古くは武家屋敷や軍用地があり、現在は高級マンションや防衛省が所在することで知られる市ヶ谷。対して、戦前には東京屈指の花街として栄え、現在はフランス政府の公式機関「アンスティチュ・フランセ東京」やレストラン、ビストロの多さから東京のリトル・パリとも称される神楽坂。両者を結ぶ神田川沿いには、大学キャンパスが数多く立ち並んでいます。
今回のギャラリーガイドでは市ヶ谷駅から出発。飯田橋駅方面へ神田川沿いを進み、神楽坂駅方面へ抜け、江戸川橋駅へ向かうルートで巡っていきます。
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2023年5月に市ヶ谷駅から徒歩約3分の場所に移転した「gallery αM」は、武蔵野美術大学が運営する非営利のギャラリー。1988年に吉祥寺にて開廊し、馬喰町などを経て現在のスペースにいたります。その特色は、展覧会の企画をゲストキュレーターに任せていること。近年は、美術家・美術批評家の石川卓磨や、豊田市美術館学芸員の千葉真智子、インディペンデントキュレーターの長谷川新などを迎えてきました。
ディレクターの冨井大裕さんはギャラリーのコンセプトとして、「ジャンルを問わず質の高い表現と可能性を有するアーティストに作品発表の機会を提供すること」「社会に斬新な価値を発信できるキュレーターに展示企画の場を提供すること」の2点を挙げます。現代美術の最先端を知りたい人はぜひ展示へ足を運んでみましょう。
市ヶ谷駅と飯田橋駅の間、外堀通り沿いにあるのが「ミヅマアートギャラリー」です。1994年に三潴末雄が青山でオープン後、2009年から現在の場所に所在。会田誠、山口晃、池田学、O JUN、堀 浩哉 、宮永愛子、名もなき実昌、アルベルト・ヨナタン・セティアワン、ジュン・グエン=ハツシバ、インディゲリラなど日本やアジアにルーツを持つ作家と協働しています。
12年にはシンガポールにMizuma Galleryを、18年にはニューヨークにMizuma & Kipsを開廊するなど、国際的にも影響力を持つ同ギャラリー。アートバーゼル香港やアーモリーショーなど国際的なアートフェアにも多数参加しています。
神田川沿いの外堀通りを離れ、険しい坂を登り、神楽坂エリアの住宅街方面へ。打ちっぱなしのSF感漂う建物が見えてきたら、それが「√K Contemporary」です。日本美術専門の古美術商が新規事業として2020年にオープンした同館は、次世代へつなぐアーティストや作品を紹介する場として、場所や時間という概念を忘れさせる「異空間」をコンセプトに据えたギャラリースペース。2フロアに跨った展示空間に入ると、宇宙船のなかにいるような感覚を覚えるかもしれません。
オープン以来、「wall to wall Noriyuki Haraguchi」や梅津庸一監修の「絵画の見かた reprise」、岸裕真「Imaginary Bones」など、主に戦後から新進気鋭の若手まで幅広い作家を紹介してきました。
牛込神楽坂駅や早稲田駅から徒歩圏内の「草間彌生美術館」へ。前衛芸術家として知られる草間彌生が2017年に設立した同館は、エントランスに配されたトレードマークの水玉模様が目印です。展覧会は年2回を目安に、草間作品のコレクションをもとに企画されており、現在(2022年5月)は「心の中の詩」展が開催されています。なお、チケットは日時指定の事前予約制でウェブサイトでのみ販売。美術館窓口での取扱はないため、訪れる際は事前購入をお忘れなく。
神楽坂駅すぐに立地する「CAVE-AYUMIGALLERY」は2015年にオープン。赤羽史亮、中村太一、ジャンルカ・マルジェリといった所属作家に加え、鷹野隆大、アリ・サールトといった作家とも協働し展覧会を企画しています。
「日本の伝統文化と異文化が混在している地域」である神楽坂は「路地裏にも魅力的なお店がたくさんあるので、ぜひ散策を楽しんでいただきたいです」とオーナーの鈴木歩さん。ギャラリーとして大切にしていることを尋ねると以下のように話してくれました。「ギャラリー名の『Cave(=洞窟)』とはギャラリーが地下にあることに加え、古来、洞窟が人々の集まるスペースの原点であり、そこから様々なコミュニケーションや壁画としての絵画も生まれたということに由来しています。現代的な洞窟として、ギャラリーがアートを通じて新しいコミュニケーションの生まれる場所、新しい文化の生まれる場所となれたらと思います」。
「Maki Fine Arts」は2010年、牧高啓が設立したギャラリー。元印刷工場を改装したユニークなスペースが印象的です。取扱作家は、アレックス・ダッジのほか、白川昌生、末永史尚、城田圭介、池田衆など国内の作家を中心としています。
ギャラリーの特色について、牧さんは「アーティストがキュレーションする展示を開催していることです。またキュレーターや批評家の方に寄稿していただくなど、展覧会の批評性に重点を置いています」とコメント。たとえばこれまでに、白川昌生がキュレーションした「メルド彫刻の先の先」(2018)や、末永史尚のキュレーションによる「控えめな抽象」(2015)といった展覧会を開催してきました。
Maki Fine Artsと同じビルの3階にあるのが、「Sprout Curation」。雑誌『スプラウト』を手がけていた志賀良和が編集者の視点で日本のアートに、新しい文脈を与えることを試みるアートスペースです。近年は尾関諒「袖に月が昇る」、ノリ服部 + 佐藤研也 「Coffee Table Goes Wrong」、宇田川直寛 「庭の気がかり」、「中原昌也展」といった展覧会を開催しています。
江戸川橋駅にほど近い「WAITINGROOM」は2010年に恵比寿にオープンした後、2017年に現在の地に移転したギャラリーです。飯山由貴、エキソニモ、川内理香子、高田冬彦らの個展を行なってきました。
「ギャラリー名である『WAITINGROOM=待合室』を念頭に置いた空間づくりを意識し、訪れた鑑賞者とギャラリストやアーティストのあいだに自然と会話が生まれるような雰囲気を大事にしています」と語るのは、スタッフの小林舞衣さん。現在のスペースが45年間地域の郵便局として親しまれていた場所ということもあり「手紙を読む時のように、落ち着いた環境で作品ひとつひとつとじっくり向き合うことができるスペースだと思うので、ぜひ気軽に訪れてみてほしいです」とも話してくれました。
「永青文庫」は東京で唯一の大名家の美術館。肥後熊本54万石を治めた細川家の下屋敷跡にあり、建物は同家の家政所(事務所)を展示施設に改装したものです。所蔵する細川家伝来の美術工芸品・古文書・刀剣・禅画・近代日本画といったコレクションをもとに、展覧会を企画。現在(2022年5月)は初夏展「仙厓ワールドーまた来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画ー」が開催されています。