公開日:2018年12月19日

「真鍋大度∽ライゾマティクスリサーチ」展 フォトレポート

真鍋大度による国内初の個展が、鹿児島県 霧島アートの森で開催中。東京都内からのアクセスや周辺スポットもあわせて紹介

真鍋大度の国内初となる個展『真鍋大度∽ライゾマティクスリサーチ』が、鹿児島県霧島アートの森で開かれている。霧島連山の雄大な自然に抱かれた、標高700mの高原に位置する美術館だ。今回は展示のフォトレポートに加え、都内からの交通アクセスや周辺のスポットもあわせて紹介したい。

Perfumeのライブ演出や、リオオリンピック閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニーなど、世界中で様々なプロジェクトを手がけてきた真鍋大度とライゾマティクス。高度なテクノロジーを駆使し、アート、デザイン、エンターテインメント、教育など、領域を横断した活動で知られている。

その先見性に溢れた作品は、見る者を驚かせ、社会の価値観を更新し続けてきた。『真鍋大度∽ライゾマティクスリサーチ』では、真鍋大度と4組のコラボレーターによる、7点の新作により展示を構成。真鍋が今、何に興味を持ち、何を考えているのかを知ることができる貴重な機会だ。

《Light-field theater》シリーズ4作品は、肉眼で見ることのできる立体映像技術を用いたインスタレーション作品だ。ロボットアームとLED光源、特殊なレンズ面を用い、小さな光が実像と虚像の交わるパフォーマンスを繰り広げる。様々なテクノロジーが普及し、現実と仮想の境界が曖昧になっていく社会で、現実とは何か?という問いはますます身近なものになるだろう。肉眼で見るからこそ、その問いが浮き彫りになる作品だ。

Daito Manabe + Youichi Sakamoto + Tatsuya Ishii 《Light-field theater / wireframe》

ELEVENPLAY、カイル・マクドナルドとのコラボレーションによる《discrete figures》は、2018年の8月に日本でも公演が行われたダンスパフォーマンス作品だ。

本展では、そのインスタレーションバージョンをケーブ(洞)と呼ばれる箱型のスクリーン内に投影し展示している。インスタレーションでは、ダンサーの映像と、ダンサーの動きから学習して踊るAIの映像がダイナミックに投影される。もうすぐ2歳になる筆者の娘が、AIのダンスを真似て踊り出す姿は印象深かった。本展で扱われているテクノロジーはどれも実験的なものに思えるが、彼女が大人になる頃にはAIの振付師が活躍していても不思議ではない。そんな未来を形にして見せてくれるのが、真鍋作品の魅力でもある。

Rhizomatiks Research + ELEVENPLAY + Kyle Mcdonald 《discrete figures installation》

展示室を進むと、もう一つドーム状の空間が設置されている。抽象的な音と映像で構成されたオーディオビジュアル作品《phenomena》だ。同一のデータから音と映像をそれぞれ生成する試みは、2003年より真鍋が音を、ビジュアルアーティストの堀井哲史が映像を担当し、ライブ形式で発表されてきた。本展では視界を覆うドーム状のスクリーンとヘッドホンにより、作品への没入感をより深く味わえる展示となっている。

Daito Manabe + Satoshi Horii 《phenomena》

2階では、脳活動の解析を通して音と映像の関係にアプローチする作品《dissonant imaginary》が上映されている。本作のコラボレーターである京都大学教授の神谷之康は、機械学習を用いて脳信号を解読する「ブレイン・デコーディング」法を開発し、ヒトの脳活動パターンから視覚イメージを解読することに初めて成功した研究者だ。

参考動画は、被験者に実際に見せた画像と、それを見た時の視覚イメージを脳活動から再構成して出力した映像。これに対して本展で展示されている作品は、被験者に画像を見せるのではなく、動物の鳴き声のような音など様々な「音」を聞かせた際に、被験者が脳内で視覚イメージとして思い描いたものを、脳活動から解析して映像として出力したものだ。音と映像の関連性を脳活動から読み解こうとする、挑戦的な作品である。

Daito Manabe + Kamitani Lab, Kyoto University 《dissonant imaginary》

名称に「リサーチ」と入っているように、ライゾマティクスリサーチは研究開発要素の強いプロジェクトを中心に手がけている。本展は、真鍋大度が現在進行形で取り組んでいる実験的な作品を、ひと所で堪能できるまたとない機会だ。本展では過去作品のアーカイブも展示されており、今回展示されている新作に至るまでの活動の軌跡もたどることができる。ぜひゆっくりと時間を取って訪れたい。

