20世紀を代表する巨匠のひとり、ジョルジョ・デ・キリコ。彼の約70年にわたる画業をたどる回顧展「デ・キリコ展」が、2024年4月27日〜8月29日に東京都美術館で開催される。彼が1910年頃から描き始めた「形而上絵画」は、幻想的な風景や静物によって非日常的な世界を表現する絵画である。とりわけサルバドール・ダリやルネ・マグリットといったシュルレアリスムの画家をはじめ、数多くの芸術家や国際的な芸術運動に衝撃を与えた。
本展では、デ・キリコの画業を「イタリア広場」「形而上的室内」「マヌカン」などのテーマに分けて紹介していく。初期から描き続けた自画像や肖像画から、デ・キリコの代名詞ともいえる「形而上絵画」、西洋絵画の伝統に回帰した作品、そして晩年の新展開である「新形而上絵画」まで、世界各地から集まった80点以上の作品が展示される。1910年代の「形而上絵画」は世界中に散らばっているため、本展のように一挙に見られるのは貴重な機会だろう。
「肖像画・肖像」は、デ・キリコがその画業の初期から取り組んできたもので、過去の巨匠たちの作品との対話においてもっとも重要にしていたテーマのひとつでもある。そして「形而上絵画」は、ニーチェの哲学に影響を受けた作品だ。「イタリア広場」のシリーズはその原体験と密接に関連しており、柱廊のある建物、長くのびた影、不自然な遠近法によって、不安や空虚さ、憂愁、謎めいた感覚を生じさせる。
「形而上的室内」は第一次世界大戦の勃発により、フェッラーラの病院に配属された彼が、この町の家の室内、店先のショーウインドウなどに魅せられて描いた室内画だ。線や四角、箱、地図、ビスケットなどのモティーフを組み合わせて構成されているのが特徴だ。
またモチーフとして取り入れられた「マヌカン(マネキン)」により、古典絵画において重要なモチーフであった人物像を、他のモティーフと同じモノとして扱うことを可能にした。
1920年代に入ると、デ・キリコは従来のマヌカンに加えて「剣闘士」などの新たな主題にも取り組んだ。ティツィアーノやラファエロ、デューラーといったルネサンス期の作品に、次いで1940年代にはルーベンスやヴァトーなどバロック期の作品に傾倒し、西洋絵画の伝統へと回帰していく。そして1978年に亡くなるまでの10年余りの時期に、デ・キリコはあらためて形而上絵画に取り組み始めた。
これらは「新形而上絵画」と呼ばれ、彼が若い頃に描いた広場やマヌカン、そして挿絵の仕事で描いた太陽と月といった要素を画面上で総合し、過去の作品を再解釈した新しい境地に到達した。
弟や最愛の妻といった自身の芸術の理解者が身近にいたデ・キリコは、世間の評価に左右されることなく、90歳で亡くなるまで精力的に創作を続け、絵画や彫刻、挿絵、舞台美術など幅広く、数多くの作品を残した。本展では彼の手掛けた彫刻や挿絵、舞台衣装のデザインなども合わせて展示される。デ・キリコ芸術の全体像に迫り、その唯一無二の表現力を堪能できるまたとない機会となるだろう。