恐竜展といえば化石や原寸大の模型が定番だが、この展覧会はひと味違う。特別展「恐竜図鑑—失われた世界の想像/創造」では、図鑑などに掲載されることも多い恐竜など古代生物を描いた「パレオアート」の世界に目を向ける。2023年3月4日から5月14日は兵庫県立美術館で開催。その後、5月31日から7月22日には上野の森美術館に巡回する。
19世紀に恐竜が発見されて以降、化石などの痕跡から想像をふくらませた人間たちは、絵画を主な手段として太古の世界の住人たちの姿を創造してきた。科学的な見地に立ちながらも、同時にロマンも反映させたパレオアートを集めた同展では、19世紀の奇妙な復元図、20世紀に活躍した恐竜画の2大巨匠チャールズ・R・ナイトとズデニェク・ブリアンによる記念碑的作品、漫画・おもちゃなどのサブカルチャーからファインアート、さらには現代恐竜画の旗手たちによる、近年の研究に基づく作品が並ぶ。
野生動物画家としてキャリアをスタートし、生物学的知見から恐竜をいきいきと描いたことで映画『ロスト・ワールド』(1925年)や『キング・コング』(1933年)にも影響を与えたチャールズ・R・ナイト。20世紀中盤から後半にかけてチェコを拠点にヨーロッパ美術のリアリズムの伝統をふまえて作品を描いたズデニェク・ブリアン。彼らの作品は、日本の図鑑などにも模写され、恐竜のイメージの普及に大きな影響を与えた。
現代的な知見にもとづいた恐竜画以前の、パレオアート黎明期の作品も興味深い。映画『アンモナイトの目覚め』(2020年)でも知られる英国の女性化石採集者、メアリー・アニングの功績をたたえるために制作された《ジュラ紀の海の生き物―ドゥリア・アンティクィオル(太古のドーセット)》(1850年頃) は、古生物の生態を復元した史上初の絵画の一つと言われているが、魚食のイクチオサウルスが巨大な首長竜を食べているなど、現代から見ると奇妙な魅力を伴っている。
聖書や神話を題材とした作品で人気を博した画家ジョン・マーティンが描いた《イグアノドンの国》の太古の世界も、どこか牧歌的でロマンティックだ。
これらの作品以外にも、恐竜研究が進んだ20世紀後半以降に発表された現代の恐竜画、日本を代表するパレオアーティスト・小田隆の作品、チョコレートのおまけとして制作され、コレクターに大変な人気のカードなども展示される。
親しみはありつつも、アートとなるとあまり知ることのなかった恐竜画、パレオアートの世界にたっぷり触れたい。