若手作家の登竜門「第74回学展」の受賞作品が決定。8月に国立新美術館で展示

第74回学展アート&デザインアワードの審査会が開催

審査会に並ぶ作品

第74回学展アート&デザインアワード(学展)は、7月18日に審査会を開催。各5部門(幼少/小学/中学/高校/大学・一般)で、入選、賞候補入選、入賞、優秀賞、最優秀部門賞、審査員特別賞などの作品が選出された。受賞作品は、8月8日〜8月18日まで、六本木・国立新美術館で展示される。

幼少部芸術最優秀部門賞 吉川幸宏 ぼくのいろ
小学部芸術最優秀部門賞 野村謙斗 地獄のピエロロボット

学展は学生による油絵の振興などを目的に日本学生油絵会が主催し、70年以上の歴史を持つ公募展。幼児

から美大生、大人まで幅広い年齢層に作品発表の場を提供し、若手の登竜門にもなってきた。募集作品は、油絵、彫刻、工芸、版画、デザイン、イラスト、デジタル、写真など幅広いジャンルにわたる。

中学部芸術最優秀部門賞 山本佑宇 宇宙

中学部優秀賞 林千佳 言の音

今年の審査は、青木昭夫(DESIGNART代表)、ヒロ杉山(アーティスト)、牧正大(MAKI Gallery)、野路千晶(Tokyo Art Beat エグゼクティブ・エディター)の4名が参加。各審査員からは、下記の総評とメッセージが届いている。

審査の様子

総評

青木昭夫(DESIGNART代表)
・総評
審査員をした過去3年を振り返ると、コロナの時期だとちょっと暗いムードな作品も多かったりしたのですが、今年は明るかったり、日常のものに目を向ける人が増えたんじゃないかな、ということを感じました。いわゆる美しいものとか、素晴らしい夢のようなものも、もちろんいいんですけど、身近なところに実は喜びがあったみたいなのって、ふと余裕があったりすると気がつくもんだと思うんですね。だから、周りに流されて、誰かがいいって言ったものを自分でもいいなって思うんじゃなくて、自分の身近にあったものでも、自分の内からこう外に出るような、そういう気づいたところをうまくピックアップして、絵画に落とし込まれてるなっていう作品は、印象深かったかなと思います。

青木昭夫審査員賞 津田瑠泉 私の手と、水の色

・指導者の方へのメッセージ
絵画を描いて(公募展などに)応募するという行為は、人生のなかでもひとつのチャレンジだと思うんですね。やっぱり描き上げるのに何時間もかけたりとか、結構大きな作品ってなると、家の中でもうどえらいことになってたりとか多分すると思うんですけど。みんなそれを乗り越えてきていると思うと、本当に素晴らしいなと思うんですよね。いまってどうしてもガジェットで映像を見たりとか、気づくとずっとそういうことばかりで。ゲームをする子供たちも多いじゃないですか。だから逆に絵画に向き合える子っていうのは、本当に貴重な存在だと思うんですよね。『自分磨き』っていうことが、よりしやすいと思うんです。別にゲームや映像を否定してるわけではないですが、なんでもそうですけど、やっぱり自分のアクションと一緒に思考を巡らせていくことで、より頭のなかに深く刻まれやすくなるんですよね。そういう研究結果も出ていたと思います。だから、何かに流されていくものではなくて、自分が主体的に動くこと。直感的なひらめきや行動力は、世の中に出てもすごく重要なことだと思うので、絵画を描いたり、こうやって学展に応募するということは、素晴らしい行動力だと思います。

