2007年3月末にオープンした、新しいシティコンプレックスを展開する東京ミッドタウン。話題のデザイン施設21_21 Design Siteのあるこの地域は、六本木アート・トライアングルとともに今最も注目を集める文化エリアのひとつだ。そのミッドタウンに居を構えるデザイン・ハブだが、いったいどんなことをやっているの?と疑問に思っている人も少なくないはず。そこで今回TABは、そのデザイン・ハブの企画のひとつに参加。それが、このインターナショナル・リエゾンセンター企画のセミナーである。
インターナショナル・リエゾンセンターは、日本のデザインを「つなげる」「広げる」「育てる」役割を担おうとするデザイン・ハブの活動の一つとして、主に国際的なデザインの人材を「育てる」役割を担っている。
今回のアンドレイ・クペッツ氏による「マーケット・ストラテジーのデザイン」と題するこのセミナーも、『「研究教育によって培われた理論と産業による実践の融合」と「国際的な連携」の2つを推進する』ことを人材育成の核に据えるリエゾンセンターならではの企画だ。
クペッツ氏はドイツのツォルフェライン・スクール・オブ・マネジメント・アンド・デザインの学長。セミナーは「デザインがどのようにイノベーションのプロセスに組み込まれているか」「企業の戦略的な方向付けがいかにしてコーポレートアイデンティティ/デザインに影響されているか」「デザインマネジメントがどう効果的に機能しているか」を、レクチャー、ワークショップ、ディスカッションを通して考えるという2日間のプログラムであった。
私が参加したのは1日目のみ。まずは「なぜストラテジックデザインなのか」という題でレクチャーがスタート。経済、社会情勢と人間の嗜好の変化とデザインの関わりをひもときながら、市場で成功するにはいかに「デザイン」の知識と戦略が大切であるかを認識させる内容だった。
ブレイクの後はワークショップ。4つのグループに分かれ、配られた画像をもとに、その人物像の行動パターンや嗜好などを分析し、ターゲットグループを特定していく、というものだ。
最後にレクチャーとワークショップの総括として、このような分析がどんな可能性を秘めているかについて、「車」の商品企画を題材とし、マトリックスをみながらディスカッションをする、という流れだ。
参加者はプロダクトデザイン関連の現役デザイナー、ディレクターが多かったようだったが、デザイン学生も多数参加していた。ディスカッションでは具体的な疑問、質問も飛び出し、このセミナーに対する関心の高さが伺われた。
現役デザイナーにとっては今回のレクチャー内容は周知の内容だが、今回は会社経営者に対して、デザインがどういう役割を担っているかを伝えることを目的とした構成であることを考えると、現在に至る流れを再認識するには、非常に整理されたわかりやすいレクチャーだったと思う。しかし肝心の会社経営者やデザイナー以外のデザインビジネス従事者が参加者に少なかったことは残念。
セミナーの後の懇親会でクペッツ氏に「マネジメントのデザインって、どういうことなのでしょう?」と聞いてみたところ、クペッツ氏はちょっと返答に困ったような顔をして、少し考えてからこう言った。
「マネジメントはもともと問題を解決する考え方というのが理論としてあるけれど、デザインはその手がかりを得るのが難しいよね。だからマーケティングが物事を決断する強いツールになっているのは確か。でもマーケティングとデザインは相互に強く関わっているものだし、それをマネジメントをすることが社会の要求に応える提案ができることであると信じているよ。」
ふむ。デザイナー側からこの言葉を捕らえると、デザイナーはより「デザイン力」を高めて新しいマーケティングストラテジーをマネジメントしろ、と言うことか。
確かにこのお題を投じられたことによって、つね日頃「マーケティング」となかなか仲良くできないデザイナーたちが、お酒も入った懇親会で、さらにディスカッションを繰り広げていたという事実は、それだけ関心の高さと可能性を秘めているテーマであることは否めない。またそういったディスカッションの場を提供することが、デザイン・ハブの目的であることから考えても、この企画は成功だったといえるだろう。
ただ今回の場合、テーマはよいが、もう少し物議を醸し出すくらい問題のある革新的なマネジメントの実例、マネジメント自体のデザインの解剖図などをみせてもらえたら、マーケティングよりの意識に引っ張られず、より高い意識を引き出すディスカッションに発展できただろう。よい質問はよい答えを導く。今後のデザイン・ハブの活動にますます期待したい。
Chihiro Murakami
Chihiro Murakami