フランシス真悟「Exploring Color and Space-色と空間を冒険する」(茅ヶ崎市美術館)レポート。作品と光が調和する展覧会を、アーティスト、担当学芸員と見る

1980年代の初期作品から新作まで約100点が一堂に集結。神奈川県の茅ヶ崎市美術館で6月9日まで開催中のフランシス真悟「Exploring Color and Space-色と空間を冒険する」をレポート

フランシス真悟 《Bound for Eternity(magentablue)》 撮影:坂本理

鎌倉とアメリカを拠点に活動する芸術家、フランシス真悟の国内初となる美術館の個展「Exploring Color and Space-色と空間を冒険する」が、神奈川県の茅ヶ崎市美術館で6月9日まで開催されている。天候や時刻により刻々と佇まいが変化する新作が多数展示される本展をフランシス真悟、担当学芸員・藤川悠(茅ヶ崎市美術館)のコメントとともに展望する。

フランシス真悟は1969年生まれのアーティスト。日本におけるヴィデオ・アーティストの草分け的存在、出光真子を母親に、アメリカ抽象表現主義の画家、サム・フランシスを父親として、アメリカと日本で育ち、現在も二拠点で活動している。本展は1980年代の初期作品から新作まで約100点の作品が一堂に会する。

会場風景

展覧会は3つの展示室を使った全6章構成。第1章「Infinite Space インフィニットスペース|無限の空間」、第2章「Interference インターフェアレンス」の大部分の出品作が、同館の展示室にあわせて制作された新作だ。「作品だけでなく、その空間をどのようにするか、そのとき人がどのように作品を見るかを大切にしています」とフランシス真悟は本展のために手がけた新作について語る

第1章「Infinite Space インフィニットスペース|無限の空間」風景

第1章「Infinite Space インフィニットスペース|無限の空間」では、「Infinite Space」を展示する。半透明の油絵の具を15~20層重ね、平面であるのに奥行きも感じられる作品だ。「色彩そのものを絵画の主題としています。画面の下部に入っているラインは、空間に緊張感をもたらしています」(フランシス)

第2章「Interference インターフェアレンス」風景

続く、第2章「Interference インターフェアレンス」は、この美術館の特徴を活用した「Interference」が並ぶ

茅ヶ崎市美術館は、展示室に光が降り注ぐことが特徴の美術館です。従来からこの自然光を生かした展示企画を考えてきました。そのなかで、フランシス真悟さんの作品はこの展示室の光ととても調和するのではないかと考え、お声がけしました」と話すのは本展を企画した茅ヶ崎市美術館の学芸員、藤川悠。

会場風景

「Interference」は、顔料に含まれる粒子に光が反射し、見る人の立ち位置や視線の高さなどで見え方が変わる作品だ。「午前中の光、夕方の光、晴天の日、曇の日などで見え方が変化します」と作家。「フランシスさんに展覧会の依頼をしたとき、陽の光が明るくなる春先の展示をぜひお願いできればと思い、この時期の開催となりました」と藤川が話す通り、湘南の明るい陽光が作品をより美しく引き立てている。

フランシス真悟 《Radiant Reflections(goldenblue)》

そのなかでも《Radiant Reflections(goldenblue)》は茅ヶ崎の海をイメージして制作されたものだという。粒子の粒をほかの作品よりも大きくし、海のきらめきを表現している。フランシスは「日本、湘南の海は色が濃いんです。そして、波が引いたときの水面のきらめきがとても大きい。その光を表現したいと思い、この作品は顔料内の粒子を従来のものより大きくしています」と語る。

鑑賞者の目に最初に飛び込んでくる《Starry Radiance》は、展示室のくぼんだ空間に合わせて制作された円形の作品だ。「この凹みの空間を神棚のように使ってみたいと考え、制作しました」(フランシス)

フランシス真悟 《Starry Radiance》

続く第3章「Into Space イントゥスペース|空間の中へ」は、2004年より制作が始まったシリーズ「Into Space」が展示される。「このシリーズでは当初、中央に線を一本引き、そこから細い線を上下に描いていましたが、制作を続けていくうちに線を自分の内面空間のように感じ始めました。直線の幅は次第に広くなっていき、帯状になっていき、このスタイルになります。この線も『Interference』のシリーズと同じく光を反射する絵具を使っています」(フランシス)

第3章「Into Space イントゥスペース|空間の中へ」風景
フランシス真悟 《Into Space (violet-turquoise)》

第4章「Blue's Silence ブルーサイレンス|青の静けさ」で展示される「Blue's Silence」は、フランシスが日本を拠点に活動を開始する2000年に制作された。「日本で暮らし始め、自分が日本のどのような点に興味があるかを考えたとき、以前から興味のあった禅の文化、不必要なものを取り払っていく文化に思い至り、一つの色に絞った作品を制作するに至りました」(フランシス)

第4章「Blue's Silence ブルーサイレンス|青の静けさ」風景
フランシス真悟 《Silent Light(sky)》

2020年頃、ロサンゼルスに暮らしていた作家は新型コロナ感染症ウイルスによるパンデミックに伴うロックダウンのため、アトリエに通うこともままならない状態にあった。第5章「Daily Drawing ディリードローイング」は当時、自宅で描き続けていた作品群を中心にキャリア初期の作品なども展示している。「展覧会では子供たちとのワークショップも行う予定です。完成した作品だけでなく、自分が試行錯誤していた頃の作品や、学生時代のデッサンなども展示しようと思いました」(フランシス)

第5章「Daily Drawing ディリードローイング」会場風景

最終章となる第6章「Bound for Eternity バウンドフォーエタニティ|永遠へ向かう」は、2009年の作品《Bound for Eternity(magentablue)》のみを展示する。「Bound for Eternity」シリーズは、第3章で展示した「Into Space」の前段階で制作したシリーズです。「Into Space」で帯状になっていた線は、この段階ではまだありません。ペインティングとインスタレーションが合体した作品で、絵画に取り囲まれる体験を楽しんでほしいです」(フランシス)

フランシス真悟 《Bound for Eternity(magentablue)》 
フランシス真悟 《Bound for Eternity(magentablue)》

展覧会を企画した藤川は「美術にあまり縁のない人に対して、美術館がどれだけ開いていけるかは、いつも気になっています。フランシスさんの作品は、美術が好きな方々にも、あまり美術に馴染みがない方々にも心揺り動かされるようなひとときをを与えてくれると思っています」と語る。

フランシス真悟 《Bound for Eternity(magentablue)》

絵画を通して光や色の存在を実感させてくれるフランシス真悟の作品を、春から初夏にかけて暖かい光が降り注ぐ湘南で体感してもらいたい。

フランシス真悟

浦島茂世

浦島茂世

うらしま・もよ 美術ライター。著書に『東京のちいさな美術館めぐり』『京都のちいさな美術館めぐり プレミアム』『企画展だけじゃもったいない 日本の美術館めぐり』(ともにG.B.)、『猫と藤田嗣治』(猫と藤田嗣治)など。