障がいのある人が制作した優れた作品を、現在活躍している美術作家の作品とともに、包括的に紹介する展覧会「Exploring II -日常に息づく芸術のかけら-」が、東京・青山のスパイラルガーデンにて開催される。会期は1月23日〜27日。
本展は、「アール・ブリュット」という言葉が日本で独自の浸透力を持ち、障がいのある人の作品が紹介される機会が増えたことで、障がいのある人に対する理解促進がなされるいっぽう、個々の作家や作品が美術批評の俎上に載らずにいる日本の現状や、障がいのある人の作品を主要美術館が収蔵する動きが進む世界の現代美術の潮流などを背景に企画された。日本において障がいのある人の作品を現代美術としてとらえ、評価や批評を促進することを試みる。
大阪府「2025 大阪・関西万博に向けた障害のあるアーティストによる現代アート発信事業」のプロジェクトとして、一般社団法人日本現代美術振興協会とオフィス・エヌが手がける「Art to Live プロジェクト」の一環で行われる。
会場では、14名の作家の作品を、「いとしきもの」「手わざ」「ルーティーン」「文字をこえて」という4つのキーワードを軸に並列に展示。芸術が持つ力の本質を問い、人の表現活動の根源を探求することを目指すという。
「いとしきもの」では、身近にある「いとしきもの」を愛でるように象ったり、繰り返し描いたりすることで制作された作品を展示。皿や積み木などをモチーフに独特の光と質感が漂う油絵を描く小林孝亘、昆虫と恐竜が合体した空想上の生き物を1枚の紙から生みだす曽祇一晃、暮らしのなかの静物をパステル画で描く舛次崇、幼少期から慣れ親しんだ本を用いて、時空を超えた言葉の交信を誘う福田尚代が紹介される。
紙や布、糸といった身近な素材を用いて手を動かすことで作られる作品にフォーカスする「手わざ」では、ジェンダーにまつわる問題などをテーマに切り紙の技法で制作する谷澤紗和子、ハサミを用いて紙の彫刻を作る藤岡祐機、糸を切り結ぶ行為の積み重ねによって愛らしい糸玉を生みだす似里力の作品が並ぶ。
驚くべき集中力で無限に繰り返される行為に迫る「ルーティーン」では、システマチックな手法でドットを置き続ける森本絵利、世界を「数字」によって把握し書き出す柴田龍平、釘を打つことで精神の安寧を求める平田安弘、何かを満たすかのようにカレンダーに文字を重ねる松本国三を紹介。
最後のキーワード「文字をこえて」では、文字の原理的特性を追求する立花文穂、文字を高い密度で重層化させながら世界を反映させる平野喜靖、一見美しいカリグラフィが錯覚を呼び起こす上土橋勇樹の作品が展示される。
舛次崇、松本国三はスイスのアール・ブリュット・コレクション、フランスのポンピドゥー・センター、藤岡祐機はアメリカン・フォーク・アート・ミュージアムに作品が収蔵されており、本展ではそのような海外の美術館に作品が収蔵されている作家の作品を鑑賞できるのも、見どころのひとつだ。
タイトル「Exploring(探究する)」には、現代美術の世界で障がいのある人の作品がどのように位置づけられるのかを探ること、そして、個々の作品を観客がじっくり見ることで、作品の意図や物語を自ら探して想像する探求をしてほしいという2つの意味が込められている。本展が掲げる「人の表現活動の根源」が展覧会を通じてどのように見えてくるのか、期待したい。