国立西洋美術館や東京都美術館、東京国立博物館を筆頭に、美術館・博物館が密集し、ターミナル駅として栄える上野。かたや都心部でありながら下町の雰囲気が残り、古い家屋をリノベーションしたカフェやセレクトショップが増えつつある谷中。今回のギャラリーガイドでは、上野・谷中エリアを中心に近隣の浅草や駒込エリアまで足を伸ばし、8軒のアートスペースを紹介していきます。
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根津駅から徒歩5分の場所にあるのは、2020年2月に設立されたばかりの「The 5th Floor」です。元社員寮という建物を利用し、5階の部屋やバルコニーを展示室として活用。一般的なコマーシャルギャラリーと異なり、インデペンデント・キュレーターによる企画を中心に運営されていることが特色です。大倉佑亮キュレーションによる、石川竜一 + 森ナナ「絶景の瞬間|A Grand Moment」(2021)やキュレーター・デュオS_Zによる「呼吸の部屋」(2021)を始め、展覧会を精力的に開催。独創性が光る企画に、きっと足を運びたくなるはずです。
「東京藝術大学大学美術館」は東京藝術大学大学上野キャンパス内にある美術館です。資料や作品の収集は1949年の大学創設以前から始まっており、現在、コレクションは国宝・重要文化財23件を含めおよそ3万件にのぼります。1998年に芸術資料館から大学美術館としてリニューアルしました。
展覧会では「藝大コレクション展 2022 春の名品探訪 天平の誘惑」(2022)といったコレクション展はもちろん、「ヴァーチャル・ボディーメディアにおける存在と不在ー」(2022)のようにテーマを設けた特別展や学生の卒業展示など、大学美術館ならではの企画が展開されています。
東京藝大を出て、谷中のほうへ向かいましょう。「SCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)」は1993年に創設されたギャラリースペースです。建物は200年の歴史を持つ銭湯「柏湯」を改装したものです。その外観とは裏腹に、館内はニュートラルなホワイトキューブとなっており、高い天井からはやわらかな自然光が差し込んでいます。取扱作家には、李禹煥、遠藤利克、森万里子、名和晃平、土屋信子、アニッシュ・カプーア、ダレン・アーモンド、アピチャッポン・ウィーラセタクン、何翔宇などが名を連ねます。
スペースでの展覧会の開催はもちろん、芸術祭や文化施設との協働を通じて、国内のアートシーンを牽引する同ギャラリー。天王洲にある関連施設「SCAI PARK(スカイパーク)」と六本木の「SCAI PIRAMIDE(スカイピラミデ)」での展覧会にも注目です。
谷中銀座を抜け、寺院がひしめく日暮里エリアに向かいましょう。屋上からラクダが覗く建物が見えたら、それが「HIGURE 17-15 cas(ヒグレ 17-15 キャス)」です。スペースの名称は、所在地の住所とcas=コンテンポラリー・アート・スタジオに由来しています。展覧会では坂本美果 「よるの体温」(2022)のような若手作家から、三田村光土里 「人生は、忘れたものでつくられている」(2021)といったキャリアの長い作家まで幅広く協働。1階ではこういった展覧会を開催し、2階は美術館での展示設営などを手がける会社の事務所として使用されています。2002年のスタート以来、活動のキーワードに「オープンネス」「出会いと交流の場」「新しいネットワークづくり」を掲げている同スペース。筆者が訪れた際もフレンドリーな雰囲気に満ちていました。
少しルートから脱線して、上野からほど近い浅草・蔵前エリアへ足を伸ばしてみましょう。「空蓮房(くうれんぼう)」は2006年に長応院境内に建てられた、ひとりで美術作品と対峙するための小さな空間。「作品を見るとはどういうことか」という房主・谷口昌良さんの広範な問いから始まったスペースです。中に入ると、ホワイトキューブでありながらもその密閉感ゆえに、自室のような安心感すら覚えるかもしれません。近年は横田大輔、細倉真弓、Nerholらの作品を展示した「写真物に問う」(2022)や、内藤礼 「Praying for Tokyo 東京に祈る─『わたしは生きた』」(2021)といった展覧会を開催してきました。
不定期に年に2〜3回企画される展覧会はひとり1時間の予約制のため、訪れる前にウェブサイトで空き状況をチェックしておきましょう。
浅草駅と田原町駅のあいだにある「アサクサ」は、木造日本家屋を改築し、2015年10月にオープンした40平方メートルのキュラトリアル・プロジェクト・ スペースです。キュレーター同士の協働の推進を掲げている同スペースは、海外の注目作家を招聘し、主に映像作品を中心に展示を企画しています。いままでにトマス・ヒルシュホルン、オノ・ヨーコ、ポーリン・ボードリ/レナーテ・ロレンツ、アントン・ヴィドクル、ジョシュア・オコン、ヒト・シュタイエル、ミン・ウォンらの作品を紹介しています。
最後に、駒込周辺の2スペースを紹介します。
KAYOKOYUKIは2015年にギャラリースペースをオープン。所属作家には今村洋平、利部志穂、西村有、大野綾子、大田黒衣美、鈴木光、髙木大地、諏訪未知などがおり、近年は富田正宣 「ユーセン」(2022)や櫻井崇史 + 磯邉一郎「墓石・アルバム・まぼろし」(2021)といった展覧会を企画してきました。スペースのオープン前からアーティストのマネジメントや展示施設とのコラボレーションを図りギャラリーとして精力的に活動してきた同スペース。2014年よりNADA Miami Beachに、2019年よりParis Internationalに毎年出展するなど、国内外のアートフェアに積極的に参加していることも特徴です。
KAYOKOYUKIと隣接する「駒込倉庫 Komagome SOKO」は2016年に設立した施設。変容する東京のアートシーンにおいて、良質なプロジェクトを実現する場所を提供するための実験スペースとして誕生しました。展示は主に若手作家の作品や企画のもと開催されており、久保田智広と原田美緒のキュレーションによる「(((((, 」(2022)や、エドワード・アーリントンとその教え子に焦点を当てた「それは、つまり物を以って詩をつくることである」(2022)などが開催されてきました。
今回のギャラリーガイドはいかがだったでしょうか。筆者は、地域に馴染みながらも新鮮な企画や革新的な試みが見られるギャラリーが多い印象を受けました。地理的には都心であるはずなのに、駅を離れると忙しない雰囲気はなくどこか長閑さすら感じられる上野や谷中。駒込や浅草のあいだは少し距離があるので、自転車で回ってみるのも楽しいかもしれません。