公開日:2024年8月22日

初めての「聖地巡礼」で覚えた不思議な感覚

TABのスタッフが気の向くままに更新する日記。今回は編集部・後藤が2次元作品の「聖地」を訪れ感じたこと

先日、とある2次元作品の「聖地巡礼」をしました。アニメや漫画の舞台になった場所を訪れることを「聖地巡礼」と呼び、その経済効果などが議論されるようになって久しいですが、以前はあまりアニメをたくさんは見てこなかったこともあり、わざわざ舞台になった場所を訪れようとする気持ちがあまりわからずにいました。

しかし、いざ友人に誘われていくつかの場所を巡ってみたところ、「ここであの人たちがあの会話をしていたのか」「この景色を見て生活していたのか」と急に2次元のはずの存在の実存を感じるような、不思議な感覚を味わいました。ここに立って喋っていたのであれば、結構声張らないと話せないのでは?とか。以前も行ったことがある場所の場合、目にした風景はおそらく前と同じで、そこに特別な思い出があったわけでもないのに、その場所を舞台にした物語にハマったという自分の側の心持ちの変化によって、場所が自分におよぼす感覚がまったく違うものになるという体験も興味深かったです。多くの人にとっては何をいまさら当たり前のことを、という話なのかもしれませんが……。

「聖地」のひとつになっている喫茶店のナポリタン

思えば以前2次元アイドルのライブを見たときも、ステージ上で踊る3DCGの姿にはどこか違和感があるし、MCで話される言葉もライブ中の煽りも全部「ライブ」ではなく録音されたもののはずなのに、観客とのコール&レスポンスが完璧に成り立っていたり、終わったあとは確かに「アイドルのライブを見た」という感覚が自分の中に残っていたりと、不思議な気持ちになりました。

作品と観客のあいだで、同じ世界線で物事が行われていることを約束事にするある種の共犯関係が結ばれていて、その結びつきが強ければ強いほど「リアル」な体験になるということなのかもしれません。2次元の人物を見てるとき、私は実際に何を見ているんだろう?と考えさせられると同時に、アイドルはもはや生身の身体を持っていることが必須条件ではないんだなという新鮮な驚きもありました。これがVTuberのライブなどだと、また似て非なる体験になるのでしょうか。2次元の「ライブ」と3次元の観客のコミュニケーションについては近年さらにたくさんの学術的な研究もされていると思うので、もっと知見を深めたいなと思っています。

後藤美波

後藤美波

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。