若手作家の登竜門「第73回学展」の受賞作品が決定。8月に国立新美術館で展示

第73回学展アート&デザインアワードの審査会が開催

審査員。左から、牧正大(MAKI Gallery)、青木昭夫(DESIGNART代表)、福島夏子(Tokyo Art Beat)、佐々木香菜子(アーティスト)、ヒロ杉山(アーティスト)、西田剛(学展代表)

第73回学展アート&デザインアワード(学展)は、7月19日に審査会を開催。各5部門(幼少/小学/中学/高校/大学・一般)で、入選、賞候補入選、入賞、優秀賞、最優秀部門賞、審査員特別賞などの作品が選出された。受賞作品は、8月10日〜8月20日まで、六本木・国立新美術館で展示される。

学展は学生による油絵の振興などを目的に日本学生油絵会が主催し、70年以上の歴史を持つ公募展。幼児から美大生、大人まで幅広い年齢層に作品発表の場を提供し、若手の登竜門にもなってきた。募集作品は、油絵、彫刻、工芸、版画、デザイン、イラスト、デジタル、写真など幅広いジャンルにわたる。

高校部最優秀部門賞 山下乃野葉 わらべ立木
大学・専門部優秀賞 野田紘 Shape of beginning

今年の審査は、青木昭夫(DESIGNART代表)、佐々木香菜子(アーティスト)、ヒロ杉山(アーティスト)、福島夏子(Tokyo Art Beat 編集者)、牧正大(MAKI Gallery)の5名が参加。各審査員からは、下記の総評とメッセージが届いている。

審査の様子

総評

青木昭夫(DESIGNART代表)
・総評
去年に比べると、やっぱりコロナが明けた感じがして、皆さんの気持ちにちょっとゆとりが出た感じが見受けられたなと思います。去年はもうちょっとダークというか、悩まれている感じが表面化したようなアートもありました。今年はもうちょっと開放的になって、素直に好きなものを描いているなという印象が凄くありましたね。
あとは、全体的に具象の作品が多いので、個人的にはもっと抽象画とかも見てみたいですね。具象のよさももちろんありますが、そういった人がやっていないチャレンジをもっと見てみたいなという感じがします。

青木昭夫審査員賞 杉野碧澄 犬

・指導者の方へのメッセージ
スクールで学んだり、練習をしたりすることによって、描きたい絵が思い通りに描けるという意味では、基礎的なテクニックは必要だと思います。ただ、非常に当たり前の話ではありますが、アート教育やアートの視点は、いかに自分のアイデンティティーを探せるかというところに尽きていくのだと思います。
アート志向は、ビジネスの業界や起業家たちでも、非常に着目される観点ではありますが、型にはまり過ぎちゃいけないと思うんですね。何か基礎的ないろはを覚えるというのは、凄く重要ですけども、どんどん応用していこうとした時に、一度自分が思い描いていた固定概念を崩してみたりとか、違う方向性から攻めてみたりとか。とにかく、多方向と多視点から物事を考え直す、とらえ直すみたいな視点が非常に重要かなと思っています。
アートだけの話ではなく、ビジネスをしていく上でも、オリジナリティーは各所で求められたりしますが、その時に、いかに王道パターンだけではなくて、自分ならではのアイデアで、どう勝負できるかというところは、どんなシーンでも結構必要になってきます。
アートを通じて、日々自分の固定概念を崩して、自分ならではって何だろうとか、角度を変えて考えてみたらこうできるんじゃないかっていう、”思考のリセット”をする練習ができると、生きていく上でも非常に強さが出る。それはアート教育だからこそできること、でもあるのではないかと思います。

佐々木香菜子(アーティスト)
・総評
いろんな個性やタッチ、モチーフの作品がありましたが、パワーを感じる作品というのは、どの審査員も同じように感じているのだなと思いました。絵の中にストーリーがあって、没頭できて、香りや音楽すら感じて。「この月明りって何時ぐらいだろう、どういう人と一緒にいるのかな」とか。そういうものを想像できて、感情が揺れ動く作品がやっぱり強く印象に残りましたね。
また、幼少部から一般部までの作品を一度に見る経験は、人間の成長みたいなものを強く感じることができて、「生きている作品が見れたな」と思いました。

佐々木香菜子審査員賞 丹羽里咲 ライト

・出展者へのメッセージ
とにかく色んな経験をしてほしいです。絵を描くからといって、絵を描くことばかりをするのではなくて、やっぱり妄想力を育てるには、色んな人と関わって、色んなことをお勉強して、色んなことを知ってほしいです。そういうことで、描くものの背景の深さが、違ってくると思います。たくさんの経験や人との関わりを大事にして、とにかく作品を作り続けるということ。そのことを大事にして、お互い頑張っていけたらいいなと思っています。

小学部最優秀部門賞 金谷寛司 ねむいにゃー

ヒロ杉山(アーティスト)
・総評
去年に比べると、ちょっと全体的に明るくなったのかなっていう感じはしましたね。しばらくみんながくすぶっていたところで、急に世の中が開放的になってきたというのが、作品に表れているのかもしれないし、小学生は特にマスクをしていること自体がもうすごくストレスだと思うし、それがやっとこう外せるようになって、友達の顔が見えて、絵を描く時もそれこそマスク外してお教室で描けるのかもしれないし、そういうのが大きいのかなって気はしましたね。
大学生部門が例年はちょっと元気がないんですけど、今年は結構良かったかなと思っています。学展の審査員を7年やらせていただいているますが、だいぶ傾向が変わってきたなと感じています。最初の頃は、コンサバな感じの絵が多かったのが、アイデアに富んだ、何かこう面白い作品が増えてきたんじゃないかなと感じています。

