ストリートアートを彷彿とさせる大胆な筆致に、愛嬌と毒々しさを共存させたポップなキャラクター。今、SNS世代を中心に幅広い層から支持されるCOIN PARKING DELIVERY(コイン・パーキング・デリバリー、以下CPD)が、DIESEL ART GALLERYにて自身最大級の個展「DIMENSION MEDIA」を開催中だ。会期は2022年1月13日まで。
作家自身は青い獣の覆面で姿を隠しつつ、作品には強いメッセージ性を持ったギミックをいたるところに仕込む。見る者は謎解き的要素を楽しみながら、「コインパ」の世界に引き込まれる。その空間で繰り広げられるエンターテインメント性は、「遊園地をつくることが最大の目標」と語るCPDならではだろう。
通学中の電車内でスマートフォンを使って絵を描くというスタイルで2018年から制作活動を開始し、わずか1年でカルバン・クラインやアディダスなど世界的ブランドとのコラボレーションを手がけるまでに至ったCPD。そのクリエイションの源泉となる思考に迫った。
1997年に栃木県に生まれたCPDは、美容専門学校への進学にあわせて上京し、前述の通り電車内での制作活動をスタート。作品をプリントしたアパレル販売で小銭を稼ぎながら美容の道へ進むも、「先が見えないことをしたい」という思いから美容師をやめ、創作に集中することを選択した。
その後自身のSNSで公開した作品が話題になると、有名企業から続々とコラボレーションのオファーが届くようになる。その多くは、CPDのキャッチーな作風からは遠いようにも思える老舗ブランドだという。
「みなさん僕に既存のイメージを崩してほしいという期待を持ってお声がけくださるんだと思います。実際、どの案件も僕が提出するコンセプトを通してもらっていますし、先方の予想を大きく超えるようなものをつくるのが気持ち良いんです」。
CPDの作品に共通するのは、メッセージ性の強さだ。多くの作品に登場するトレードマークのひとつに「白井さん」というキャラクターが存在するのだが、そこにも受け手をハッとさせる定義が設定されている。
「白井さんのモデルは、過去を象徴する恐竜と、未来を象徴する宇宙人のハーフです。つまり、“今”。人は大人になるにつれて、自分がしたいことや欲求を叶えられないことに言い訳をします。例えばまさに“今”お腹が空いているのに、時間がないからと後回しにする。でも白井さんは、白井さんを見ている人がごはんを食べたいと感じたその瞬間に、食事をしている。見ている人の“今”の欲求に忠実であり、見ているその人のアイコンとなりうる存在なんです」。
今回の個展でも、大きなテーマに沿った展示が展開されている。「DIMENSION MEDIA」と銘打ったテーマの軸は、他文化を取り入れることで自国文化をつくりあげた、日本の「輸入文化」だ。作品の画面上では、日本独特の美学を反映した「2次元」と、西洋的な「3次元」の表現を並存させ、それを展示する会場には、「内」と「外」、「複製」と「オリジナル」という二面性をもちながら、対となる2部屋を設けた。
「『DIMENSION MEDIA』は僕が今一番関心を持っているテーマを凝縮したコンセプトなのですが、これがなかなか複雑で一度では伝えきれない。そこで、今年1年かけて同テーマの作品を発表し続け、本展がその集大成になっています」。
そして「DIMENSION MEDIA」を表現したすべての作品には、「松の木」というアイコンを採用した。
「松の木の学名はパイナスといい、もともとの花言葉は“同情”、“慈愛”、そして“希望”。それを日本人が独自に解釈し……おそらく疫病の流行などが背景にあると僕は考えているのですが、“希望“の部分を”不老長寿“に変えたんですよ。日本は文化を輸入して、それを自己流にアレンジして取り入れてきたという歴史がある。そしてそのことを、僕は日本に住んでいながらも知らなかった。だからこそ、その気づきをこうして伝えていくべきだと思ったんです」。
さらに日本の輸入文化については、こうも語る。
「他文化をあたかも自国発信のものであるかのように吸収してしまう他国と違い、日本は他文化を他文化として尊重する傾向があるように思います。でも僕は、日本ももっと図々しくなって良いと思う。僕が、海外的な写実で描いたポップなキャラクターに“白井さん”っていう名前をつけたのには、そうした小さな希望も込めています」。