今回、なぜ初めての個展が鹿児島だったのか学芸員の方に伺ったところ、真鍋自身が実際に館に足を運び、霧島アートの森の環境をとても気に入ったため実現したそう。
2000年にオープンした霧島アートの森は、豊かな自然環境を活かした野外展示が魅力の美術館だ。20点以上にのぼる野外展示作品はすべて、開館時にアーティストが滞在制作したもの。霧島連山に位置する高千穂峰の天孫降臨伝説をモチーフにした作品や、桜島の溶岩を素材として用いた作品など、霧島アートの森ならではの作品を、雄大な自然の中で楽しめる。

チェ・ジョンファ 《あなたこそアート》

アントニー・ゴームリー 《インサイダー》 実はもともと美術館の敷地外の場所で、シラキの樹木が立ち並ぶ様子を気に入ったアーティストが、どうしてもとリクエストして設置が実現したそう。
草間彌生 《赤い靴》


東京都内から足を運ぶのは敷居が高く感じられるかもしれないが、鹿児島の玄関口である鹿児島空港は霧島市内。羽田空港からは約2時間でアクセスが可能だ。空港でレンタカーを借りれば、霧島アートの森を含めた周辺スポットへのアクセスは良好。車なら約35分、空港からのリムジンバスとタクシーを使っても1時間以内で、霧島アートの森に到着できる。

周辺スポット

霧島は、世界的な高級リゾートも進出している風光明媚な土地だ。空港からのアクセスが良好で、4つの温泉郷があり、山にも海にも恵まれた地形で美味しい食べ物にも数多く出会える。霧島アートの森を訪れるなら、ぜひ温泉や霧島の自然、文化も堪能しよう。最後に、今回取材した中から3つのおすすめスポットを紹介したい。

みやまコンセール

世界的なクラシックの祭典である霧島国際音楽祭のために作られたホールで、建築は槇文彦が手がけた。船のような外観が特徴的である。クラシックのためだけに音響設計された独特な形状のホールを中心に据え、全ての施設の配置やデザインがこだわり抜かれている。ホワイエからは霧島の雄大な景色を臨むことができ、夏の音楽祭の時期には、世界的なアーティストや将来有望な若い音楽家たちが一堂に会する。その姿は、クラシックの未来へ漕ぎ出す船のようだ。タイミングが合えばコンサートのチケットを取って、世界から「奇跡のホール」と称される音響を体験してみては。

きりん商店

ディープな霧島を知りたいならぜひ訪れたいのが、杉川夫妻の営むきりん商店だ。霧島の特産品や雑貨を多数取り扱っている。国内有数のお茶の産地でもある霧島。店内では無料でお茶が振る舞われ、鰹節と味噌とともにいただく「茶節」や、茶葉のおひたしといった、霧島ならではのお茶文化に触れることができる。商品一つひとつに愛情のこもったエピソードがあり、話を聞いているだけでもあっという間に時間が経ってしまう居心地の良い空間だ。商品のパッケージデザインは夫の明寛さんが手がけ、地元でしか知られていなかった優れた特産品を、デザインの力で広く発信している。

ガラス工房弟子丸

一度は失われた薩摩切子の技術を復活させ、技術的に難しいと言われていた薩摩黒切子を実現させた切子師、弟子丸努によるガラス工房。住宅の立ち並ぶ中を抜けて工房へ入ると、人懐こい猫たちが出迎えてくれる。おすすめは、アクセサリーなどを作ることができる切子体験のワークショップ(要予約)。切子の製作工程で生じる端材を使い、職人のアドバイスを受けながらカットを入れていく。所要時間は約40分ほどだ。ショップも併設されており、工房の職人による美しい薩摩切子に加えて霧島の様々な工芸品も取り扱っている。
(弟子丸努の過去のインタビューはこちら

▼みやまコンセール(霧島国際音楽ホール)
http://miyama-conseru.or.jp/
鹿児島県霧島市牧園町高千穂3311-29
開館時間 9:00〜17:00
休館日 月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

▼きりん商店
https://www.facebook.com/kirinsyouten/
鹿児島県霧島市牧園町宿窪田1424-2
営業時間 10:00〜17:00
定休日 火曜日。水曜日・木曜日は不定休のため要問合せ

▼ガラス工房弟子丸
http://deshimaru.jp/
鹿児島県霧島市国分清水1丁目19-27
営業時間 9:30〜18:00
定休日 日曜日

[取材協力:霧島市]

chiquichika

chiquichika

ブラジル生まれのスペイン育ち、帰国後から東京在住のアートファン。2010年より5年間、Tokyo Art Beatのスタッフとして勤務。現在は、2歳になる娘とどんぐり拾いやアートめぐりを楽しんでいる。