東京を代表する繁華街、六本木。夜の街、観光客で賑わう街、ビジネス街などの様々なイメージのあるこの街をアートという観点から眺めてみると、森美術館や国立新美術館、サントリー美術館や21_21 DESIGN SIGHTといった人気のスペースが肩を並べる街であることがわかります。今回は、六本木駅周辺から出発し、麻布十番方面、西麻布方面へと足を運び、周辺のギャラリーを紹介していきます。
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まず向かうのは、今回紹介するアートスペースのなかでもっとも六本木駅に近いピラミデビル。名前の通りピラミッドを連想させる構造の建築には、多くのギャラリーが集まっています。
ビル1階にあるペロタン東京は、1989年フランス人ギャラリストのエマニュエル・ペロタンがパリに開廊したギャラリーの東京支店。村上隆を海外で初めて紹介したことでも知られるペロタンは、2012年の香港を皮切りに、ニューヨークやソウル、上海などで海外展開し、東京ではここ六本木に2017年にオープンしました。世界のアートシーンで大きな力を持つ「メガギャラリー」のひとつでもある同所は、旬の潮流を知るうえでは外せないスペース。ギャラリーの隣には、20年にオープンしたブックストア兼イベントスペース「PERROTIN 106」もあり、書籍や雑貨など買い物を楽しめます。
ピラミデビルの2階にあるのは、2015年に開廊したYutaka Kikutake Gallery。Nerhol、新里明士、田幡浩一、古橋まどか、平川紀道、小林エリカ、三瓶玲奈、本山ゆかり、小左誠一郎、ミヤギフトシらの、これからの表現を切り開く作品を紹介しています。
「直近の現代アート史を踏まえながら、新しい価値観がグローバルに飛び交う今後の社会におけるアートの意義を考える場を生み出すことも大切にしています。2022年からはこうした活動をより広く展開すべく、海外拠点のアーティストを紹介する展覧会も年に3回ほど実施予定です」と語るのは、オーナーの菊竹寛さん。今年は、Taka Ishii Galleryと共同で国内におけるアートコミュニティを活性化していくためのプロジェクト「アートクラブ」も始動し、その動向に注目が集まっています。
1992年、初台に開廊したWAKO WORKS OF ART。2011年にピラミデビルの3階にて展示面積を拡大してリニューアルオープンしました。所属作家にはゲルハルト・リヒター、ヴォルフガング・ティルマンス、リュック・タイマンス、フィオナ・タン、グレゴール・シュナイダー、竹岡雄二ら、欧米の主要美術館で発表を続ける作家が名を連ねています。自社出版も幅広く展開し、展覧会カタログや作家の評論やインタビューを集めた「テキストシリーズ」はアーティストを知るうえで手に入れたい1冊です。
オオタファインアーツは1994年、恵比寿でスタートしたギャラリー。2003年に六本木、08年には勝どきに移転しましたが、11年に再び六本木に戻り、現在はピラミデビル3階に所在しています。都市や社会が抱える問題を、美術やアクティヴィズムを通じてどのように考えられるかという問いが同スペースの原点。草間彌生、竹川宣彰、ブブ・ド・ラ・マドレーヌ、アキラ・ザ・ハスラーといった国内の作家を始め、インド出身でアメリカ在住のリナ・バネルジー、インドネシアのアイ・チョー・クリスティン、中国のタン・ディシンらといったアジアにルーツを持つ作家と協働していることも特色のひとつです。
ピラミデビルにはほかに、谷中のSCAI THE BATHHOUSEが運営するSCAI PIRAMIDE(3階)、松山智一や平子雄一が所属するKOTARO NUKAGA(六本木)(2階)、禅フォトギャラリー(2階)、LONDON GALLERY(2階)、TARO NASU (4階) 、公益財団法人現代芸術振興財団事務局(4階)、gallery sign tokyo(4階)などが軒を連ね、国内有数の一大アートコンプレックスとなっています。
続いて向かうのは、ピラミデビルのすぐ隣に位置するギャラリーが集まるビル、complex 665です。
ビルの2階にある小山登美夫ギャラリーは1996年江東区佐賀町に開廊し、2016年から六本木にスペースを構えています。開廊当初から海外アートフェアへ積極的に参加し、日本の同世代アーティストを国内外に発信してきた同ギャラリーは、現代アートマーケットの更なる充実と拡大を目指しています。現在は菅木志雄、杉戸洋、蜷川実花、リチャード・タトルなどのアーティストに加え、陶芸のアーティストも紹介しているとのこと。温かみがあり、リラックスしながら作品鑑賞できる展示空間は、村山徹と加藤亜矢子が主催するムトカ建築事務所が内装設計を担当しています。
