東京文化発信プロジェクトがTABとタイアップしてお届けするシリーズ記事第3弾。今回は芸劇eyesにラインナップされた並みいる若手6劇団から筆者が目撃した一押しの二劇団を紹介いたします。[前田愛実]
劇場のエントランスに野田秀樹のでっかいポスターが一面に。昨年、東京芸術劇場芸術監督就任の際に繰り広げられた光景だ。こんなパフォーマティブかつスタイリッシュに芸術監督する人がこれまでいただろうか…。野田ファンではありながら当時は「ポスターにお金かけちゃってからに、実際のところ何かやってくれるんでしょうね」というひがみみたいな、念押しみたいな複雑な期待感を抱いてしまったが、そうこうするうちに芸劇eyesが登場。演劇ファンのツボを狙い撃ちするそのラインナップの連続に、やってくれたわと留飲が下がる日々であった。
■芸劇eyes2010 ラインナップ 前半 [終了]
http://www.geigeki.jp/saiji/007/
サスペンデッズ 『2010億光年』
日程:2010年5月22日(土)〜30日(日)
インパラプレパラート×エビビモpro. 合同公演
『エビパラビモパラート』
日程:2010年6月3日(木)〜6日(日)
快快(faifai) 『SHIBAHAMA』
日程:2010年6月3日(木)〜13日(日)
FUKAIPRODUCE羽衣『愛死に』
日程:2010年6月12日(土)〜22日(火)
劇団鹿殺し『電車は血で走る』
日程:2010年6月18日(金)〜7月4日(日)
劇団、江本純子『婦人口論』
日程:2010年7月15日(木)〜25日(日)
■芸劇eyes2010 ラインナップ 後半
柿喰う客『愉快犯』
日程:2011年1月7日(金)〜16日(日)
ひょっとこ乱舞『ろくな死にかた(仮)』
日程:2011年2月3日(木)〜13日(日)
この5月から7月にかけての2シーズン目では、作家のいい人っぷりが静謐な誠実さを滲ませるサスペンデッズ、二つの人気若手ユニットが結合して話題を呼んだインパラプレパラート×エビビモpro. 合同公演、あきれるほどポジティブなハッピーオーラ集団、快快、クラクラするほど暗くてエロくて馬鹿馬鹿しい妙ージカルを標榜するFUKAIPRODUCE羽衣、路上で鍛えたパフォーマンス力ではじけた音楽劇を展開する劇団鹿殺し、毛皮族の江本純子が新たな会話劇の境地で魅せる劇団、江本純子、とこれまたパンチのある演目が揃った。
会場には一見ガラクタと見まがう様々な玩具や日用品で構成された美術装置が、ピコピコ、モヨモヨと音を発したり動いたりしている。このキュートかつハイテクな雑多な集積からは蒸気のようにワクワク感が立ち登り、まるで夢見るゴミのように蠢いている。そこで展開するパフォーマンスはといえば、競馬場、繁華街、飲み屋など“楽して儲けてとにかく楽しむ”『芝浜』的ドリームにフィールドワークした断片。観客にも賭場気分をとじゃんけん大会を決行し、優勝者は今日のクマちゃんとして特別接待を受けるという特典付きである。毎回日替わりゲストを招いて、100人切りや真剣勝負のボクシングも行われたようだ。私の見た回は秋葉原からアングラアイドルが登場、と共にファンのオタクさん達も来場し、一糸乱れぬオタ芸を披露してくれた。その生き生きと輝く勇士は半端なく、オタクに対するネガティブイメージを一掃して、未来への希望を確信した一瞬だった。
パーティがパフォーマンスに移行したかのようなこの作品、多いにその場を楽しみ、ポジティブな波動を感じながらも、心に一抹の違和感を覚えた。まるで “楽しい一時を過ごす”という欲望だけが宙づりになって、刹那的な大騒ぎが消えそうで消えない『芝浜』の「夢」と重なって微妙に儚く切なかったからだ。そこには更生するという『芝浜』には組み込まれている建設的な展望はない。
で、次は劇団、江本純子の「婦人口論」。
エログロ人非人な似非ゴージャス音楽劇で劇的暴挙をふるう江本純子がまじめに戯曲を執筆する毛皮族のシスターブランド?「劇団、江本純子」。昨年には毎月一本を3ヵ月連続上演する企画により確実に力を伸ばし、その一本がなんと今年の岸田戯曲賞でついに最終候補にまで残った。毛皮族の荒唐無稽な筋だてにも確かな筆圧を感じてはいたか、まさかの江本が戯曲賞候補にという嬉しい誤算が快挙だった。そして今回の『婦人口論』は出演する実力派俳優陣も豪華な、期待の4作目なのである。
設定は暗闇を盲人ガイドとツアーする会場。舞台はまず完全な暗闇から始まる。突然灯りがつき、さびれて形骸化したテーマパークを圧縮したような装置が舞台一面に現れる。参加者が誤ってスイッチを入れてしまったのだ。同僚同士で割引券があるから参加した者、好きな女子についてきた者、知的っぽい興味を持ってきた者、人生の糧となるものを期待してきたちょっとKYな人、と様々な面持ちでそこにいる。しかしそこは江本の描く人物らしく面倒な性格ばかり。ツアー中のあだ名を決める段階でもめている。ガイドには灯りはばれなかったようで、4人は灯りを消してツアーを再開するのだが、そのうち暗闇の魔術なのか、本音が飛び交ってあからさまな人間関係が明るみにでてくる。一方、女子たちの壮絶な心理戦をよそに、献身的なガイドの行動が、変態っぷりを帯びてくる。怪我を消毒だとなめたり、絆創膏だと生理ナプキンをつけたり、怪我人を強引におぶう際に尻をわしづかみにしたり、女子のために便座になったり。最初は微妙に、やがてあからさまに痴漢行為にで始めるのだ。とまどう女子たち、しかしさすがの強気の彼女らも盲人相手には強く非難することはしない。やがて、触られたり、ゲロったりと、様々な身体的紆余曲折も経てツアーは終了する。最後にガイドはツアー参加者へメッセージを書く「途中で電気をつけたり消したりしてはいけません」。参加者全員が愕然として幕はおりる。
『婦人口論』というタイトルから、女子たちのあけすけぶっちゃけトークが炸裂するのかと思いこんでいた。しかし今回は盲人ガイドの行動に、弱い立場にいる者の駆け引きを見た。そして普段そこに胡坐をかいている女子たちが、逆にこずるいバランス感覚を突き付けられてひるむ様子に感服した。それにしても四者四様のめんどくさい女子ぶりがよく描けている。そして敢えて障害ある者のエロ魂を露呈する江本の筆づかいには舌をまいた。
さて、この芸劇eyes、2011年春には、劇場改装のために、形を変えて継続することも含めて計画中らしい。少しばかり見にくい客席とか舞台の使い勝手が一層改良されてアーティストが使い倒せる劇場となって戻ってきてくれること期待したい。そして新しい演劇を迎撃する(野田氏風)芸劇eyesもさらにパワーアップして戻ってきてほしいものです。
ゲストライター: 前田愛実 英国ランカスター大学演劇学科修士課程修了。早稲田大学演劇博物館助手を経て、現在はたまに踊る演劇ライターとして、小劇場などの現代演劇とコンテンポラリーダンスを中心に雑誌やwebなどに書かせてもらってます。