7月15日に東京都現代美術館で行われる「あ、共感とかじゃなくて。」展は、有川滋男、山本麻紀子、渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)、武田力、中島伽耶子のグループ展。知らない人や目の前にいない人について考え、理解しようとする5名のアーティストの作品を通して、見た者がそれぞれに問いや新たな視点、対話を得ることを促す。
本展の関連事業のひとつとして企画された「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー ~ドラァグクイーンによるこどものための絵本読み聞かせ~」は、3〜8歳の子供に向けてドラァグクイーンが絵本の読み聞かせを行うというもの。ありのままの自分、誰もが自分らしくあることの大切さを学ぶためのイベントとして企画された。しかしこのイベントについて、SNSを中心に様々な意見が噴出。差別的な見解に基づく暴力的なコメントも多く見られた。
これを受け7月4日、東京都現代美術館は「様々なご意見が寄せられ、厳しいご意見のほか、激励のお言葉を頂戴しています」とし、これに答えるかたちで声明を発表した。
発表された文書のなかで、「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー」は、2015年にサンフランシスコで始まり、世界各地で現地の団体が活動を行っており、日本では18年より公的機関を含む様々な場所で実施されてきたこと、読み聞かせを行うドラァグクイーンは、いずれもアーティストとして活動実績があるパフォーマーで幼児教育の専門家からトレーニングを受けてきたこと、性的な話題や性的な行為を想起させるような表現を用いることはないことなどの前提。そして安全第一を基本とするうえで、小さな子供やその保護者を含む幅広い年代の人々が「ジェンダーや個性の多様性に触れ、自分らしさを肯定する機会」を創出したい企画意図を説明。
さらに、「多様なプログラムがあることを知っていただき、その中から自由に選択できるようにすることで、幅広い価値観に出会える可能性を提供していきたいと考えております」として、あらゆる鑑賞者に開かれた美術館の役割を表明した。
海外の例を参照すると、ロンドンでは6月にテート・ブリテンでクィア・アートのイベントが大々的に行われ、昨夏は同地に2つのクィア・アートスペースが誕生するなど、「開かれた場所」としての美術館を推し進める活動は近年大きな動きを見せている。今回の企画は、日本におけるそうした動向の萌芽のひとつとして応援していきたい。
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