ヒロ杉山(アーティスト)
・総評
今年でもう審査員8年目なんですけども、ここ数年ではいちばん明るい印象を感じました。とくに年少から小学校の子たちの作品は、すごく元気な感じがしたのがとても印象的でした。公募展に出すってことは、絵を描くっていうことなんですけども、なんかやっぱりもっともっとこう子供の頃から絵に親しんで、こう絵を描く機会というか、そういうチャンスを、もっともっと親御さんが子供にそういう時間を作ってあげるといいんじゃないかなと思います。そういうことによって、何か公募展に出してみようとか、ひとつの目標になったりもするので。公募展に出してくれる人数も増えて、公募展自体が盛り上がってきますし。最近僕は、子供たちの想像力が少し弱まってきてるんじゃないかなっていうことを感じています。それはやっぱりいろんなものをこうiPadで見たりとか、自分でイメージをする前に、こう外部からいろんな刺激が入ってくるので、なかなか自分でイメージする力が弱まってるような気がしていて。やっぱりイメージをする力というのは、絵を描く時にすごく大切なことなんですね。頭の中でイメージしたものを絵に描くっていう。そういう意味でも、絵を描くってことが凄くイメージの力を強くすることに繋がると思うので、やっぱりたくさんの人たちに絵を描いてもらいたいなと思ってます。

ヒロ杉山審査員賞 清水杏夏 背黒ジャッカル

・出展者へのメッセージ
面白い作品がたくさんあったので、審査をしていてもたくさん迷ってしまいました。やっぱり絵は、たくさん描くっていうことがいちばん上手くなる良い方法だと思うんで、1枚でも多く、たくさんの絵を描いていってもらいたいなと思っています。

野路千晶(Tokyo Art Beat エグゼクティブ・エディター)
・総評
これほど年齢層の幅広い公募展の審査をするのは、今回の学展が初めての経験でした。とくに幼稚園、小学校など若い世代を中心とした作品をたくさん見ることできたことは、すごく面白かったです。皆さんのアプローチ方法が様々で、自分自身を投影していたり、自然や身近な動物など本当に好きなものを描いていたり、年齢が上がるにつれて抱えている悩みが垣間見えたり。あとは、描くこと自体が楽しいから描いているというのもすごく伝わってきて、見る側としても初心に帰り、励まされ、背筋が伸びる思いがしました。

野路千晶審査員賞 平田友美 一匹狼

・出展者へのメッセージ
私は職業柄、アーティストの方々にインタビューすることが多いのですが、多くの方が「続けることが大事」とおっしゃるんですね。最近インタビューさせていただいた方で、一時期すごく活躍なさってたんですけど、18年間空白の期間を経て久々に展示をされた方がいて。18年間何をしてたかというと、それまでの作風とは違ったかたちでコツコツこう自分で本当にライフワークのように自分がするべきことなんだろうと考えながら制作を続けていたそうです。私はアーティストの皆さんの尊敬するところは、誰かにリクエストされたり、求められなくても作る力にあります。あまり無責任なことは言えないんですけど、アーティストの皆さんの作りたいという気持ちを大切に継続してほしいです。

牧正大(MAKI Gallery)
・総評
今回で学展の審査員は3年目なのですが、幼少から小学部、中学部、高校、 大学、一般っていう形で、毎年その幅広い年代の作品を、年代のステージごとに見ることを通して、その時々の成長を顕著に味わえるなっていう感じがしていて、今年も楽しく審査させていただきました。

小学部の作品はやっぱり勢いがあると言うか力強い。素直にその色とか構図とか、何かを伝えたいというメッセージがダイレクトに出ているので、やっぱり、毎年そうなんですけれども、すごいパワーを感じます。

小学部から中学部に変わると、先生の指導とはちょっと違う、自分自身のこう感情と言うか 概念が入ってくるというか。中学部の作品って毎年、結構迷いが入ったり、何かにチャレンジしようとしたりということを感じます。作品としては、なかなかまとまらないけれども、ちょっと面白い。哲学的なことがちょっと入ったり、ポーズとかもこういう風にチャレンジしてみたりって、「自分なり」ということが、少し出てくる。

高校の部に入ると、まず心のメンタル的な部分がしっかりしてくる。とても多感な時期だと思うので、人によっても色々な作風が見られて、個性が凄い出てくる時期だなとうことを、やっぱり凄く感じますね。

大学一般になるにつれて、それらが固まってきて、一人ひとりが自分が発信したいメッセージが出てくる年代な気がします。表現の仕方、それは全体的に総合的に見てですけれども、そういうことを毎年感じています。