同じく2階にあるシュウゴアーツは、2000年に設立されたギャラリー。所属作家には、小林正人や戸谷成雄など日本において具体・もの派以降の絵画と彫刻のあり方を実現した作家をはじめ、千葉正也、藤本由紀夫、イケムラレイコ、近藤亜樹、リー・キット、丸山直文、アンジュ・ミケーレ、三嶋りつ惠、森村泰昌、小野祐次、髙畠依子、米田知子などの作品を取り扱っています。合言葉として「ギャラリー的冒険」を掲げる同ギャラリー。青森県立美術館の設計や京セラ美術館の改修で知られる青木淳が手がけた「原っぱ」的空間にて、作家とともに展覧会にあわせた空間構成から作り上げることでクリエイティブな場として進化を続けています。
ビルの最上階にあるのは、1994年に開廊したタカ・イシイギャラリー。同ギャラリーは荒木経惟、森山大道ら日本を代表する写真家や、五木田智央、法貴信也らの画家、そして荒川医、木村友紀など、新進気鋭の日本人作家と協働し展覧会を企画してきました。
アート・バーゼルやフリーズをはじめとする海外のアートフェアにも定期的に参加しており、トーマス・デマンド、ダン・グラハムなど、国際的に評価の高い作家から、ルーク・ファウラーやサーニャ・カンタロフスキーら今後の活躍が期待される若手まで海外作家の展覧会も多く開催しています。
同じ六本木エリアには、日本の戦前・戦後の写真を紹介する同ギャラリーの別館amanaTIGPもあり、あわせて足を運んでみるのもおすすめです。
続いて、六本木交差点から東京タワーの見える方角へ進んでみましょう。
2020年にオープンしたANB Tokyoは、一般財団法人東京アートアクセラレーションが運営するアートコンプレックスビル。ビル名の由来は、既存の概念とは異なる何かを示す「Alternative」と、多様なものを受け入れる「Box」からきており、さらにはこの箱の中に無数の物語「Narrative」が詰まっていくことを示しています。
2階から7階までの6フロアで構成されているANB Tokyoですが、ギャラリースペースは3階と4階。その他のフロアはコミュニティラウンジやスタジオとして運用され、展覧会の企画運営はもちろん、アーティストの制作活動サポートなども行っています。
「アートに限らず、ファッションや映像制作の方々にも活用いただけるのもANB Tokyoの特徴です。美術館・ギャラリーが多い六本木という土地柄もあり、無数の物語を受け入れる箱となっていく可能性を感じています」と語ってくれたのは一般財団法人東京アートアクセラレーションの三木茜さん。ジャンルを超えたスペースの活躍に、今後も目が離せません。
東麻布にも足を伸ばしてみましょう。2008年に設立したTake Ninagawaは、泉太郎、大竹伸朗、河井美咲、笹本晃、宮本和子、山崎つる子、ヤン・ボー、シャルロッテ・ポゼネンスケなどと協働しています。
ギャラリーオーナーの蜷川敦子さんは、グローバル・サウス問題に取り組むプラットフォーム「SOUTH SOUTH」や、コロナ禍におけるギャラリー・イニシアティブ「Galleries Curate」の立ち上げ、「アートウィーク東京」の創設などアートのエコシステムの発展にも取り組んでいます。
スタッフの方にエリアの魅力を聞くと「東麻布は地元のお店や昔から暮らす住民達で成り立つコミュニティのつながりが強く、お祭りの時期などはとても賑わいます。富麗華やCHIANTI、東麻布天本など食の名店があるのも魅力です」と語ってくれました。ギャラリー巡りの合間、周辺でランチの店を選ぶのも楽しそうです。
CALM & PUNK GALLERYは、1996年に刊行したデザイン/アートブック『GASBOOK』の版元であるガズアズインターフェイスが運営するギャラリー。2006年に開廊しました。アートブックの出版がギャラリー誕生の背景でもあることから、ファインアートに限らずファッション、グラフィックデザイン、ユースカルチャーなどを行き来する作品を扱っており、ラッセル・モーリスやアントワン・オルフィーなどグラフィティの背景を持つ作家や、谷口暁彦、YOSHIROTTEN、ジョナサン・ザワダといったデジタル・RGBを用いて表現する作家らと協働しています。天井高5mのゆったりとしたスペースで、分野を横断する作品を見に行ってみましょう。