いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は9月11〜24日に世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「NYのアーモリー・ショー」「スイスのアート・バーゼル」「できごと」「NFT関連ニュース」「おすすめの読み物」の5項目で紹介する。
◎アーモリー・ショーのトップ10ブース
アーモリー・ショーはこれまで毎年3月にハドソン川沿いの埠頭上の2棟のイベント会場で開催されてきたが、今年から開催時期は9月に、会場は交通の便がいいジャビッツ・センターに変更。NYでは久々に対面で行われた大型フェアだが、未だコロナの影響は強く、ヨーロッパやアジアのギャラリーがほとんど参加しておらず、少し寂しい印象のラインナップ。そのなかからartnewsによるトップ10ブースの紹介。
https://www.artnews.com/list/art-news/artists/armory-show-2021-best-booths-1234603581/tunga-and-jaider-esbell-at-galeria-millan/
◎Independentのベスト6ブース
アーモリー・ショーのサテライトフェアであるIndependentは、今年からウォールストリート近くのクラシカルなフェリー乗り場をリノベーションした高級レストランのチップリアーニが会場。また、通常はオープニングを1日遅らせていたが、今年はアーモリーと同日にオープニングを開催。小規模ながら、アーモリーよりも「ヒップ」な画廊の顔ぶれ。そのなかから同サイトによるベスト6ブースの紹介。
https://www.artnews.com/list/art-news/artists/independent-art-fair-best-booths-1234603535/ken-nevadomi-at-new-canons/
◎9月に移ったアーモリー・ウィークの雰囲気
そもそも数多くのアートフェアが開催されている近年、これほど多数のアートフェアが必要なのか多くのアート業界者が疑問に感じている状況に加え、競争相手がいない3月から、新学期で忙しく、ファッション・ウィークと同じ9月に移ったアーモリー・ショーは、完全に埋もれてしまった印象。そういうNYのアートシーンの動き、雰囲気をうまくまとめた記事。
https://www.vanityfair.com/style/2021/09/search-for-a-center-of-gravity-at-an-ever-expanding-armory-week
◎アート・バーゼル注目のブース
1年数ヶ月ぶりとなる対面でのアート・バーゼル開催に向けて、「お手軽な」絵画人気がより高まっている昨今に、あえてチャレンジングなウルス・フィッシャーによるパンの家のインスタレーション(約3億円)を持ってくるダイチ・プロジェクトと、こういう時だからこそヨーロッパであまり見せていない若手作家の絵画を持ってくるジェームス・コーハンを対比して紹介する記事。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-09-16/art-basel-preview-giant-house-of-bread-faces-battle-vs-paintings
◎アート・バーゼル、売上は上々
VIPプレビューも含めるとほぼ1週間にわたって開催されたアート・バーゼル。去年のキャンセルを経て、今年は通常の6月から9月に後ろ倒しての開催。フライトのキャンセルなども相次ぐなか、やはりアメリカからのコレクターはほとんど来てないようだが、現場でのヨーロッパ人コレクターによる購入と、オンライン経由とでフェアの売上は悪くない模様。
https://news.artnet.com/market/art-basel-sales-report-2021-2011301
◎フィリップ・ガストンら、アート・バーゼルのハイライト
アート・バーゼルで大手9ギャラリーが売った作品のハイライト。大回顧展が延期になり大きな議論を巻き起こしたフィリップ・ガストン(約7億円)、ケリー・ジェームス・マーシャル(約3億円)、マーク・ブラッドフォード(約5億円)など。今年らしい顔ぶれ。
https://www.artnews.com/gallery/art-news/photos/art-basel-switzerland-2021-sales-highlights-1234604618/
◎若手ギャラリーのフェアListe、注目の4画廊
アート・バーゼルのサテライトフェアで若手ギャラリー向けのListeはこれまで24年間、元ビール工場の建物でフェアを開催してきたが、今年は例外的にアート・バーゼル会場と同じ展示場の一部で開催。そのなかから出色のウィーン、ワルシャワ、テヘラン、リスボンの4画廊を紹介する記事。
https://news.artnet.com/market/long-running-liste-fairs-move-from-former-brewery-to-basel-halls-proves-a-savvy-one-2012276
◎ベーコンの贋作500点
イタリアで、なんと500点ものフランシス・ベーコンの贋作が警察に押収された。警察によると、このような贋作を国際展などに貸し出し、カタログなどに載せることで「真作である」証明をしようとする巧妙な手口があるという。
https://www.artnews.com/art-news/news/francis-bacon-counterfeits-confiscated-italy-1234603693/
◎ドナルド・ジャッド財団、パートナー画廊を変更
ドナルド・ジャッド財団は10年以上パートナーだったメガギャラリーのデイヴィッド・ツヴィルナーからガゴシアンに移籍することに。去年MoMAで大回顧展があり、同時に両画廊で個展が開催されていた。ツヴィルナーはこの10年の経験を活かして今後はセカンダリーで頑張るとコメント。
