公募展「学展」の第72回受賞作品展が、8月11日(木)から21日(日)まで東京・六本木の国立新美術館で開催されている。学生による油絵の振興・作品保存・国際交流を目的に日本学生油絵会が主催し、1950年に「全日本学生油絵コンクール」としてスタートした学展。受賞作品展では、若手の登竜門としても知られる学展の成果を見ることができる。
今年の審査員は、青木昭夫(DESIGNART代表)、小松隆宏(WATOWA Gallery)、千原徹也(アートディレクター)、ヒロ杉山(アーティスト)、牧正大(MAKI Gallery)の5名。会場には、各5部門(幼少/小学/中学/高校/大学・一般)の最優秀賞、優秀賞、審査員特別賞などの上位受賞者の作品が冒頭に展示されている。
厳正な審査の結果、選ばれた最優秀賞受賞作品と各審査員からの総評、メッセージを紹介する。
【総評】
審査中は、次から次へと多様な思考の作品を目の当たりにすることができ、とても新鮮な体験でした。印象に残った作品はたくさんありましたが、コロナの影響なのか、ちょっと暗い作品も混ざっていたり、逆にポジティブにカラフルな表現をしたりする人もいて、色々な表情を見られたのは、こういう時代性なのかもしれないなと思いました。
【出展者へのメッセージ】
これから頑張ろうという若い人にとっては、今は、いい時代ではないかと思います。一般の人たちがアートにも関心を持つようになり、アートが「購入していいんだ」という風潮にここ数年でなってきています。インテリアショップなどにも作品が置かれるようになり、所有したら自分の部屋はどうなるんだろう? と想像できる機会も増えてきました。アーティストにとって、戦後最もチャンスを掴みやすいタイミングです。チャンスを掴むために、自分のオリジナリティーをどんどん追求してください。揺らぐ時もあると思いますが、何か直感的に信じられるものがあったら、諦めずにやってみてください。周囲の人を巻き込むことも大切。自分が尊敬できる、また自分にない特技を持っている人を仲間にして、積極的にコミュニケーションをしていくことが、成功のための一つの要素になるんのではないかと思います。
【総評】
普段自分のギャラリーやプロジェクトでは、あまり幼少や小学生の作品は見てこなかったので審査はとても新鮮でした。ある意味、プロと呼ばれている人の作品よりも面白かったり、感覚が研ぎ澄まされたりしていて、感動を受けた作品もたくさんありました。そういう印象の作品は、若ければ若いほど感じた気がするし、ピュアな感覚で描いている人が多かったように思います。その一方で、「学校教育で慣らされちゃったんだな」みたいな、個性が消えている方もいて。教育を受けると、当たり障りのない絵になっていく場合も多いと感じます。その意味で、絵の教育を受けていないような方の作品のほうが、面白い絵と感じることが多かったと思います。
【出展者へのメッセージ】
僕自身はプロデューサーやアートプロジェクトを企画する集団といった、プロデューサーサイドの人間を数多く生み出そうとしています。アーティストに求めるのは「独創性」や、その人の「ピュアさ」が作品に強く出ているかどうか。中には一緒に戦略を考えられるタイプのアーティストもいますが、自分がアートをやる必然性を、ピュアにひたすらに考えて生きているかどうかが、いま一番求められるのではないかと思います。そのピュアさを突き詰めた作品が、人に響くと思うので、「売れよう」とか「はやっている絵を描く」とか、「上手い人の絵に寄せていく」などと一切考えずに、自分の意図そのままに描きたい絵画をピュアに描いていってもらいたいと思います。あとはどんどん作品を発表して、いい意味でも悪い意味でも評価されていくのが、マーケットサイドを含め、社会と接点を持つことに繋がると思うので、とにかく発表し続けてもらいたいですね。
【総評】
