東京都現代美術館で展覧会「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」が12月21日に開幕する。ファッションブランド「ディオール」が本拠を置くパリに始まり、ロンドン、ニューヨークと世界各地を巡回してきた大回顧展だ。会期は、2023年5月28日まで。
本展は、創設者クリスチャン・ディオール(1905~1957)が影響を受けた芸術や庭園への愛、日本との関係などに焦点を当て、75年に及ぶディオールの歩みを歴代クリエイティブ・ディレクターの作品とともに紹介するもの。空間演出とデザインは設計事務所OMAニューヨーク事務所パートナーの建築家・重松象平が担当し、国際的に活躍する写真家の高木由利子が本展とポスターのために作品を撮り下ろした。1階と地下の2フロアにまたがる会場は、東京都現代美術館の所蔵作品も所々に展示され、手技の粋を尽くしたオートクチュールと共演している。
19日に行われた記者会見で、来日したクリスチャン・ディオール・クチュール会長兼CEOのピエトロ・ベッカーリは「1953年に大丸と契約を結ぶなどメゾンは日本との間に長い歴史があり、多くのインスピレーションを受けてきた」とあいさつ。重松は「セクションやシーンごとにストーリー性がある舞台美術のようなデザインを心掛けた」と話し、高木は「これまで様々な角度から人と衣服の関係を撮影してきたが、オートクチュールの服は人間のエモーションが封じ込められていると感じた」と語った。
展示は、壁面のビジュアルや展示が画廊を思わせる導入部からスタート。フランスの裕福な家庭に生まれたクリスチャン・ディオールは、若い頃は画廊を運営するギャラリストだった。戦後間もない1946年にメゾンを創設し、翌年発表した最初のコレクションは、女性的な美しさから「ニュールック」と呼ばれ、センセーションを巻き起こした。続く空間は「ニュールック」を象徴する当時の「バー」スーツ、彼の後を引き継いでデザインを担ってきたイヴ・サンローラン、ジョン・ガリアーノ、現職のマリア・グラツィア・キウリら6人のクリエイティブ・ディレクターのモノトーンルックなどが紹介されている。
本展の見どころのひとつは、ディオールと日本の関係を振り返るセクションだ。ねぶたの素材と技法を用いた曲線的な空間には、浮世絵や桜にインスピレーションを得たオートクチュール・コレクションのドレスや、戦後の早い時期に日本に進出した当時の資料などが並ぶ。
「ムッシュ・ディオール」と呼ばれる創設者をはじめ、歴代クリエイティブ・ディレクターの作品を時代を遡って個別に紹介するセクションも興味深い。「バー」スーツをはじめ、エレガントなメゾンの特徴をアップデートしながら、それぞれの個性も開花させていった軌跡がうかがえる。
空間演出の白眉は、広大な吹き抜けのアトリウムを使った展示。暗い空間を斜めに貫く巨大構造体に夜会用ドレスがずらりと並び、光の演出や鏡面のトリックと相まって魅惑的なインスタレーションになっていた。
「ミス ディオール」の庭と題し、花と植物をモチーフにした服の数々を、現代美術家の手塚愛子や洋画家の牧野虎雄、切り絵アーティストの柴田あゆみの作品とともに鑑賞できる展示室にも注目したい。完成まで膨大な時間を費やすオートクチュールの技術を紹介する一室や、ディオールを愛したスターたちが着用したドレスを集めたセクション、人気が高いバッグや香水の展示、世界の国々との関係を紹介するコーナーもあり、メゾンの歴史と魅力を多面的にたどることができる。
最後に本展と直接関係はないが、初期のディオールの“魔法”が伝わる一冊の小説を紹介したい。米国の小説家ポール・ギャリコの《ハリスおばさん パリへ行く》(日本初版1967)。ロンドンの家政婦ハリスさんがディオールのドレスに心を奪われ、何とか手に入れたいと奮闘する物語だ。今年の秋に『ミセス・ハリス、パリへ行く』(角川文庫)と題名を改めて復刊され、実写映画も公開されたので、併せて楽しんではいかがだろうか。