9月17日から10月2日まで、ある二つの会場にて興味深い展覧会が同時期に開催された。今年、世田谷にオープンした二つのスペース、「XYZ Collective」と
「CAPSULE」だ。
『クロスカウンター・アーティスト共有展』と題されたこの展覧会は、アーティスト・澤柳英行と、澤柳の友人で英国人アーティスト・ピーター・ドナルドソンが企画した展覧会が、「Deutsche Bank Awards2010 *」を受賞し、賞金を獲たことから実現した。
当初は、2年にわたる交換展として開催する予定だった。最初の年には、英国人アーティストの展覧会を日本で、その翌年には日本人アーティストの展示を英国で行うという企画案だった。しかし、今年3月に起きた地震の影響を受け、諸事情が重なり予定は変更となった。一つにまとめて日本での「共有展」とし、開催時期も、当初予定していた4月から9月に延期しての開催となった。キュレーションには、アーティスト・青山悟も加わり、英国から7組、日本人からは8人のアーティストによる作品が展示された。企画発起人である澤柳とドナルドソンだけではなく、青山もまた英国 Goldsmiths Collegeで美術を学んだ。本展の特徴のひとつは、日本で初めて紹介される英国人アーティストはじめ、アーティスト同士の交流の中から、アーティスト目線で選ばれた作品で構成された展示であることだ。
この展覧会が開催された二つのスペースも、興味深い経緯をもって設立されている。
XYZ Collectiveは、アーティストのCOBRAらによって設立されたアーティスト・ラン・スペースだ。
一方、CAPSULEはコレクターの吉野誠一氏がオープンしたスペースで、こちらも所属ギャラリーやジャンルにとらわれない自由な展覧会を活動していくアートスペースだ。アーティスト主導で、コレクターの支援を得て運営されるスペースは、東京では数少ない。どちらも、非営利の現代美術シーン活性化のためのプラットフォームとして、コマーシャル・ギャラリーとは一線を画した企画展を通じてアートシーンに活気が生まれ、広がっていく拠点となることが期待される。
では、まずはXYZ Collectiveでの展示を中心に展示作品をいくつか紹介しよう。
XYZ Collectiveは、倉庫をその雰囲気のまま活かしたスペースで、お茶室のにじり口のように小さな入り口をくぐって中に入ると、暗い空間の中、スポットライトを当てられた作品が浮かび上がる。
展示の見方には十人十色、さまざまあるが、XYZ Collectiveでの展示を見終わった後の一つの感想として、私個人としては震災が心理へ与えた影響を意識させられた。震災から経過した月日を、改めて視覚的に意識させられる雨宮の《併走論のために》、澤柳の《There is still love after the 3 minutes》が瞼の裏に焼き付ける「LOVE」の文字、そして青山の作品の静謐なマリア像という3点の作品は、震災後の混乱を経験したから感じる共通意識という、目に見えないつながりのようなものを感じざるを得なかった。
次に、CAPSULEでの展示作品を紹介する。照明を落とし、倉庫の雰囲気を剥き出しにそのまま活かしたXYZ Collectiveとは対照的に、明るいホワイトキューブのCAPSULEでは、ギャラリー中央に設置されたピーター・ドナルドソンの大きな作品《A Quiet Explosion》が目を引く。威圧感ある大砲の先が、ゆるやかにカーブして下を向いている姿がいかにも英国人らしいウィットを感じさせる。
展覧会初日には、CAPSULEで、松原壮志朗と山川冬樹によるライブ・パフォーマンスが行われ、ぎゅうぎゅう詰めになるほどの多くの人が押し掛けた。
企画とキュレーションを担当した澤柳は、展覧会を振り返って「平和なときに企画した交流展を、このタイミングで開催すべきなのかどうか迷ったし、震災による心理的な影響はかなりあった」という。しかしそれでも「共有展」というスタイルに形を変えて一つの展覧会を作り上げ、実現したことによって迷いから一つ確実な前進が遂げられた。来日できなかった英国人のアーティストがいるとはいえ、作家は不在でも強度ある作品が、展覧会名の通りぶつかり合った『クロス・カウンター展』は、ポジティブな新しい力を生み出し、見る人に影響を与え、メッセージが発信できることを示したことで、15組のアーティストが集った展覧会自体が一つの作品に結実したといえるだろう。そして、アーティスト同士が、同じ空間で作品を発表することで生まれるパワー、互いの作品から受ける刺激は見る側にも伝わるのだ。
* Deutsche Bank Awards2010‥‥ドイツ銀行が実施するアーティストの起業支援を目的としたアワード。英国内11校の美術系大学の卒業生を対象に、新しいビジネス・プランを毎年募集している。1993年よりスタート、受賞者には10,000ポンドの賞金が贈られる。