公開日:2011年10月14日

団・DANS 第8回展覧会<br />Hierher Dorthin ―ここから、あちらから―

〈企画 &#8211; 展示 &#8211; 作品販売〉まで、若手作家主導によるグループ展

ジャンルを問わない若手作家たちによるグループ「団・DANS」の8回目となる展覧会が、東京ドイツ文化センター(ゲーテ・インスティチュート)で開催された。

団・DANSは2005年に発足した作家とその支援者によるグループで、これまで旧在日フランス大使館、椿山荘など、毎回場所を変えながら展示を自ら企画・開催してきた。

前回のブルガリ銀座タワーでの「The Lounge」展(2011年1月13日〜27日)につづき、キュレーションにはインデペンデントキュレーターの住友文彦氏を迎えた。

「(大学を卒業して作家活動を始めたばかりだったり、ギャラリーに所属するまでの若手作家が)一人立ちをする前の作家同士のアソシエーションは他に例がなく、公募団体とは違う風通しのよさがある。」と住友氏は語る。オーガナイザーの麻生和子氏の人脈もあり、会場にはアートに興味があり、若い作家たちと交流したいという大使館関係者や政界関係者のほか、美術館関係者やギャラリストたちの姿も見えた。

東京ドイツ文化センターが今回の会場に選ばれたのには、今年が日独交流150周年に当たるという理由がある。当初は4月に開催する予定だったが、東日本大震災のため延期となり、8月の開催にこぎ着けた。今回は29人/組の作家が参加し、日独交流を意識した作品の他に、震災の記憶を表現した作家も多かった。また、展示作品は毎回サイレント・オークションという形で販売されるのだが、今回は、収入の50%が被災地の復興のために寄付されることになった。29人/組の作家のうち約半数に入札があり、寄付金は作家から直接送られることになっている。寄付先は、メンバーによる協議の結果、日本三景にたとえられる松島の海に浮かぶ宮戸島の復興活動に力を入れている「トラベル東北」社長、Steve Yamaguchi氏のもとへと決まった。宮戸島は、震災後、津波で連絡橋が崩落し、陸との行き来ができず孤立してしまった島だ。

さらに今回は、住友氏らから今後の活動が期待される作家へ賞が贈られた。受賞したのは地下のスペースで被災地の写真を展示した久村卓。「震災の記憶と向かい合う点では、安易な表現にも、誇大なものにもならず、等身大の感覚と向き合っているのが感じられ、観客にも伝わっていた」点を評価された。(住友氏のコメント)

また、ドイツ大使館により、作家への副賞として来年の夏に「ベルリン・ビエンナーレ」が開催されるドイツへの渡航チケットが授与された。次回のベルリン・ビエンナーレは、社会性に強く関心もつアルチュール・ジミエフスキーがキュレーターを務める。この賞の意義として、ベルリンでの見聞をこれからの作家活動へ有効に活かしていってほしいという期待がある。今後、国際的に通用する表現に磨き上げていくことができるかという作家としての力量も評価の対象となった。

久村卓《空》
久村卓《空》
旅行写真、ドイツで手に入れたもの、その他、2011

以下、展示作品からいくつかピックアップして紹介する。

2000年から2010年までドイツ・デュッセルドルフに滞在し、独学でアニメーションを学んできた佐藤雅晴は、新作《バインド・ドライブ》を披露。
長山洋子の「絆」をBGMに、天使と悪魔が田園風景の中をドライブしている。天使は妊娠していて、二人は夫婦の関係を象徴している。しかしそれは甘い関係ではなく、助け合うけれど縛りをも与えてしまう「夫婦の束縛」に焦点が当てられている。天使と悪魔が夫婦であるということ、また、「絆」をBGMにしながら実は「束縛」がテーマとなっているという矛盾が含まれている点がこの作品の興味深いところだ。

