコメントをウェブサイトに残している。
審査員作家の8人が選出したGEISAI#21の受賞者は、久保真理子、中島隆誠、小原若菜、AD、ミノリの5人となった。
タカノ綾が、絵画作品を出展した久保真理子(@mkjvtt)と中島隆誠(@syoshi_syoko)を選出、くらやまえみは、リトグラフや絵画を中心に制作する小原若菜(@10wll)、青島千穂は、彫刻作品を出品したAD(@urannu)、大田工作室、村田森、obの3作家は、絵画作品を出展したミノリ(@minori_360)を選出した。Mr.とMADSAKIは受賞者なしとなった。
画材メーカーのホルベイン賞は、壁画やライブペインティングも行う画家の三戸晴輝(@_ha_ruki)、ゴールデン賞は画家の仁(@llll_ll_l)、アクリル絵具を販売するリキテックス賞は、大隈伸也(@shinya_ookuma)にそれぞれ授与された。
イベントを終え村上隆は、インスタグラムのライブ配信を通して、参加者のマンネリ化や開催による経済的負担等を理由に2014年からGEISAIを開催してこなかったと明かした。今回のGEISAI#21は、コロナ禍である2020〜21年に様々なギャラリーが、過去最高の売り上げを記録した、村上の言う「東京のアートブーム」を受け、開催に至ったという。
年齢制限を設け、陶芸部門の新設や審査方法の変更など、新たな試みがなされた今回のGEISAIについて、「若い人たちのアートに対する感覚が変わってきてるんじゃないかという期待」をこめたと言う村上。「ルーティンではない流れがつくれるのではないか」と思い、一度きりの開催を決めたそうだ。次回は未定であるGEISAIだが、若きアーティストたちにとって、アートマーケットに自らを売り込むとても良い機会となったのではないだろうか。