「絵画の可能性がこんなところにもあったのか、ということに気づかされた」(横尾忠則)
渋谷のDIESEL ART GALLERYにて横尾忠則のポップアップ・ストアがオープンしている。2016年は、DIESELが日本に上陸してから30周年という記念すべき年だ。そこで8月以降、DIESELはN.HOOLYWOODとのコラボレーションや新たな進化系デニムのリリースなど、精力的な活動を行ってきた。そして、その最後を飾るニュースが、日本を代表する美術家である横尾とのコラボレーションだった。「DIESELらしい反骨精神を持つ美術家」として、DIESELにとっての念願でもあったらしい。
ポップアップ・ストアに並ぶのは、横尾忠則の限定アイテムや名作ポスター、新作グッズなどの数々。その中でも一際目を引くのが、DIESELとPORTER、そして横尾がコラボレーションしたアイテム、「DIESEL × PORTER ARTWORK by TADANORI YOKOO」だ。DIESELの30周年という年に合わせ、アートを軸にしたコラボレーションアイテムを作ろうという発想から今回の企画が生まれたという。
6種類のバッグを遠目に見ると、もとから存在するテキスタイルのようにさえ馴染んで見えるが、実は横尾の作品《RK》がデザインの素材として用いられている。《RK》は横尾が千夜一夜物語からヒントを得て描いたというシリーズであり、カオティックな色彩とフォルムが横尾らしい雰囲気をまとう。そして、DIESELらしい日本製の漆黒のデニム地がPORTERのスタンダードなスタイルのバッグを構成し、横尾のアートワークを今までにないアプローチで引き立てる。
「絵画作品が素材の違った日常品の中で、新しい展開を見せてくれるのは大変興味のあることだ。バッグと言う移動物(品)によって、さらに第三者の鑑賞物になる。バッグが都市や自然の中でアートの領域を拡張していく、そんな現象を想像する愉しみは所有者のみならず、それを眺める人達とも共有できるメディアになるのではないかと思う」
そう横尾が語るように、今回のコラボレーションアイテムはアートの表現媒体として新しい地平を見せてくれる。とはいえ、一朝一夕に今の形に至ったわけではない。絵画作品をデザインとして用いる以上、プリントの品質には強くこだわったという。PORTERと長年の信頼関係を築く職人の手によって、試行錯誤を繰り返した結果、横尾自身も「プリントが素晴らしい」と太鼓判を押すアイテムが完成したのだ。
また、ポップアップ・ストアには新作のバッグだけでなく、多種多様なグッズも並ぶ。クリアファイルや絵皿、土鍋(!)など、思いのほか実用的なアイテムが並んでいるのは、ちょっとした意外性もある。その上、オンラインショップや神戸の横尾忠則現代美術館などではなく、東京でグッズの実物を手に取れるというのは、実は貴重な機会でもある。
横尾忠則自身は今年で80歳を迎えた美術家であるが、その影響力は今も衰えることがない。オンラインショップでの購入者も実は20代、30代が多く、世代を超越した作家だと言って差し支えないだろう。今回のコラボレーションアイテムは、横尾の作品を現代の文脈で再構築する行為でもあるのだ。
ウェブサイト
https://www.diesel.co.jp/art/tadanori-yokoo-pop-up-store/
(取材・文:玉田光史郎)