佐藤雅晴《バインド・ドライブ》
佐藤雅晴《バインド・ドライブ》
アニメーション、2010-2011

佐藤が作品制作でいつも心がけているのは、映像作品だからといって起承転結のあるストーリー仕立てにするのではなく、一本の映像を1枚の絵のように完成させたいということ。本作品でも、悪魔と天使以外には登場人物はなく、雨、人気のない学校、廃墟、壊れた彫刻、テニスコートなど、CGで表現された佐藤独特の写実的な世界が、人気が無くどことなく寂寞とした風景は、佐藤自身が、震災後に外に出ることに恐怖感を覚えたという体験も影響しているという。

大垣美穂子《Star Tales-hierher dorthin》は、床面近くに上向きに配置された150点の絵から成る大型インスタレーションを展示。白亜地に転写し、描かれた150点の絵は、1861年から2011年までの150年分の人間の歴史を象徴し、ぞれぞれ1点が、1年の間に起こった出来事を星座で表している。たとえば、隅田川の花火大会が始まった1873年、ヘレンケラーとサリバン先生が出会った1887年など、ギリシア神話ではなく、人間が行ってきたことを星座として描いてみたかったという。
一点、2011年の星座図だけは、まだ終わっていない未完成の年として立体で表現した。
「作品を観た人の自意識が吹き飛ぶような作品を作りたい。そのくらいのエネルギー、熱を持つ作品を作りたい」と語る大垣は、人間の愚かさと力強さを星座として描くことで宇宙に昇華し、また今を生きる我々が、常にその星座に見守られているということを思い起こさせる。

大垣美穂子《Star Tales-hierher dorthin》
大垣美穂子《Star Tales-hierher dorthin》
インク、鉛筆、水彩絵の具、蓄光顔料、白亜地パネル、2011

野口一将は、マスキングテープを用い、エントランスホールの大きなガラス面に直線絵画を描いた。大胆にまっすぐに伸びた直線は、それが鮮やかな発色の水色だということもあり、一瞬それがマスキングテープだとは分からないが、それこそが野口の狙いでもある。

野口一将《TAPE SCAPE at OAG-Haus》
野口一将《TAPE SCAPE at OAG-Haus》
マスキングテープ、2011

建築家でもある野口は、「境界」および、領域(テリトリー)を作り出すことに興味があるという。たとえば、横断歩道や道路に書かれた速度制限表示などの二次元の記号によって空間が支配されるように、テリトリーを目に見えるようにするきっかけを作る。それを、マスキングテープのような身近な素材を使って行うことで、ものの用途に対して我々がもっている固定概念をも覆す。野口にとってマスキングテープとは、永遠に出続ける絵の具のようだという。まさに、見慣れたものの使い方を変えて、非現実的な風景を作るのに最適な画材というわけだ。

武藤亜希子は、これまで、対話やリサーチを基に、作家自身の内側に湧いたイメージを形にし、インスタレーションとして空間を作る作品を作ってきた。

武藤亜希子《ガルテンGarten g+a+r+t+e+n》
武藤亜希子《ガルテンGarten g+a+r+t+e+n》
合成皮革、その他、2011

前回の銀座ブルガリタワーでの展示時は、ジュエリーにインスピレーションを得て、柔らかい素材でできたパーツをつないだり並べたりして、来た人が自由に形を作れる参加型のインスタレーションを制作した。今回は、「植物」をテーマにした《ガルテンGarten g+a+r+t+e+n》(ドイツ語で「庭」の意)を展開。グリーンをベースにした視覚的にも触感的にも癒されるパーツをくっつけたり壁に引っ掛けたり……大人でさえも、おもちゃ箱をひっくり返して遊んだ幼少期の記憶を思い出してつい夢中になってしまう。一つ一つ手縫いで丁寧に作られたパーツを媒介に、手にして遊ぶうちに、記憶の底に眠っている感覚を掘り起こされ、思いもかけない形が生まれる、そんなポジティブな力を内包した作品だ。

団・DANSは、作家同士の連携を基に、毎回参加メンバーを少しずつ変えながら、今後も続いていく。移り行く時代背景を反映しながらどのように発信を続けて行くのか。今後の展開が楽しみだ。

Rei Kagami

Rei Kagami

Full time art lover. Regular gallery goer and art geek. On-demand guided art tour &amp; art market report. アートラバー/アートオタク。オンデマンド・アートガイド&amp;アートマーケットレポートもやっています。