公開日:2023年7月21日

新宿、最新アートガイド。日本一のターミナル駅周辺で、多様に発展するアートスペース10軒を訪ねる

今回のギャラリーガイドは新宿が舞台。初台、代々木、歌舞伎町などのギャラリー、アートスペースを紹介。

歌舞伎町ゴジラロード入口

日本一の列車・バスのターミナル駅であり、飲食店やアパレル、映画館、家電量販店などが乱立する新宿。初めて新宿駅を訪れたとき、多くの人が駅周辺で迷った経験があるのではないでしょうか?

今回のギャラリーガイドでは、新宿駅周辺のギャラリーやアートスペースを紹介。初台から出発し、西新宿、代々木、新宿三丁目、歌舞伎町、東新宿というルートで巡っていきます。

気になるベニューはウェブ版でのログインTABアプリでフォローしておくのがおすすめ。アプリではそのベニューで開催される展覧会の開幕と閉幕を、プッシュ通知でお知らせします。

*都内のエリア別アートガイド記事の一覧はこちらをチェック

東京オペラシティ アートギャラリー

「東京オペラシティ アートギャラリー」は西新宿の複合文化施設、東京オペラシティタワー3階に位置する美術館。1999年に開館しました。企画展は高さ6mの天井を持つ広々とした展示室のもと、年4回現代美術を中心に多様なジャンルのものが開催されています。近年で言うと今井俊介 「スカートと風景」(2023)、「Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎」(2023)、「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」(2022)などが印象的かもしれません。

企画展のほかにも、若手作家の平面作品を紹介する展覧会「プロジェクトN」と、戦後の日本の美術作品約4000点のコレクションを紹介する「収蔵品展」も同時開催しているため、企画展を訪れた際は合わせて鑑賞してみてはいかがでしょうか。

東京オペラシティ アートギャラリー 外観
「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」(2022、東京オペラシティ アートギャラリー)展示風景 Photo by Imai Tomoki

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

同じ敷地内、東京オペラシティタワー4階にある「NTTインターコミュニケーション・センター」(略称:ICC)では、最新のテクノロジーによるアートが鑑賞・体験できます。1997年にオープンした同館では、ヴァーチャル・リアリティやインタラクティヴ技術などを用いたメディア・アートなどを紹介する展覧会を開催。「多層世界とリアリティのよりどころ」(2022)では、谷口暁彦、内田聖良、藤原麻里菜らの作品を通じて、メタバースやミラーワールドといった実装されつつあるテクノロジーに焦点が当てられていました。毎年開催される長期展示「ICC アニュアル」、夏休みの子供向けプログラム「ICC キッズ・プログラム」も同館の魅力のひとつです。

5階ロビーの床には、芸術文化と科学技術に関する1900年代からの年表と資料展示も。メディア・アートに関心がある人はぜひ訪れておきたいスペースです。

5th-floor lobby of the NTT ICC Inter Communication Center
Shota Yamauchi "Yamahyo Crossing" (2021) Photo: Keizo Kioku

ケンジタキギャラリー

東京オペラシティのほど近く、西新宿エリアには「ケンジタキギャラリー」があります。同ギャラリーは名古屋にて1994年にスタートし、その後98年に東京にも2軒目を開廊。塩田千春、横山奈美、鬼頭健吾、村岡三郎、若林奮、アルフレド・ジャー、ヴォルフガング・ライプら、中堅・ベテラン作家の作品を取り扱っています。美術館や芸術祭によく行く人であれば、どこかで所属作家の名前や作品を見たことがあるはず。西新宿を訪れた際はぜひ立ち寄ってみましょう。

「ヴォルガング・ライプ展」 (2022、ケンジタキギャラリー)展示風景 Photo by Tetsuo Ito Courtesy of KENJI TAKI GALLERY ©︎ Wolfgang Laib

文化学園服飾博物館

オペラシティから新宿へ甲州街道を進んでいくと、右手に文化学園と「文化学園服飾博物館」が見えてくるはずです。同館は学校法人・文化学園を母体とする服飾専門の博物館。学校は1923年に創設、博物館は79年に開館しました。「 ”衣” を通して日本と世界の文化を知る」をテーマに、所蔵品を中心とした年4回程度の企画展を開催しています。

コレクションは、日本の江戸時代から現代までの着物類、ヨーロッパの18世紀から20世紀のドレス類、アジア、アフリカ、中南米など地域の特徴的な民族衣装など、古今東西の服飾、染織品が収蔵されています。訪れたことがない人へ向けて、学芸員の金井光代さんは以下のようにコメントしてくれました。「私たちの生活に欠かすことのできない『服』ですが、あまりにも身近な存在であるがゆえに、あまり意識したことがないのではないでしょうか。身近だけど言われてみればよく知らない『服』の、実は広くて深い世界をのぞきにいらしてください」

文化学園服飾博物館ビル 外観
文化学園服飾博物館展示風景 ヨーロッパのドレス

gallery10[TOH]

新宿駅へ直接向かわず、代々木駅へ少し迂回してみましょう。駅の高架下を超えるとすぐに、「TOH」と書かれたネオンサインとビルボードが見えてくるはずです。そのビルの1階、自動販売機を模した扉の奥に「gallery10[TOH]」の空間が広がります。同スペースは2021年にスタート。代々木駅東口エリアの地域活性を目的とした町づくりの一環としてオープンしました。20代、30代を中心に、気鋭のアーティストと協働しています。