それぞれの作品は一貫して「DIMENSION MEDIA」をメインテーマに据えながら、作家個人が関心をもつ社会問題や、腑に落ちたという古来の教えなどあらゆる要素が盛り込まれており、会場を巡りながら各作品の解説をするCPDの熱量には、始終圧倒された。
「日本人が使う“アート”って、どこか投げやりな言葉だなと思います。どうも“よく分からないものを見て楽しむ”という風潮があるような気がして。なにか作品を見ることでコミュニケーションのきっかけになったり、“教養”になったりする……僕は、そっちのほうが腑に落ちるんです。会場には音声ガイドを用意しているので、ぜひ作品解説を聞きながら楽しんでもらえたら」。
今、CPDの創作活動はすべて、「遊園地をつくる」という「今までで一番先が見えない」目標に到達点を見据えているという。
「1年前、地元の街並みを描いた『OSANAME』っていうシリーズを発表したんです。今はシャッター街になってしまっているんですが、子供の頃は本当にエキサイティングでエネルギーにあふれていて、輝いて見えた。それが今帰って見ると、“こんなに色がなかったっけ?”って感じるんです。もちろんシャッターが閉まり活気がなくなったというのも理由のひとつですが、おそらく、今はスマホが存在して、好きなときにどんな世界にも行けちゃうから、リアルな世界に対する感動が薄れてしまっているんだろうなと思って」。
そして記憶を辿っていくと、CPDの中で一番輝いていたのが遊園地だった。
「当時の僕にとって遊園地ってありえないくらい楽しい場所で、もう見えないくらいに全部がキラキラしていたんですけれど、それを今の自分の目線でつくったらどうなるんだろうって。大人も子供も楽しめて、かつ王道のテーマパークにはない、ちょっとグレたところがあってもいい。そして僕は、それを3ヶ月で潰したいんです」。
その真意は……?
「今あるテーマパークって、いつでも行けるじゃないですか。僕がつくりたいのは期間限定の、いつか行けなくなってしまう遊園地。来てくれた人に強烈な体験をしてもらって、いざ行けなくなったときに、“そういえばあそこに遊びに行ったよね”っていう会話が生まれたら良いなと」。
さらに自身の作品に込めている思いと同様に、まだ見ぬ遊園地もまた、訪れた者にある種の“教養”を与えるものにしたいと声を弾ませた。
「とはいえ僕がいきなり遊園地をつくっても、伝えたいことがうまく伝わるとは限らない。だからこそ、これから先何十年もかけて作品を発表し続けることで、僕が発信するメッセージやコンセプトを刷り込んでいきたいんです」。
吸収した知識や情報を自身の作品に転化させ、それを「壮大な計画の一端にすぎない」とすら言い切るCPDのモチベーション。そこには、コロナによるパンデミックという、まさに“今”の時勢も大きく影響しているという。
「“今”を生きている僕たちは、なかなか“今”には感動できない。だからこそ僕は白井さんらを通して“今”を表現し続けて、後世に残していきたい。これまで僕は、自分の生活や置かれている状況に、水1本にしても疑問を持たなかったんですよ。でもこのパンデミックで、生きることに付随するあらゆることに疑問を抱くようになって。そうしてとことん調べていくと、見つかる世界がすごく多いということに気がついたんです」。
“過去”の要素を取り入れながらも、徹底して“今”を投影することにこだわるCPDの作品。まだ先が見えないコロナ禍を生きる今この時こそ、会場を訪れ、その溢れんばかりのエネルギーを感じてみてほしい。
■展覧会詳細
COIN PARKING DELIVERY「DIMENSION MEDIA」
会期:2021年9月11日〜2022年1月13日
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
開館時間:11:30〜20:00 (変更になる場合がございます)
https://www.diesel.co.jp/art/coin_parking_delivery/
COIN PARKING DELIVERY 公式サイト
COIN PARKING DELIVERY Instagram