今の審査員の中では、一番長く学展を見ているのですが、時代に合わせてか、アニメっぽい絵が増えてきたと思います。高校生ぐらいからその印象が強いですね。全体的には今年は意外と良かった気がします。毎年思うことなんですが、幼稚園〜中学生ぐらいまでは感性が豊かで、視点が面白い。大人はちょっと気付けない所に目がいっているんですよね。絵の上手い下手より、視点の面白さみたいな部分が中学生ぐらいまではあるんです。中学校高学年から高校生、大学生になると、絵の上手さとか、奇をてらったものとか、考えられた作品になりますね。学展の良さは、幼稚園生から一般や大学生までの作品を一気に見られるところで、毎年同じことを言っているんですけれど、(年齢が上がるにつれ)感性はだんだん下がっていき、上手さはどんどん上がっていく。そういう風に感じています。
【指導者の方へのメッセージ】
子供たちに「何のために描いているか」という目的だけは、しっかり持たせてあげた方がいいのではないかと思います。画塾の先生が言うからとか、展示のための評価を意識して描くのではなくて、自分の感性や未来をキャンバスにぶつける。その意識を持たないと絵もそこまでになってしまう。年齢が上になってくると、作品に欲が見える。「良い絵と言ってもらいたい」とか「変わっていると見てほしい」とか、「どういう人間なんだろうと思ってほしい」とか。そこが見えると、何かうまくいっていない感じがします。自分の感性をぶつける作品であってほしいですね。
【総評】
今年で審査に参加して6年目でしたが、ここ数年に比べると、全体を通して少し元気がなかった感じがしました。コロナのせいもあるのかもしれませんが、特に中学生、高校生部門は例年に比べて元気がないと強く感じました。小学生の作品は相変わらず元気で、あまり難しいことを考えずにやっている感じが出ていました。審査中は、直感的に良いか悪いかを1、2秒で判断するんですが、ぱっと見たときに入ってくるエネルギーは小学生の作品の方が強かったですね。小さい頃は人目を気にせず描いているので大体そうなんですが、中学生ぐらいになると、人の目を意識して描く部分が出てくると思うので、それは仕方がないのかな。
【指導者の方へのメッセージ】
小さい頃から絵を習っている子供たちに対して、教える側が押しつけるのではなく、後押しをしてあげる教育ができるといいと思っています。海外の美術館に行くと、小学校低学年の子供たちが印象派や抽象絵画の前に座って、先生たちが「この絵は何に見える?」と問いかけている場面をよく目にします。小さい頃から作品に触れ、絵に何を感じるか、どう見えるかと問うこともどんどんやっていくといいように感じます。子供時代は様々なものを吸収する感性が鋭いときなので、そうした経験は、後にアートの道に進むなら非常に影響が大きいと思います。
子供たちが小さい頃は、教えるより、描く場を与えるだけでいいのではないかと僕は思っています。画塾は、絵の具や紙を用意し、汚しても大丈夫な環境を作ってあげる。先生は子供たちの感性を後押ししてあげるだけでいいと思うんですよ。子どもが100人いたら100の感性があるのに、それを一つにまとめようとする教え方にはすごく疑問を感じます。
【総評】
普段世界中のマーケットに出ているプロのアーティストの作品ばかり見ているので、学生や子供の絵を見る機会はあまりないんですが、フレッシュで「絵画の原点」を見た感じがありました。それぞれの個性が小さい子であればあるほど出てくることに、気づかされたというか。小学生ぐらいまでが、自由奔放で面白い絵が多かったと思います。描きたい純粋な本能が勝っていたりするので、特に小さい子の作品が一番魅力的でしたね。
大人になるにつれ、ソーシャルメディアなどから様々な情報が入ってくるので、それを反映したような作品もありました。いまコロナ禍や戦争など様々な事件があり、その情報が入ってきたり、自ら取りに行くこともできるので、社会性を帯びた作品もありましたが、画面ではちょっとうまくいっていない。中途半端に揺れ動く姿が垣間見えるというか、そういう印象が強かったですね。
「第72回学展 アート&デザインアワード」「UNKNOWN VISITORS」
会期:2022年8月11日〜8月21日
会場:国立新美術館
開場時間:10:00〜18:00
休館日:火
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