https://news.artnet.com/market/gagosian-is-now-representing-the-donald-judd-foundation-2009829
◎若手ギャラリーフェア、注目の取り組み
若手ギャラリーのフェアNADAは2018年にメインのNYフェアを取りやめ、別の様々な活動をしてきた。今回、チャイナタウンのモール内に3メートル四方のブースサイズのパーマネントなギャラリーをオープン。NY外のメンバー画廊の作家を紹介していく。ただ、このチャイナタウンのモールにある別の画廊でドイツ人作家がアジア文化をネタにした展覧会に大きな批判が集まるなど、地域コミュニティとアート業界の摩擦も起こっており、ギャラリーがチャイナタウンのジェントリフィケーションの最前線だという批判は強い。今回NADAは商業ビルの家賃安定化法案をほかの小売店とともに勝ち取るとして連帯を模索している。
https://hyperallergic.com/677594/nada-is-opening-a-fair-booth-sized-project-space-in-manhattans-chinatown/
◎グッゲンハイム美術館アブダビ分館、開館予定が2026年に延期
もとは2012年に開館予定として2006年に計画が発表されていたグッゲンハイム美術館のアブダビ分館が、今回3度目となる計画後ろ倒しで2026年の開館予定と発表。なんと計画発表から20年後と難航している。フランク・ゲーリーの建築で、完成すれば最大のグッゲンハイム美術館になるという。まだまだすんなりとはいかず、最近は建設現場の外国人労働環境問題にも注目が集まっている。
https://news.artnet.com/art-world/guggenheim-abu-dhabi-2011351
◎大物作家の豪邸が28億円で売り出しへ
アニッシュ・カプーアが、「セントラルロンドン最大級」の5階建ての住居をなんと28億円以上で売りに出している。2009年に5.5億円で購入しチッパーフィールドが大改装したもの。1300平米で6ベッドルーム。日本式の木製のお風呂も。写真豊富な記事でご覧ください。
https://www.dirt.com/gallery/more-dirt/artists/anish-kapoor-house-london-1203425994/
◎ピカソの作品、新たに国家コレクションに
パブロ・ピカソの娘が、自身が子供のころモデルになっている絵画作品を含む計9点を、国のコレクションとしてパリのピカソ美術館に寄贈。税金対策とのこと。
https://news.artnet.com/art-world/picasso-donates-artwork-to-settle-tax-bill-2012002
◎NFT作品がパーティーで公開
70億円以上で落札されニュースになったBeepleのNFT作品が、11月にNYで開催されるDreamverseというパーティーにて巨大なスクリーンでお目見えする。入場チケットだけなら$150。チケットにAlotta Moneyという作家のNFTが付くものは$475から。NFT作品をパーティーで見せるというのは面白い試み。
https://news.artnet.com/art-world/beeples-69-million-nft-gets-immersive-experience-fall-2008566
◎フランチェスコ・クレメンテのNFT
アート・ディーラーのヴィト・シュナーベルも自身の画廊に所属する作家のNFTを売り買いするプラットフォームを発表。第1弾はフランチェスコ・クレメンテと意外なセレクションだが、NFT購入者のポートレイトを1年以内に描いてくれる権利付き。ペース・ギャラリーやオークションハウスのクリスティーズも参入しており競争が激しい業界に。
https://www.artnews.com/art-news/news/vito-schanbel-gary-vaynerchuk-nft-platform-artofficial-1234604794/
◎再評価が高まるアリス・ニールの生涯
メトロポリタン美術館で回顧展が開催され、近年ますます評価が高まるアリス・ニール。生前は抽象表現主義まっさかりで、まったく評価されず、生活保護で生計をたてながら子育てをしたという。1984年に亡くなったが、最後に住んでいたアパートが当時のまま残されており、その写真とともに、彼女のキャリアを振り返る記事。
https://www.nytimes.com/2021/09/10/t-magazine/alice-neel-apartment.html
◎作品の共同購入はコレクションの可能性を切り開くか
サム・ギリアムの吊り絵画をディア・ビーコンとヒューストン美術館が共同購入。作品は5年ごとに両美術館を移動。資金だけでなく、展示・収納場所に限りがある美術館にとって一石二鳥。移動が増えることによる保険金の高騰、新所有形式への対応の事務的煩雑さなどがネックだが、大型作品などで事例が増えている。
https://www.artnews.com/art-news/news/art-museum-joint-acquisitions-collaborations-1234604356/
◎クリストのパリ凱旋門ラッピングは“ゴミ袋”?
クリストとジャンヌ=クロードによるパリ凱旋門ラッピング作品は大きな注目を集めているが(レポート記事)、フランスの極右政治家は「我々のもっとも栄光ある記念碑をごみ袋で包んでいる」と怒っているそう。そもそもナポレオンの侵略戦争の勝利を祝った凱旋門を包むアート作品ということについて、平易に解説してくれている記事。
https://www.washingtonpost.com/entertainment/museums/christo-jeanne-claude-paris-arc-wrap/2021/09/20/dc940068-1942-11ec-a99a-5fea2b2da34b_story.html