日本語ネイティブの4人に続いて、翻訳家を務めるテリーの出番です。書くこと自体がすでに難しいことなのに、ましてや日本語で書くとなるとさらに難しいですね。ペットの様子や日常について気軽に書いてねと言われましたが、やはり緊張します。では、まずはちょっとした自己紹介から始めたいと思います。
私は在日米軍基地で生まれました。父はアメリカ南部のミシシッピ出身の黒人で、母は東北の山形出身です。物心がついた頃にはオハイオ州に住んでおり、その後ハワイに引っ越しました。母は、自分が英語ネイティブではないことが子供に悪い影響を与えるのではないかと心配していましたが、当時のハワイは多文化的な場所でした。ハワイには、英語以外の言語が使われる家庭が多くありました。子供は語学に長けているので「英語は学校に任せて、お家では日本語を使ってください」と母は学校に言われました。
子供の時の言語習得は確かに楽かもしれません。小学校3年の時に横須賀の住宅街に引っ越し、それまで聞き取るだけだった日本語を、半年も経たないうちに話せるようになりました。一緒に遊んでいた日本人の友達に「ずるい」と言われて、家に走って帰り、母に「ずるい」とはどういう意味かを尋ね、「ずるくない」と言い返したのを覚えています。
日常会話やひらがな、カタカナの読み書きを身につけても、日本語には漢字という大きな難関があります。大学時代、神戸大学に留学しましたが、教授が黒板に手書きで書いた漢字がまったく読めず、何度も泣きそうになりました。
正直、いまだに手書きの漢字は苦手です。手書きが減り、日本人でも漢字を書けなくなっているようですが、それでも私は漢字が好きです。パーツを組み合わせて意味を成す漢字は、効率的とは言えませんが、とても美しい読み書きシステムだと思います。
留学して、初めて本格的に漢字や敬語などに向き合うことになりましたが、徐々に上達しました。黒板の汚い字に関しては、クラスの友達からノートを借りて写しました。買わされた高くてつまらない先生の本は、スマホがない時代に流行った電子辞書を使って読めない漢字を一つひとつ調べました。1ページを読むのに1時間かかることも普通でした。
先日、ワイン会兼本について話す会に参加しました。私が選んだのは川端康成の『雪国』です。純文学で日本人には古臭いかもしれませんが、この本は英語でも日本語でも私のもっとも好きな小説です。本をめったに再度読まないタイプですが、これまでに4回読みました。毎回漢字や文章の曖昧さに苦戦しながら、その表現に圧倒されています。
ここで急にアートの話をするのはおかしいので、今回はアートに近い漢字と文学の話でご容赦ください。まだ何も決めていませんが、次回こそ愛犬とアートの話をしようと思います。