不思議な世界観。モノトーンの緻密な線描。そしてちょっぴり不気味な生き物や人間たち……。世界中に熱狂的なファンをもつ絵本作家エドワード・ゴーリーの展覧会「エドワード・ゴーリーを巡る旅」が渋谷区立松濤美術館で開催される。会期は4月8日から6月11日まで。
『うろんな客』『不幸な子供』で知られるゴーリーは、自身がテキストとイラストの両方を手がけた主著(Primary Books)以外にも、挿絵、舞台と衣装のデザイン、演劇やバレエのポスターなどに多彩な才能を発揮した。
今回の展覧会では、そんな作家の終の棲家に作られた記念館・ゴーリーハウスで開催されてきた数々の企画展から、「子供」「不思議な生き物」「舞台芸術」などをテーマの軸として、約250点の作品で再構成する。
『不幸な子供』をはじめ、ゴーリーは幼児や子どもが主人公となる作品をいくつも手がけた。一見すると悪い子には報いがあると説く教訓譚の型をなぞるようでありながら、ハッピーエンドや勧善懲悪でもないのがゴーリーの独特さ。良い子も悪い子も関係なく、あっけなく死んでしまったり不幸に終わる。そんな彼のクールな視点は多くのファンを魅了してきた。
ペンギンのような不思議な生き物が家に入り込んでくる『うろんな客』など、ゴーリーは不思議な生き物をたくさん描いている。黒い鳥に似たフィグバッシュ、スクランプ、ナイーラー、フーグリブーといった個性豊かなキャラクターは不気味だけれど、どことなく人間臭くて愛嬌に満ちている。ゴーリーが生み出した架空の生き物たちの姿をスケッチやドローイングで紹介する。
20代の終わりにニューヨークに移住したゴーリーはバレエの熱狂的なファンだった。ニューヨーク・シティバレエの公演に通い詰め、とくにジョージ・バランシンと彼の振り付けた作品を敬愛し、バレエを主題にした絵本も生み出している。トニー賞の衣装デザイン賞も受賞し、バランシン逝去後に移住したボストン近郊では地元の人形劇にも関わったゴーリーの知られざる仕事を紹介する。
これらのほかにも、複雑な仕掛けが凝らされた箱入り限定版に見られる本作りへのこだわり、晩年に手掛けられた象をテーマにした内面的な作品など、絵本にとどまらないゴーリーの歩みを見つめているのが今展の特徴。米国東海岸の半島にいまも残る古い邸宅へと旅するように、達観したクールな死生観を持つ謎めいた作品との邂逅を楽しみたい。