ヒロ杉山審査員賞 小野田侑真 サイン

・出展者へのメッセージ
公募展というのは、1点、多くても2,3点の作品で自分を表現しなきゃいけなかったりするので、なかなか難しいですね。審査をする側としては、本当はもう10点、20点、その作家の作品を見て、その作家が何をやりたいかっていうのを知りたいところなのですが。でも審査をするとき、やっぱりいちばんはオリジナリティを見るので、人と似たような絵を描いていては駄目だし、審査員の私たちが見たいのは、見たことなかったような作品。常にそういう風に、世の中にない新しい作品を創り出すということを、志してほしいなと思います。

福島夏子(Tokyo Art Beat 編集者)
・総評
まず学展が、この時代に生きて何か表現をしたいと思っている人を世代を問わず対象にしていて、普段はまったく異なる場にいる人たちの作品が一堂に会しているのが、凄く面白いなと思いました。描く・作るという技術を獲得しながら、それを自分の表現したいことにうまく活かしていると感じる作品たちを、とくに面白く拝見しました。
また今回、最優秀賞や優秀賞に選ばれた作品は、どれも思い切りがいい作品だったなというふうに思います。対象の何を描くかということがかなり明確で、それを気持ち良く描いているような作品が結果的に票を集めたと感じています。
私が審査員賞に選んだ作品は、まだ小さいお子さんの作品ですが、色のバランスと画面の構成がユニークで面白く、このような魅力のある作品を描けるのは素晴らしいなと思いましたし、具体的な動物などを描くお子さんが多いなかで、抽象的な画面は個性があり目立つと感じました。

福島夏子審査員賞 野村謙斗 かくした地下室

・出展者へのメッセージ
自分は何が好きなのか、自分は何をしたいのか。やっぱりまずはそこを大事にしてほしいと思います。大人は良かれと思って、いろんなアドバイスをしたり口や手を出してきます。それが助けや力になることもあるので、それを聞きたいなと思ったら聞いてみてほしい。でも周りの人がどう思うかとか、大人がこうやったら喜ぶなとか、そういった他人の考えに左右されてしまうのではなくて、やっぱりあくまでも自分が何をしたいのか、何を大事だと思うのか。そうした価値基準は、やはりいちばんの大事な核として自分のなかにずっと持ち続けながら、何かを描いたり、作ったりするっていうことに、根気強く取り組んでほしいなと思います。頑張って、楽しんでください。

中学部最優秀部門賞 椎名康介 ぼくとカラス

牧正大(MAKI Gallery)
・総評
全体としては、去年よりも色使いなどが明るくなった印象が強いです。コロナが明け始めた影響もあったのか、外出も皆さん増えていることと思いますし、外の空の色とか、山の色とか車の絵とか、ドライブの風景とか。そういう自然の色というか、カラフルな色が全体として多かったかなという気がします。
また毎回そうですが、やっぱり小学生の絵は、形が見え始めて、それを形作ろうとする初めの段階の年頃だと思うので、どこかこう構図がおかしかったりするのですが、それがまたその絵画としてのバランスとか色使いとかが絶妙に新鮮に見えるというか。長年ギャラリーの仕事をしているので、色んな歴史的な絵画や、様々な年代のアーティストの作品を見ているなかで、幼少、小学生になりたてくらいの学生さんの絵というのは、すごく新鮮な感じがして面白いです。
中学生・高校生になる時に、ちょうどそのいい配置のバランスとか、そういう頭で考えることが加わってきて、だんだんと絵画としてのバランスが形成されて。大学生・一般になると、それぞれの考え方とか、今自分の哲学や表現したいもの、思想とかが入ってきたりして、それがやっぱり作品表れている。その一連の小さなお子さんから一般までの表現が形成されていく姿を見ると、自分自身も勉強になりますし、それを体感できるというのは、学展の魅力じゃないかなと思います。

牧 正大審査員賞 小池新花 似てる家族

・指導者の方へのメッセージ
世の中には、はじめ評価されてなくても100年後評価されるアーティストもいますし、何が正しくて、何が間違っているっていうことがないので、ベース技術以外のところで、感性とか表現力とか発想とか、そういうところが伸びる環境や、ヒントを先生方には与えてもらいたいです。このコロナ明けで様々なインプットをしやすい環境になってきたので、色んなところに出て吸収したり、自分の周りだけじゃなくて、例えば他の画塾の生徒さんの作品を見たり、例えば一般のアーティストの作品を見たり、ギャラリーで見たり、美術館で見たり。またそれは日本だけじゃなくて世界で見たりして、ときに子供達には早い段階から本当に優れた良いものを自分の目で見せて、自分で表現する力を画塾の先生方とプラスアルファで育てていく環境ができていたらいいなと思っています。

審査の様子

審査の様子
審査の様子

受賞作品

高校部最優秀部門賞 山下乃野葉 18歳 わらべ立木
大学・専門部優秀賞 野田紘 24歳 Shape of beginning
中学部最優秀部門賞 椎名康介 15歳 ぼくとカラス
小学部最優秀部門賞 金谷寛司 6歳 ねむいにゃー
青木昭夫審査員賞 杉野碧澄 17歳 犬
佐々木香菜子審査員賞 丹羽里咲 11歳 ライト
ヒロ杉山審査員賞 小野田侑真 13歳 サイン
福島夏子審査員賞 野村謙斗 9歳 かくした地下室
牧正大審査員賞 小池新花 13歳 似てる家族

「第73回学展 アート&デザインアワード」
会期:2023年8月10日〜8月20日
会場:国立新美術館
開場時間:10:00〜18:00
休館日:火
https://gakutenjapan.com/

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