代々木駅東口から徒歩10秒、新宿駅からも歩いて10分ほどという好立地の同ギャラリー。ギャラリストの大庭三奈さんによると、「ギャラリーめぐりの最終地にして、そのまま作家さんと一緒に、隣に広がる古民家を再生活用した飲食街へ行かれるお客様も多くいらっしゃいます」とのこと。仕事や学校帰りに、展覧会を見てから近隣で晩御飯にするのもおすすめです。

gallery10[TOH] 外観
野々上聡人「逆襲と祝福」(2023、gallery10[TOH])展示風景

KEN NAKAHASHI

新宿御苑を横目に、新宿三丁目方面へ進みましょう。新宿二丁目交差点の近くの雑居ビル5階には、「KEN NAKAHASHI」があります。同ギャラリーは2014年設立。これまで、井原信次、大垣美穂子、海老原靖、エリック・スワーズ、葛西優人、佐藤雅晴、原田裕規、松下真理子、森栄喜、ヨーガン・アクセルバル、任航(レン・ハン)などの作品を発表してきました。

ギャラリストの中橋健一さんは、ギャラリーの理念やポリシーについて以下のように話してくれました。「遠く離れた場所、未知の存在を思い出し、邂逅し、対話すること。このような複雑で豊かな試みが可能となる場所を立ち上げるように心がけています」。増え続ける社会問題や簡単には共感できない他者に対して、私たちはどう向き合うのか。対話へと開かれた作品が数多く紹介される同ギャラリーの展覧会で、複雑な問題に対する新たな視点が見つかるかもしれません。

Exhibition view of Eiki Mori “We Squeak” (2023, Ken Nakahashi) Photo by Yuya Saito

伊勢丹新宿店本館

百貨店が数多くある新宿駅周辺。新宿三丁目駅目の前の「伊勢丹新宿店本館」のなかにも、ギャラリーがあります。アートギャラリーは、同ビルの6階に所在。「アートを持つ喜びを広げる」をコンセプトに、現代アートから洋画、日本画、工芸、版画まで様々なジャンルの作品の展示販売を行っています。展示が週ごとに入れ替わることも特色のひとつです。

百貨店のなかにあるギャラリーと聞くと身構えてしまいがちですが、街中のギャラリーとはまた違った作品に出会えるはず。新宿駅周辺で用事がある際は、ふらっと足を運んでみてはいかがでしょうか。

伊勢丹新宿本店 本館6階 アートギャラリー 外観
伊勢丹新宿本店 本館6階 アートギャラリー 内観

新宿三丁目駅から四谷駅にかけてのエリアには、写真表現を扱う出版社やギャラリーが多いことでも知られています。そのひとつとして、新宿2丁目にある「photographers’ gallery」を紹介しましょう。同ギャラリーは2001年オープン。名前の通り、写真家たちによって自主運営されているギャラリーで、企画展はもちろん、レクチャーや批評、雑誌の発行なども行われています。

インターネットやSNSなどを通じて、メディアとしてますますその影響力を強める写真。作家で運営に関わる角田奈々さんは、ギャラリーについて以下のように話します。「写真家が様々な活動や人との出会いを通して獲得したリアリティーを深め、さらに交感してゆくための『メディア』なのである」。ギャラリーという場所を媒介して、アートとしての写真の面白さにぜひふれてみてください。

王子直紀 「川崎」(2022、photographers’ gallery)展示風景
岸幸太 「Vietnam Street」(2022、photographers’ gallery)展示風景

デカメロン

今度は歌舞伎町の中心地へ。「デカメロン」は2020年にオープンしたスペース。2階は企画展示のスペース、1階にはバーカウンターのあるコミュニティースペースとなっており、鑑賞とその前後の交流が楽しめます。「super vision / deportare」(2021)ではWHITEHOUSEとの協働キュレーション、「新宿流転芸術祭」(2022)ではgallery10[TOH]も会場となるなど、近隣のギャラリーとの交流にも積極的です。

ディレクターの黒瀧紀代士さんによると、デカメロンは展示のコンセプトとは別に、ギャラリーとしてのテーマを設定していると言います。2023年のテーマは「評価について」。たんに展覧会を運営して作品を鑑賞者に提示するだけでなく、作家やスタッフ、他の来場者と気さくに話すことができるのはこのスペースならではの魅力です。

デカメロン 外観
オル太 + 原田裕規「オカルティック・ヨ・ソイ」(2021、デカメロン)展示風景  撮影:光岡光一

WHITEHOUSE

最後に紹介する「WHITEHOUSE」は新大久保駅、西新宿駅、東新宿駅にまたがるスペース。スペース。その建物は磯崎新が建築家として初めて設計したもので、1957年に完成。当初は、日本の前衛芸術集団「ネオ・ダダイズム・オルガナイザー」の中心人物・吉村益信の自宅兼アトリエとして使われていました。その後、画家・宮田晨哉の自宅やカフェを経て、アーティストコレクティヴ・Chim↑Pom from Smappa!Groupのアトリエに。Chim↑Pom from Smappa!Groupの卯城竜太と、アーティストの涌井智仁、ナオ ナカムラの中村奈央によって2021年に現在の体制がスタートしました。

涌井さんにスペースの運営について気にかけてるポイントを尋ねたところ「アーティストに余計なレギュレーションを可能な限りかけないようにしています」とコメント。自身が制作もするアーティストが運営しているWHITEHOUSE。だからこそ、作家はより自由に展示を企画し、訪れた人はよりクローズドな雰囲気を楽しむことができるはずです。

WHITEHOUSE 外観 ©️ 高野ユリカ
WHITE HOUSE 内観 ©️ WHITEHOUSE

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。