公開日:2024年7月10日

9月開幕「森の芸術祭 晴れの国・岡山」追加アーティストや詳細を発表。長谷川祐子、妹島和世が登壇したプレスカンファレンスをレポート

森山未來、川内倫子、坂本龍一+高谷史郎、レアンドロ・エルリッヒ、アンリ・サラ、キムスージャ、リクリット・ティラヴァニらが参加。岡山県北部を舞台に今年初開催。会期は2024年9月28日〜11月24日

プレスカンファレンスにて

岡山県北部で新しい芸術祭が9月に開幕

7月9日、「森の芸術祭 晴れの国・岡山」のプレスカンファレンスが都内で行われ、追加の参加アーティストや、会場組み合わせなどの最新情報が発表された。

今年初開催となる芸術祭「森の芸術祭 晴れの国・岡山」は、2024年9月28日〜11月24日に岡山県北部で開催される。

アートディレクターは長谷川祐子(キュレーター、美術評論家、金沢21世紀美術館館長)。

エリアは岡山県内の12市町村(津山市、高梁市、新見市、真庭市、美作市、新庄村、鏡野町、勝央町、奈義町、⻄粟倉村、久米南町、美咲町)で、アート作品が設置される市町村は津山市、新見市、真庭市、鏡野町、奈義町。

岡山の県南部は「瀬戸内国際芸術祭」「岡山芸術交流」などでアートファンにはお馴染みとなっているが、県北部がこうしたアートフェスティバルの舞台になるのは今回が初めて。舞台となるエリアは、山陽と山陰を分ける中国山地から吉備高原にかけて広がり、中国山地を水源とする三大河川の上流域。緑豊かで雄大な自然、旧街道沿いの宿場町や城下町、水運の拠点として栄えた歴史ある街並み、優れた泉質の温泉など、南部とは異なる風景や地域資源を数多く有している。

奥津渓

参加アーティストは13ヶ国39組40名。国外から18名、国内から22名(うち岡山の地元作家5名)で、「約半数が女性」(長谷川)となる。現在発表されているアーティストは以下の通り。

国外アーティスト:
レアンドロ・エルリッヒ、アンリ・サラ、キムスージャ、リクリット・ティラヴァニ、タレク・アトゥイ、ジェンチョン・リョウ、ビアンカ・ボンディ、スミッタ・G・S、オウティ・ピエスキ、アシム・ワキフ、ジャコモ・ザガネッリ、ウメッシュ・P・K、パオラ・ベザーナ、ムハンナド・ショノ、エルネスト・ネト、ルシーラ・グラディン、マイケル・リン、ほか

国内アーティスト:
坂本龍一+高谷史郎、森山未來、川内倫子、蜷川実花、妹島和世、立石従寛、片桐功敦、AKI INOMATA、上田義彦、磯崎新、東勝吉、東山詩織、川島秀明、森夕香、八木夕菜、染谷悠子

地元アーティスト:
太田三郎、杉浦慶侘、江見正暢、加藤萌、甲田千晴

フェスティバルの特徴

プレスカンファレンスではアートディレクターを務める長谷川から、3つのキーワードによるフェスティバルの特徴が紹介された。

森の誘惑
行ったことのない場所、思いかがけない場所でアートと出会う驚きと魔術にかかるときめき。 森林、洞窟、渓流と滝、温泉、高原、大正ロマン薫る洋館、人間と動物がともに展示される不思議な自然史博物館、アートと建築が大胆に合体した美術館、 江戸時代の日本庭園で供されるアーティスト作の驚きのランチ。

クリエイター、コラボレイター百花繚乱
ダンサー、シェフ、華道家、音楽家、建築家、デザイナー、染色家、工芸家、映像作家など、各国から集まったアーティストたち、そして沢山のコラボレーション。

森のエコロジーと新しい資本
エコロジカルマインド:ともにあるもの、co-beingとして森をとらえたさまざまなイメージ:絵画、写真、インスタレーション。文化資本としての場の記憶、自然環境資本としての森や洞窟、社会インフラとしての公共空間が「新しい資本」として生まれ変わる。
(プレスリリースより)

これまでアートに関するイベントがあまり開かれてこなかった、県外の多くの人にはよく知られていない地域だという前提で、狭義のアートに限らず食や建築、歴史、自然など様々な魅力をアピールし、人々をこの地域に呼び込む。「誘惑」という言葉にはこうした意味が含まれているようだ。

エコロジーをテーマに、様々な作家と世界各地で展覧会を企画してきた長谷川だが、本芸術祭はこの土地の自然と人間との関わりについて、多様なかたちでプレゼンテーションするものになりそうだ。「日本の国土の70%を占める森林を、どのように自然の資本や文化資本、産業資本として見出すことができるのかということもテーマ」であり、「森をテーマにした絵画や写真なども多く展示されますが、ただ森を被写体として扱うのではなく、“森とともにある”ということを大事にしている作家たちに参加していただきます」(長谷川)と説明した。

また、日本で初めて紹介される作家の展示も見どころのひとつ。たとえば織りの技術を探求した物故作家パオラ・ベザーナや、アルゼンチン出身のルシーラ・グラディン、サーミのアーティストであるオウティ・ピエスキらに注目したい。

レアンドロ・エルリッヒキムスージャ、リクリット・ティラヴァニ、エルネスト・ネトのような著名なアーティストも、岡山県北ならではの展示を見せてくれそうだ。たとえばこの地域には有名な鍾乳洞がいくつかあり、満奇洞(まきどう)では蜷川実花が、井倉洞(いくらどう)ではアンリ・サラが展示を行う。

満奇洞

また地元・岡山の知る人ぞ知る作家の参加も本展のポイント。写真館営業の傍ら、40年以上ステンドグラスやランプや万華鏡を制作する江見正暢など5名が参加する。

最先端を行く現代アーティストとともに、長谷川が「私のアイドル」だと語る東勝吉が名を連ねているのも面白い。東は木こりを引退した後、老人ホームで暮らしながら風景画の制作に没頭、83歳から99歳で亡くなるまで100点以上を描いたという異色の作家だ。

ほかに、坂本龍一+高谷史郎の初公開作品、奈義町現代美術館での磯崎新の展示なども見逃せない。オープニングイベントは森山未來のパフォーマンスが行われる。

奈義町現代美術館

プレスカンファレンスでは、登壇予定だったものの急遽欠席となった川内倫子が岡山で撮影した新作の紹介を挟み、長谷川と建築家・妹島和世のトークへ。

父の出身地で自身の本籍があることから岡山県真庭市の観光大使(真庭大使)を務めているという妹島。本芸術祭では家具を制作し、勝山町並み保存地区等に設置する。これまでも芸術祭等で家具を手がけてきた妹島は「家具を作ることで、そこにいらした方と一緒に空間を作ることができる。私にとっては建築と同じような気持ちで家具を制作してきた」と語る。

おそらく本芸術祭を機に、初めて岡山県北を訪れる人も多いだろう。「作品の展示が行われない7つの市町村でも、様々な魅力と出会っていただけることもポイント。ガイドブックを充実させていきたい。(お客さんが)好きに迷うという楽しみを発見し、”私の出会い”を自慢できるような旅になれば素敵だなと思います」と長谷川。アートをきっかけに未体験の自然環境や文化と出会うことができるであろう、「森の芸術祭 晴れの国・岡山」での旅に期待したい。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。