今年も、全体を通してそのような印象を強く受けたことと、昨年はコロナが一段落して、結構明るい色が多かったり、外の風景とかが凄い多かったりしたんですけれども、今年はもうコロナから少し頭が薄れて、なんか色々、海外に行ったり、色んな世界をこう見てきた中で、逆に明るいだけじゃなくて、そのまた人間関係がこうきちんとこう営まれるというか。毎日登校したり、社会に出たらそのなかで、そういう人間関係がより密になってきたっていうこともあって、そういう人間関係の逆に悩みじゃないですけど、悩みとか楽しみとか、そういう心理的な人とのかかわり合い方に関しての感情といいますか。そういうことが絵に現れてきたりしていたように思います。もちろん暗い絵もあったり、ちょっと悩んでそうな絵もあったり、逆に人と触れ合うことで楽しいっていうような絵もあったり。比較的毎年、幼少〜小学部にかけて、動物の絵のパーセンテージが多くて、だんだん高校、大学、一般の方に向かうにつれて、人間やそれらの風景であったり、ということを主題としてとらえる方がが多いんですけれども、審査するなかで計算していたのですが、動物の主題がちょっと減ったかなっていう感じがいありましたね。コロナ禍はやっぱり本当に家族とか動物、ペットとかそういう形が多かったのですが、またちょっと抽象的なものが増えたり、動物から離れて、そういういろんな要素を足したような主題というか、風景なのか生物なのか人なのか。そういうところがこう現れているのは、面白かったなと思います。

牧正大審査員賞 野島彩加 斜陽の案内係

・出展者へのメッセージ
幼少部、小学部の方は、教えてる画塾の先生であったり学校の先生であったりの教えとか影響がやっぱり多いと思うんですけれども。先生から教わることっていうのは大事ですが、やっぱり何か自分が描きたいもの、もう無邪気に描きたいもの、使いたい色、使いたい題材、そういうものをこう自分なりの方法で表現する。やっぱりアートって1点1点全然違いますし、何が正解で何が不正解っていうのはないので、本当に描きたいように、描きたいものを思い切り描いてもらいたいなっていうのは感じています。幼少小学部の先生達に対して伝えたいことでもあるんですけれども、やっぱりその子の個性を生かしながらアドバイスをするということをすると、もう少しバラエティに富んだというか、才能を伸ばすような教え方というかができるとよいのかなと思います。そうすることで、よりそれぞれの個性がきちんと現れた作品群になっていくんじゃないかなっていう気がするので、思いっきり自分の個性を先生と相談しながら出していただければなと思いますね。 中学、高校生の部になるにつれて、もちろん自分なりの考えがしっかりしてくると思うので、それは逆にまた教えてくださる先生とか友達とか、そういう アドバイスをたくさんの方から聞くこと。で、自分の描きたいものやコンセプトを表現するために、自分なりのオリジナリティーを助けてくれるような技術(表現の仕方、構図など)を逆に他から吸収すると言うか。そういう努力をしながらひとつの作品に対して向き合うと面白いものが生まれるんじゃないかなっていう気がします。

小学部入賞 本間日乃香 野毛山動物園の主
高校部入賞 伊東凜 無関心

大学・専門部入賞 後藤夏希 N.

審査会の様子

審査会の様子
審査の様子

受賞作品

幼少部芸術最優秀部門賞:吉川幸宏 4歳 ぼくのいろ
小学部入賞:本間日乃香 8歳 野毛山動物園の主
小学部芸術最優秀部門賞:野村謙斗 10歳 地獄のピエロロボット
中学部芸術最優秀部門賞:山本佑宇 13歳 宇宙
中学部優秀:林千佳 13歳 言の音
高校部入賞:伊東凜 17歳 無関心
大学・専門部入賞:後藤夏希 23歳 N.
青木昭夫審査員賞:津田瑠泉 16歳 私の手と、水の色
ヒロ杉山審査員賞:清水杏夏 10歳 背黒ジャッカル
野路千晶審査員賞:平田友美 13歳 一匹狼
牧正大審査員賞:野島彩加 15歳 斜陽の案内係

「第74回学展 アート&デザインアワード」
会期:2024年8月8日〜18日
会場:国立新美術館
開場時間:10:00〜18:00
休館日:火
https://gakutenjapan.com/

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