5月12日、福岡県太宰府市の神社、太宰府天満宮が「仮殿」の完成を発表した。仮殿のデザイン・設計を建築家・藤本壮介が、御帳(みとばり)・几帳(きちょう)のデザインをファッションブランド・Mame Kurogouchiが担当した。
太宰府天満宮は、学問・文化芸術・厄除けの神様として菅原道真を祀る天満宮全国天満宮の総本宮。アートファンには「太宰府天満宮アートプログラム」で現代アートの注目アーティストを招聘し、展示を行ってきたこともよく知られているだろう。
太宰府天満宮では25年毎に式年大祭を執り行っており、令和9年(2027)に菅原道真が薨去(こうきょ)してから1125年という大きな節目を迎える。この節目となる式年大祭を前に、令和5年(2023)5月より約3年間をかけ、124年ぶりに重要文化財「御本殿」の大改修を行う。改修期間である3年間限定で御本殿前が使用され、ここに完成したのが仮殿だ。御本殿の大改修に際して、御祭神の御神霊を仮安置するために設けられた。
藤本壮介建築設計事務所がデザイン・設計した仮殿は、天満宮が紡いできた1100年以上の歴史と伝統を未来につなげることを意識し、御本殿を踏襲した伝統的な造りと現代的なデザイン性の共存が目指された。印象的である屋根の上の植物には、天満宮の花守たちによって境内地で育てられた梅も含まれている。周辺の環境と共に、季節や天候によって様々な移ろいを見せ、訪れるたびに新しい姿を見せることになりそうだ。
藤本のコメントは以下。
「設計の依頼をいただいてから2年以上の時を経ての仮殿の完成となります。太宰府天満宮の持つ長い歴史と伝統を受け止めることから始まり、現状案にたどり着くまでに様々な検討を積み重ねていきました。
1100年以上の歴史に現代建築が応えられるのかという大きな問いを前にして、自分の持つ全てを振り絞って設計にあたりました。
3年という限られた期間ではありますが、道真公のための森のような屋根を通じて飛梅伝説や歴史と繋がったり、美しく豊かな自然を感じたり、ここに訪れる多くの人々の記憶に強く残るような、風景になればと思っています」。
仮殿のために仕立てられた御帳と几帳は、パリコレクションに参加するなど世界的に活躍するファッションブランド、Mame Kurogouchiが手がけた。現代の織機を用いながら、古代染色などの古来の手法と融合させることで現代的な生地を生み出し、御帳には天満宮を象徴する梅の木が全面にあしらわれた。色・柄ともに左右に向かって美しいグラデーションを成す構図が、天満宮全体がもたらす生命の広がりを表現する。
几帳に用いられたシルクには、境内で採集された梅と樟の枝や、貴重な紫根を用いた古代染色が施され、現代を象徴する化学繊維と共に織り上げられた。流れるような糸の飛ばしが特徴的な織りは、デザイナー黒河内真衣子が体感した境内に降り注ぐ生命の雨をイメージしたという。
黒河内は以下のコメントを寄せている。
「図案や素材には天満宮を象徴する梅のモチーフの他に、西高辻󠄀家の記憶を込めています。境内の中に特に大きな樟の大木があります。落雷を受けて、根元に大きな穴があいているのですが、その穴の中に入らせていただいたことがあります。その際、西高辻󠄀さまも幼少期にこの大木の穴でかくれんぼをしていたという話を伺いました。そんな時、突然雨が降ってきて、私はその中で雨宿りをしたのですが、まるで生命の膜に守られているような強い印象を抱きました。西高辻󠄀さまがその中で過ごした時間に想いを馳せ、その大木の中から見える景色と、天満宮全体を包む生命の景色を描きたいと思い、筆を走らせました」。