このTABlogでは開催期間が短かったために訪れることができなかったみなさんに、これらの展覧会の内容をご紹介しようと思う。
生命のうた 永井一正版画展@クリエイションギャラリーG8
ただの紙の上の線の集まりが、どうして思考を停止せざるをえないくらい観る者を圧倒することができるのか。永井氏の作品は強烈な個性とイマジネーションで観る者を力づくで惹きつける。よけいな装飾的言葉も、理解しようとして頭がひねりだそうとする一切の知識も拒絶する、ただそのままを認めざるをえない絶対的な存在感。そんな作品を生み出す永井一正氏だが自身を作家とは呼ぶことはなく、一貫して「デザイナー」であると言う。永井氏にとってデザインとは、デザイナーとは何なのだろうか。
この展覧会に関連したトークショーで永井氏はきっぱりと「デザインとは自然の摂理を汲み上げて形づくる行為」と語った。なぜなら人類のつくってきた文明と文化は自然の摂理の発見と学びの歴史であるからだという。
素晴らしい言葉だと感じ入ったのは、デザイナーという個人の個性と社会性との関係についての質問への答えである。永井氏ははっきりと「自然の一部である「自分」に向かって深く深く降り、自分を120%だせれば、それは「社会」とイコールになる」と語った。それは、自分勝手な表現行為で楽にお金を得ている、と言われることに罪悪感を感じるデザイナーが、常に免罪符のように「社会性」を中途半端に持ち出すことに対して冷や水をあびせるような言葉である。そうそう、自分のイマジネーションを真摯に解放し、伝えようとすることは健全な行為なのだ!と私は強くうなずいていた。
今の日本のデザインに感じることは?の質問に「人間の奥底に眠る、清らかな品格が足りない」と答えた永井氏。自然、生命、真摯、品格、そんな言葉がデザインを語ることで満ちていくことに、私は永井氏の高貴な精神性を感じ、その厳しく強い清らかさにひとつの「日本の美に対する意識」を感じた。
TAKEO PAPER SHOW 2007 “Fine Paper” @丸ビル ホール&コンファレンススクエア
「竹尾」という会社は一般的にはなじみの薄い会社だろうが、例えば新刊書籍、ステーショナリーショップでみつけたレターセットやカード、趣向をこらしたDMなど、私たちが身近に手にする、あのちょっとすてきな紙をデザイナーに紹介し、印刷会社に供給したり、海外の珍しい用紙を輸入したり、ということをやっている実はけっこうすごい洋紙の卸問屋なのである。
TAKEO PAPER SHOWとは、つまり竹尾の新作用紙発表会なのだが、この展覧会のディレクションを、紙に最も頻繁に接するグラフィックデザイナーの中でもトップクラスのデザイナー・アートディレクターが担当し、毎年かなり趣向をこらした展覧会を催すので、今ではPAPER SHOWをみると紙のトレンドだけでなく、どんなデザイナーが現在注目されているかが分かる、という業界では曰くのある展覧会でもあるのだ。
今年のアートディレクションは古平正義、平林奈緒美、水野学という3人の若手注目株のデザイナーが担当し、会場の丸ビル及び丸の内界隈の商業施設と国内外のデザイナーとタックルを組み、新製品の用紙のプロモーションを行った。
私の興味をひいたのは、普段は大人しい(のであろう)竹尾の営業マンたちが、担当の新製品(用紙)の台の前に付いて、かなり日本人離れしたウィットにとんだ説明をしてくれたところ。そして、新製品を使用した凝ったペーパープロダクツが、協賛の丸の内界隈のショップで、期間中買い物などをすると手に入るところだ。
紙についてこれだけの凝りに凝ったイベントができるとは、やはり「紙好きの国日本」ならではと思うのだ。そういう私ももちろん紙好きで、新製品の紙サンプルはしっかりいただいて参りました。(笑)
TOKYO FIBER ’07 SENSEWARE @青山スパイラルガーデン&ホール
TOKYO FIBER展は日本の繊維を紹介する展覧会、ではあるが、そう簡単に言ってしまえない多くの驚きと新しいクリエイションへの示唆にとんだイベントだった。繊維は主に生地として、主にファッションのジャンルでなじみある素材と思いがちだが、この展覧会ではタイトルに明らかなように、より「素材」としての繊維の可能性を「科学的」「触覚的」「視覚的」「立体的」な視点で切り取った、様々なクリエイティブのアイデアが日本を代表するデザイナー、建築家、アーティスト、メーカーから集合した。
驚かされるのはやはりその「繊維」の多様性。会場にあった繊維サンプルをみていると、とかくその視覚面で、色なり、表面のテクスチャーなりをみてしまいがちだが、光をあてれば蝉の羽のように透けて光る美しい繊維もあれば、熱によって変色する繊維もあり、水をおとせば、その水滴をたまのようにはじく性質を知るにつけ、繊維はあきらかに紙でも、プラスチックでもない、ひとつの「素材」であることを思い知らされる。
驚くべきは、これらの繊維がすべて日本の製品であること。こんなにいろいろなハイテク繊維が日本のどこにあったのか!と灯台下暗しの気分で興奮しながら繊維サンプルの情報を集めた来場者も多かったことだろう。こんな繊細なところで「日本のテクノロジー」が美的に発展していたのか、と嬉しい高揚に満ちた展覧会だった。
Chihiro Murakami
Chihiro Murakami